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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

義弟の婚約者

僕の好きな義姉には婚約者がいました

作者: 五珠

前作『義弟の婚約者が私の婚約者の番でした』

  『俺だけの君にしてもかまわない?』を読まないと分かりにくい所が多々ありますので、ご注意下さい。


 レイは、めずらしく怒鳴っていた。


 前世での父、現世では母であるロザリアにだ。


「何でだよ! 何で僕のアリシアに、他の(ヤツ)の香りが混じるんだよ⁉︎ おかしいだろう‼︎」


 そんなレイを、ロザリアは涼しい顔をして頬杖をつきながら見ている。


『相変わらずだわ……かわいい!』と思っていることは隠しながら。


 まだ六歳の天使の様な顔をしたレイは、その美しい表情を歪ませてロザリアを睨んでいた。



 レイは今日、やっと、愛するアリアの生まれ変わりであるアリシアに会うことができた。


 本来ならもっと早く会えたはずだったが、母ロザリアがアリシアの父、ウィリアム・ニーズベルグのことを気に入ってしまったから仕方がなかった。


「あたし、魔法なしで落としたいの、だから待ちなさい。ま、そんなに時間はかからないわ」

などと言った為、待つこととなったのだ。


「だいたい、王子との婚約もおかしい」

「あら、気が付いていたの?」


 ロザリアは微笑んでいる。それを見て、レイは確信した。


「やっぱり、お前が何かしたのか……」

「お前、じゃないでしょう? レイ、母さまって呼んでちょうだい。それに、婚約も香りも『私』はやってないわ、友人よ、王宮に住んでいるの」


「はぁ……」


 同じことだろう、と思ったがもう言うのはやめた。


 ロザリアは、六歳とは思えない表情をしているレイを見て、目を細めていた。


「これでも悪かったとは思っているのよ? 王子とアリシアがあんなに親しくなるとはねぇ。まぁ、多少障害がある方が愛は深まるわよ、ね? レイ」


「……そうだね、母さま」


 レイはこれ以上話をしても無駄だと思った。


 ロザリアは、楽しんでいるだけのようだったからだ。



 この人は前世でもこういう人だった。


 前世で、母さんだった女は、俺が成長するにつれ、(レイ)に執着し始めた。

 あれは何だったのか、俺がアリアを好きになればなるほど、母はアリアを憎みだした。

 まるで恋敵かの様に……。


 そんなおかしな母を、父は気に入っていたのだ。

 ロザリアは僕にはよく分からない、変わった人だと思う。



*****



 ニーズベルグ侯爵邸の僕の部屋は、アリシアの部屋から離れた場所にある。

 どうせ母の策略だろう。


 子供の僕が、何かするとでも思っているのか?


「アリシア……」


 今、何をしているのかな……。


 部屋に戻った僕は、窓から夜空を見上げる。

 薄く雲の掛かった月が弧を描いていた。


「障害かぁ、時間がいるなぁ……」


 今はまだ 何も出来ない。


 窓に映る僕の姿は、まだ子供でしかない。


 それに、現世に生まれて直ぐに、母であるロザリアに告げられたあの事。


 アリシアには何一つ、前世の記憶が無いということ。


『生まれ変わった者は普通、前世の記憶を無くすの。でも、生まれ変わりを選べる、力の強い魔人族は全ての記憶を持っていく、私は、その真実を教えてあげなかった』


 赤ん坊だった僕は、ただ聞いているしかなかった。


 彼女が僕のことを覚えていない。

 僕との愛を覚えていない。



 知っていたならどうしただろう?


 いや、それでも生まれ変わりを選択しただろう。


 僕は彼女の側にいたいから……。



*****



 現ニーズベルグ侯爵には、獣人の血が濃く入っている。

 しかし、アリシアは獣人ではない。


 獣人の血が入っているから、獣人が生まれてくる可能性がある⁈

 そんなのはこじ付けでしかない。



 アリシアは人族だ。


 本来、王族と結びつくはずは無かった。

 代々、王族は獣人と人族とで婚姻を結ぶのが習わしだったからだ。

 現国王も他国の獣人の姫と結婚をし、第一王子ユーグリッドも侯爵の虎獣人の娘と婚約している。

 だからこそおかしいと思うのに、誰もその事を気にしていない。


 王宮にいるロザリアの友人とやらは、かなりの魔法の使い手なのだろう。


 大量の人の精神を操るのはかなり面倒だからだ。



*****



 僕は只、待つしかない。


 月日が流れていき、自分が成長するのを、愛するアリシアの横で待つしかなかった。



 義弟として側にいる。

 愛する人には、家族としてしか見てもらえない。


 僕がどんなに好きだと伝えても、家族の愛としか受け入れてもらえない。


 好きだ、好き、アリシア。


 そう思っていても、伝わらない。


 どんなに愛を伝えても、僕はいつまでも義弟のままだ。



 愛する人が、自分ではない男を愛しそうに見ている。

 二人が少しずつ絆を強くしていく、それを感情を押し殺して見ているしかなかった。


 僕にとっては地獄のような日々だ。


 アイツを見ないで、アイツに笑いかけないで。


 アイツを思わないで、僕を……僕だけを見てよ……。


 貴女は僕の、僕だけの人なのに……。

 僕はあなたの義弟じゃない、レイなんだ。


 かつて君が愛してくれた、レイなんだよ。


 君が好きだと言ってくれた金の髪も、碧瞳も……。

 前世と変わらない姿なのに……。


 どうして覚えてないんだ? 思い出してくれないの?



 どうして僕は……今、貴女のレイじゃないの……。


 時折、もういっそあの場所へ連れて行って、閉じ込めてしまおうかと考えてしまう。


 いや、それはダメだ。



 アイツから完全に 離さなければ……。

 そうしなければ、アイツの元へ行こうとするかも知れない。



 ……僕を…思い出して。



**********



 アリシアとレーリックはとても良い関係だった。


 普段はニーズベルグ侯爵邸に来る方が多かったが、レーリックはたまにアリシアを王宮へと呼ぶ事があった。


『今、庭の花がとても綺麗なんだ』


 そう言って、レーリックがアリシアを王宮へと呼んだのは、彼女が十六歳になった頃だ。


 あの日も僕はアリシアと共に王宮に来ていた。


 アイツと二人だけにする訳にはいかない。


 庭に向かう途中、僕は第三王子ローレッドに捕まった。

 コイツは、何かと僕に話しかけてくる煩い奴だ。


「相変わらずキレイだね、アリシア嬢」

「ローレッド様、お久しぶりです」


 ローレッドはアリシアに声をかけて僕の方をチラリと見た。何か話があるのだろう。


「アリシア、先に行っていて。僕も話が終わったら直ぐに行くから」


 アリシアは僕とローレッドの顔を見て察したようだ。


「ええ、わかったわ。それでは、失礼いたします」

「ごめんね、ちょっとレイを借りるよ」


 アリシアはお辞儀をすると庭へと向かった。

 いつもなら離れないし、離さなかった。


 アリシアが王宮の侍女と、アイツが待っている中庭へ行くのを見届ける。長い廊下の先に行き見えなくなった頃、ローレッドが話しかけてきた。


「久しぶりだな。相変わらず、本物の王子の俺よりも王子様のような顔をして。それで? また君は姉さんと一緒に来たんだ?」


「当然だろ」


 僕がアリシアと共に王宮へと来るようになると、年が近いローレッドも、何故か一緒に居るようになっていた。

 そして、コイツは僕が魔人族である事を知っている、只一人の王族だ。


「何の用だよ、戦地はどうした?」


 ローレッドは数年前に王宮を出て、戦地で魔物と戦っている。

 普段は滅多に此処には居ない。

 最近はめったに会うことは無いけれど、僕には特に何も話す事は無い。


 早くアリシアの側に行きたい。


「まぁ、そんなに急かすなよ」


 いつもヘラヘラと笑っているローレッドが、少し真剣な眼差しで僕を見てくる。


「めずらしいな」そんな顔できたのか……。


「長兄の事で頼みがある」


「ああ、ユーグリッド王子か……」


 つい、先日の事だ。

 新年を祝う会でそれは起きた。

 結婚間もなく、仲睦まじかった第一王子ユーグリッドと獣人であるフレイ王女だったが、その宴でフレイ王女に『番』が現れたのだ。


 獣人は番が現れるとそれまでの全てを捨てて番の元へ行く。

 フレイ王女もしかり、もう振り返ることすらなかった。

 ユーグリッド王子の悲痛な顔はまだ記憶に新しい。


 王族としても、別れを選ぶ他無かったのだろう。


「レイ、俺は兄上に幸せになって欲しいんだよ! どうすればいい? 君なら見えるだろう?」


 ……兄上? ユーグリッド? レーリック?

 なんとなく、レーリックだと思った僕は冷たく言い放った。


「……アリシアは渡さない」


 違うんだよぉ〜と、ローレッドはガシガシと頭を掻く。


「あーっもう! 違うよ! アリシア嬢は君の大切な人だと俺は知ってる、分かってる。そうじゃない、このままじゃユーグリッド兄上が不憫でならないんだ。助けてよ!」


「……ああ」


 両手で僕の手を取り、ブンブン振って頼んでくるローレッド。

 家族思いのいい奴なんだろうが。


 ま、僕はローレッドの事は嫌いではない。


 それにコイツは、王宮にいるロザリアの友人のお気に入りらしいから。

 そいつに頼めばいいのに。


「で、見つけて差し出せばいいの?」


 ローレッドは、ユーグリッドに相手を見つけて欲しいと頼んできた。

 僕はその人の運命の相手が見えるから。

 見えるだけじゃない。

 無理に繋ぐことだってできる。


「うーん、直ぐにというのも……もう少し時間を空けた方がいいかも」


 頼みに来た割に、何も考えていなかったらしい。


「獣人ではないかも知れないけれど、それでもいい? 獣人の女がいいのなら、無理矢理繋いであげてもいいけど?」


 ユーグリッド王子は人族だ。

 人族同士ならば、運命の繋がる相手は割と多く見つかる。

 しかし、王族ならば相手は獣人族でなければならないだろう。

 獣人となれば、少しだけ面倒だな……。


 無理矢理繋ぐと言った僕のその言葉に、ローレッドは首を横に振った。


「種族はどうだっていいよ。本当に、兄上の運命と共にある人を頼むよ。レイの方が探すのも上手いって、あの人が言っていたからさ」


 運命と共にある人…か…。


(つがい)』とは香りなのだと以前、僕は聞いた。


 全ての生き物にはそれぞれに、その個体だけが持つ香りがある。その中で同じ香りを持つ者たちがいる。

 たとえそれを感じなくても、同じ香りを持つ者たちは引かれ合う。

 どうしようもなく求め合う。


 逆もある、その者にとって体の奥底で嫌悪を感じれば決して関わり合う事は無い。


 その体の中にある香りを僕は使うことができる。


 わかりやすくしてやることも、同じ香りに変えることもできるのだ。


 一刻も早くアリシアの元へ行きたかった僕は、適当に答えを返した。


「わかった。とりあえず、ユーグリッド王子の髪色の服でも着せといてくれ。目印になるから」


「あっああ! ありがとう! レイ!」


 ローレッドの明るい返事を聞いて、僕はアリシアの元へと急いだ。



 なんだか、嫌な感じがしていたんだ。



*****



 中庭は、たしかに沢山の花が満開に咲き美しかった。

 けれど、わざわざ呼び出す程でもないと思ったが。


 僕はアリシアの元へ行こうと進むが、いつもの如く侍女達が微笑みながら鬱陶しくも話しかけてきて、また時間を費やしてしまった。


 何とか適当に話しを流し、引き留める腕を振り払って、やっとアリシアの近くに行った時だ。



「はっ⁈」


 僕の視線の先に、咲き誇る花の中、キスを交わす二人がいた。


 僕は今、何を見た?



 頬を染めてアリシアはレーリックを見上げている。


 恥ずかしい様な、嬉しい様な微笑みをレーリックに向けている。


 前世ではレイに向けられていたあの笑顔が、なぜ? なぜ? アリシア、どうしてそんな顔でレーリックを見ているの? 違う、違うよ!


 あの表情(かお)は、僕だけのモノだ‼︎


 嫉妬なのか怒りなのか分からない感情が押し寄せてくる。

 体中の魔人族の血が、沸騰する様に熱くなるのを感じた。


 僕の魔力が体から吹き出して、足下の草花を揺らす。




 僕のアリシアに触れたレーリックが憎い……。


『……殺してやる』


 僕の中のドロドロとしたものが噴き出し、ずっと抑え込んでいる感情が溢れてきていた。


『アイツをこの世から消し去ってやる‼︎』


 両手をレーリックへ向けて、消し去ろうとしたその時。

 頭の中にロザリアの声が響いた。


『やめなさい、レイ。あなた、アリシアを壊したいの?』


 壊れる?

 アリシアが? なんで?


『アリシアは今、レーリックを好きなのでしょう?』


 今、レーリックを好き?


 その言葉に、僕は冷静さを取り戻すしかなかった。


 そうだ、今僕がアイツを消してしまえば、アリシアはこの先永遠にレーリックを思い続けてしまう。

 目の前で消えたアイツを、忘れることが出来なくなってしまう。


 それに、アリシアの奥底に入れ込まれたレーリックの香りも消すことが出来なくなる。


 今、アリシアを壊す訳にはいかない……でも……。



 突然、アリシアとレーリックの間を突風が吹き抜け、辺りの花が風に舞い散った。


「きゃっ‼︎」


 立っていられない風に、アリシアが倒れそうになるのをレーリックが助けようと手を伸ばす。


「レイ!」


 いつの間に来ていたのか、義弟のレイがアリシアを抱き止めた。

 突風もだが、急に現れたレイに抱きとめられたアリシアはとても驚いていた。


「姉さん、大丈夫?」

「えっ、ええ」


「花びらが付いているよ、姉さん……」


 そう言うとレイは、アリシアの唇をそっと指先で拭った。



 もちろん嘘だ、花びらなんて付いていない。

 汚されたアリシアの唇を、拭いたかっただけ。


「そっそうだったの? ありがとう、レイ」


 アリシアは何も疑わず、僕には家族に向ける笑顔をくれた。


 けれど、そんな僕の行動をレーリックは訝しげに見ていた。



 レーリックは気が付いているだろう。

 僕が義姉に向けている感情が、家族へのものと違うことに。



********



あの日から二年もの月日が流れた。


 やっと見つけた。

 家柄も程よい獣人の女。

 なかなか可愛いと思うよ?


 ローレッドにも頼まれてしまったからね。

 兄想いな弟を持ってよかったな、レーリック王子。


 僕もそこまで酷いことはしないつもりだよ。


 ……まだアリシアが君を好いているから。


 レーリックの為に見つけ出した、黒豹獣人のマリナ・ライラック伯爵令嬢は、僕の可哀想な婚約者だ。


 僕のことを好きなのに、僕からは決して好かれる事はないのだから。

 何度も僕を求めてきたけど、手を触れたことすら無い。

 触れたくもなかったけれど。


 その彼女を、レーリックの『番』に選んだのは、繋ぎやすかったからだ。


 本当は番じゃないけど、そんな事は大丈夫。

 一緒に暮らしていけば、少しぐらい愛情が芽生えるだろう?


 ただし、無理に繋いだ番の子供は、獣人になるか分からないけれど。

 でも王族が求める『番』と結婚出来るんだから。



 僕はアリシアとレーリックを離すため、番の制度を利用することにした。


 これならば何も問題はない。

 誰にも文句は言わせない。


 未だに僕は、あのキスを許していない。

 嫉妬深いと言われても構わない。

 大切な人に手を出されたんだ、消さなかっただけでもいいだろう?



 ただ、アリシアは辛いかも知れないね。


 まだ、アイツの事を好いているから。

 ごめんね、アリシア。



 貴女を想うと、悲しくなった。


 僕達の目の前で「あなたは私の番ですわ」とマリナが言う。


 ニーズベルグ侯爵邸の玄関で、見つめ合うレーリック王子とマリナ嬢を見て、青い顔をして立ちすくむアリシア。


「――……姉さん……ごめん……」


 僕は貴女のことを想って涙を流す。



 辛い思いをさせてしまったね。


 レーリックとマリナが出て行った後を、目で追うアリシアを僕は見ていた。


 部屋に籠って泣いているアリシアを、側に行って慰めた。


 でもね、これでいいんだよ。

 今は、まだアイツを忘れられなくても、必ず僕が忘れさせてあげる。


 だから、もう泣かないで。

 アイツを思って泣いたりしないで……。


 僕が貴女を愛しているから、好きだと、愛していると何度でも伝えるから……。


 僕しか見えなくなるまで、僕を欲しくなるまで、僕以外いらなくなるまで。


 それから僕は、額に口づけを落として眠らせたアリシアを、ニーズベルグの温室からあの場所へ連れて行った。


 目が覚めて暫くの間、アリシアは僕のことを警戒しているようだった。


 それでもいい、どうせ此処には僕しかいない。


 ここは誰も入ることも、出ることもできない場所だから。


 彼女は部屋の中を見回して、僕に尋ねてきた。


「ここは何処?」

「僕たちの家だよ」


 アリシアはもう一度、辺りを見回すと二人掛けのソファーに目を留めた。


 思い出して……それは、(アリア)が好きだったソファーだよ。


「これ……」


 アリシアは、そっとソファーを撫でた。


「よかったら座って」


 そう、僕はアリシアに頼んだ。

 もう一度、君が座っている姿を見たい。


「ええ」


 ゆっくりとアリシアはソファーに腰を下ろした。

 そして……。


「懐かしい感じがするの? なぜかしら?」


 そう言って、アリシアは微笑んだ。

 その笑みは、怯えのない以前と同じ笑い方。


 なぜだろう、その姿を見る僕の視界は歪んでる。



「レイ、どうして泣いているの?」




****



『このソファー、私、大好きなの! だって、レイの瞳の色と同じだから!』

『僕の瞳はそんなにキレイじゃないよ』

 アリアは俺をジッと見つめる。俺の顔に手を添えて。

『キレイよ、私のレイあなたはすべてキレイだわ、大好きよ』

 そう言うと俺にやさしくキスをした。



****



「レイ、大丈夫⁈」


 僕は泣いていた。


 そんな僕を、アリシアが心配そうに見つめている。


「アリシア、僕はあなたを愛してる」


 君を傷つけた僕を、好きになって貰えるだろうか?


 君の大切な人を、取り上げてしまった僕を許してくれる?


 前世の二人の思い出が残る場所で、僕の中で前世の君と今の君が重なっている。


 今の君は、前世の僕の事は何も覚えていないと知っているのに。


 でも、ごめんね。

 君が僕を嫌いだと言っても、僕はもう君を離せない。


 いつまでも泣いている僕を、アリシアは優しく抱きしめてくれた。

 まるで母親が泣いてる子供をあやすように、何度も頭を撫でながら。



 この場所で暮らしはじめて半年が過ぎた頃。

 ロザリアから話があるといわれた。


「レイ、私ウィリアムを連れて行くから、貴方がニーズベルグ侯爵を継ぎなさい」


 この人はいつもこうだ。


「連れて行くって、何処へ行くの?」

「来世よ。いろいろと大変なことは、友達に頼んでいるから気にしなくていいわ」

「友達? あの、王宮にいる?」

「そうよ、だから貴方は何も心配しないでアリシアと結婚なさい」


 僕はまだアリシアに、愛を伝えてもらっていない。

 そうロザリアに言って、目を伏せた。


「あら、大丈夫みたいよ? 今のアリシアの心は、貴方だけになっているわ」


 本当に⁈

 ロザリアに言われたけれど、僕はまだ自信がなかった。


 だって直接聞いていない。


 それからも僕は、毎日彼女に愛を捧げた。

 

 彼女から、レーリックの香りが何処にも感じ無くなった頃。


 僕はあの時と同じように、もう一度、思いを伝える決心をした。


「僕はアリシアが好きだ」


 アリシアは何も言わずに、僕をジッと見つめていた。


 大きな紫色の瞳には、僕だけが映っている。


「アリシア。僕の、僕だけのアリシアになって欲しい。僕と結婚してくれませんか?」

「………」

「だめ?」


 そう問いかけながら、僕はそっとアリシアの銀色の髪を梳いていく。


 その手を、アリシアの細く白い手が、包み込むように優しく握る。


 微笑む彼女の唇から、僕の欲しかった言葉が溢れた。


「はい、レイ。私もあなたが好き。私を、あなただけの私にしてください」


「……うん…僕の、アリシアにする…から…」


 涙が出て止まらない。

 どうしてだろう、嬉しいだけなのに。


 嬉しくて泣いている僕の涙をアリシアはそっと拭う。


「レイ、私もあなたを愛しています」


「ありがとう、愛してる」


 僕はそう言うと、アリシアにそっとキスをした。



 僕だけの、君でいて欲しいと願いながら。

 僕は何度も何度もキスをした。



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