1.勇者パーティーを追放される
「おい、フミヤ!今日づけでお前をこのパーティーから追放する。早く出て行け!!」
たった今、勇者パーティーのヒーラー兼荷物持ちを冒険者ギルドにて追放されてしまった。
そもそも、俺は貧しい農村出身で勇者パーティーに入れるとも思っていなかった。
しかし、運が良いのか、神様のいたずらなのか、俺は《癒すもの》という今まで誰も聞いたことも見たこともないスキルを20歳のお祝いとして授かった。
この世界では皆20歳のお祝いとして必ずスキルというものを授かる。
そんな中、俺は物珍しいスキルを手に入れたことで勇者パーティーから声をかけてもらえるようになった。
だが、たった今、そのパーティーのリーダーであるトムに勇者パーティーを追放されてしまった。
「お前のスキルがレアだと他の連中が騒いでいたからお前をパーティーに入れてやったのに、お前はそのレアスキルを使っていない! それに荷物を持たせれば運ぶのが遅い! ふざけてんのか⁉︎ こんな役立たずなヒーラー兼荷物運びはいらねぇーんだよ!! 」
俺の胸ぐらを掴み壁に叩きつけるトム。
その時の顔は鬼のようだった。
端っから俺は用済みだったということか。
物珍しいスキルと聞けば誰だって利用しようと思うのは当然といえば当然。
そんなことに気づかず、冒険者を夢見る俺はまんまと釣られてしまった。
そんな自分の無知、無力さに呆れていた。
そこに追い討ちをかけるようにこのパーティーのメンバーの一人、ローズが言った。
「あんた、本当使えないよね。レアスキル持ちだから入れてみたけどとんだかすスキルじゃない! それに、あんたの仕事は荷物を運ぶだけ。しかも、運ぶの遅すぎ! 舐めてんの? あんたなんか追放されて当然よ、当然!! 」
背中くらいの長さの赤髪をなびかせ、追い討ちをかけたのは弓の勇者ローズ。
ローズはいつもツンツンしていて前から気に食わなかった。
勇者パーティーの荷物持ちとして重い荷物を全身で運び、遅ければ背中を蹴られ、罵声を浴びせられる日々。
よく考えればこんなパーティー、追放されて良かったと思う。
ただ、もう一人のメンバーから追放されたのは精神的にくるものがあった。
「あなたはスキルの使い方が知らないだけかと思っていたけど、どうやら違うようね。ただ、無能なだけ。私達のパーティーにいないでもらえるかな? 」
優しい人だと思っていたカレンは実は冷徹な人間だと今、知ってしまった。
前までは荷物運びが遅くても「気にしなくていい」と言ってくれたこともあり、優しい人だと思っていたのに俺の思い違いだった。
俺は所属していた勇者パーティーの3人から追放を受けてしまった。
1人はリーダーのトム。
剣の勇者で剣さばきはマレイン王国一と言われているほど。
2人目はローズ。
弓の勇者でいつもムカつく発言をする女。
ちなみに、俺はいつもローズをあまりよく思っていなかった。
3人目はカレン。
魔法使いの勇者。
いつも冷静。
それに、黒いショートヘアーに整った顔。
俺はカレンの優しさに少し惹かれつつあったが、たった今、その感情は消えた。
そして、4人目として使えない俺はヒーラー兼荷物持ちとして働いていた。
そう、追放された今となっては過去のことだが。
勇者パーティーを追放されてしまった俺は行く当てがなく、とりあえず今日は宿屋へと向かった。
「あーあ」
宿屋に着いた俺はベッドに横になり、少し大きめのため息を吐く。
明日から何をして生きていこう?
俺は夢だった冒険者パーティーに入れただけで幸せだった。
例え、冷たい態度や重労働をさせられたとしても俺の価値はその程度だと思っていた。
だから、ずっと耐えていた。
だけど、どうして俺はスキル《癒すもの》を使っていないと言われるのだろう?
スキルを発動させるとパーティーメンバー全員のHPを自動回復させ、怪我をしてもすぐに治ってしまう。
俺はこのスキルを最大限、活用していたはず。
なのに、なのに、なのに。
だとしても、ちょっと珍しい名前のスキルだからって我先に取っていった勇者パーティーの連中め。
俺がいつレアスキルだって言った。
勝手な妄想を膨らませた挙句、このザマかよ。
「はぁー」
再び大きめのため息を吐いた。
とりあえず、明日は冒険者ギルドに行こう。
そうでもしてお金を稼がないと生活が出来なくなってしまう。
一旦の目標を決めた俺は外で飯を済ませ、夜にはなってないが宿屋で寝ることにした。
それにしても、あの勇者パーティーの冷ややかな目。俺は絶対に忘れないし許さない。
とりあえず明日、冒険者ギルドでお金が稼げますように。
俺はそう願いながら寝た。
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