「マスクの束を君に」
こんなご時世から、生まれた物語。
このご時世、それはいくらあっても足りていることはないとのものだと思う。
コロナウィルスが流行しだしてから、自粛期間を得て第一波、第ニ波、第三波と時は流れている。
それは、洗えるタイプのモノや使い捨てタイプのものもあった。
今や、店頭に溢れてはいるものの、それを巡って諍いも起きたことも最早懐かしい思い出かもしれない……。
「ケホケホ」
思わず私は咳をしてから周りに目を走らせてしまった。
幸い、あまり注目されずに済んだ。
その人たちからは、大分離れていたからだろう。
だが、この季節・このご時世。
咳をすることはまるでタブーのような感じになってしまった。
ギロリと鋭い視線が一気に集まるからだ。
「あの人風邪じゃなくてコロナじゃない?」
「インフルエンザかも」
「嫌だな、咳している」
そう言われているみたいで、怖いことこの上ない。
マスクをしている私でも、注目されたのだ。
これでマスクをしてなかったら、非難囂囂である。
前は、嫌な視線は向けられても、ここまでではなかったのに。
昨年のことを思うと、ガラリと世の中変わったものだ。
「大丈夫か?」
ソーシャルディスタンスを保って歩いていた彼が心配そうに尋ねてくる。
「うん。大丈夫。ホコリが気管に入ったのかも」
私は答える。
なおも、彼は心配そうに私を見ている。
その目に、心配以外の疑念がありそうで、怖い。
安心させるように、ニッコリと笑って見せてから、マスクをしているから口元が見えないことに今更気付く。
また、憂鬱になってきてしまった私だった。
次の日。
こんな時だが、私は誕生日を迎えた。
彼と誕生日デートに出掛ける予定だったのだが、やはりお家デートに変更した。
だって、人込みじゃなくても出掛けていって感染したら怖いもの。
ささやかなご馳走を作って、彼を待っていると。
ピンポーン。
彼がやって来たようだ。
ガチャッ。
「わっ‼」
玄関の扉を開けると、白い物が視界に飛び込んできた。
白い薔薇の花束だった。
「すごいじゃない! どうしたの?」
歓声を上げた私だったが、花束から複雑そうに顔を覗かせる彼に不審がる。
「いやー、そんなに喜んだ顔をされると……」
「?」
「とりあえず、消毒させて」
玄関に置いてある、ハンドジェルの消毒で彼は手指を消毒する。
その間、薔薇の花束は私が持っていた。
そした今更妙なことに気付く。
待って、普通こういうときって薔薇の花束って赤の花じゃない?
やけに花束にしては軽いし。
触ってみると、何かが違う。
むしろこの手触りは、どこかで覚えのある……。
よーく見てみると、白い薔薇の花束に見えた物の正体は。
「マスク⁉」
丸めて、花の形に模したマスクの束だった。
「ね、実用的なプレゼントでしょ?」
私が今度は何も言えないような、複雑な顔をしたのは言うまでもない。
笑えるような、笑えないようなお話です。
しかし、花に模したマスクって作れるのかな……。
挑戦してみる価値アリか?(苦笑)
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。