第96話 タイムリミット
それから数時間が経過して、戦況の様子が人類側にだいぶ浸透してきた。
日本時間では5月2日の深夜であったが、その時間帯にやっているニュース番組はほとんどがこの人類側の勝利を取り扱っていた。
『勝利です!まさに人類が結束し、得られた勝利です!昨日から行われていた「自由の咆哮」作戦は見事勝利を収め、人類は地球の主権を取り戻したと言っても過言ではありません!作戦最終段階に来た際、白の艦艇群による妨害工作が入ったものの、それも無事に退け、人類は静止衛星軌道上に存在するすべての流浪の民の艦艇を撃破することに成功しました!』
こんな調子で、人類が達成した偉業の一つであるというような取り扱い方をしている。
「なんというか、当事者としては、これが本当に人類の勝利であるとは思えないんですよねぇ」
「そんなことは言わない約束ですよ。流浪の民の力を借りているとはいえ、人類も協力して立派にやっている証拠なんですから」
「それはそうかもしれないけどなぁ……」
通話にいる後藤も少し考える素振りを見せる。
そのニュース番組を見ながら、黒島は今回の「自由の咆哮」作戦のことについて考えていた。
「しかし実際、最後の白の艦艇群による妨害が入ってなければ、実質の被害はゼロでしたよね?」
「そうなります」
「ここは白の艦艇群を憎むべきか、それともこっちのことを察したことを称賛するべきか……」
「しかし、これではっきりしたことがあります」
「なんですか?」
「白の旗艦、もしくはそれに準ずる艦艇が、我々のことを監視していることです」
「それはこれまでにもあったんじゃないの?」
「いえ、これまでの監視はあの静止衛星軌道上の艦艇にさせていました」
「そしたら今回の白の艦艇群の襲撃も、あの艦艇が呼び寄せたんじゃないですか?」
「いえ、そうじゃないことは私の勘が告げています」
「勘って……」
生体艦長であるのに、意外とテキトーな所があるなと黒島は思う。
「とにかく、あれはどこかしらから監視をしているはずなんです」
「でも、そのどこかってのが分からないと話になりませんよね?」
「それは、そうですけど……」
そういってレイズは萎縮してしまう。
感覚で言っていると、たまに支離滅裂なことになってしまうのは注意しよう。そう感じた黒島である。
「それと大事な話もあるぞ」
「大事な話ですか?」
そういってトランスも出てくる。
「そうだ。それは君たちのことに関係してくる」
「俺たちですか?」
「あぁ。君たちの本業はなんだ?」
「本業は……、学生?」
そう後藤が回答する。
「正解だ。君たちの本業は学生。故に簡単に時間を取るような真似はしたくない」
「それはありがたいですけど、別に俺たち困るような感じじゃないですけど……」
「黒島君、それは違うよ」
急に後藤が説教を始める。
「いい?大学ってのは入ってから学校を変えることはできないの。最高のパフォーマンスで今発揮できる最高の学力の大学を選ぶべきなのよ」
「お、おう……」
「まぁ、俺が言いたいのはそんな感じのことだ。よって、白の旗艦を撃破するのは、最低でも8月まで。それ以降何かあったら9月までにはすべてを終了させること。夏休みを過ぎたら、そこからはもう本番なんだからな」
「はーい」
そういって黒島は力のない返事をする。
「それを踏まえてだ。白の艦艇群の掃討作戦を実施しようと考えている」
「掃討作戦ですか?」
後藤が聞く。掃討と聞いて、黒島の顔は少しこわばった。
「掃討って、確か白の艦艇群って10億いるとか言ってませんでしたっけ……?」
「え、そうなの?」
初耳の後藤は、思わず驚く。
「確かに、レイズの算出した概算では、その程度いてもおかしくはないという話だ」
「じゃあどうするんですか?現状白の艦艇が出現した所を防衛するような感じで行くしかないですけど」
「それも手だ。しかしそれでは時間がかかりすぎる。そこで、もっと手っ取り早い方法を使う」
「なんとなく嫌な予感がします……」
「敵が休息している所を襲撃する」
「ですよねー……」
しかしここで後藤が、一つの疑問を生じさせる。
「でも10億隻もいるとなると、それなりにスペースを使うよね?そんな場所今まで見たことないけど……」
「鋭いな。そう、通常空間で10億隻も待機させておくなんて阿呆のすることだ」
「じゃあどうするんです?」
「答えは簡単だ。亜空間に閉じ込める。亜空間というのは便利でな。自由自在に拡張出来たりするもんだ」
「つまり、白の艦艇群が収容されている亜空間を見つけ出し、そこを強襲すれば何とかなるって話ですね?」
「そういうことだ。強襲よりも簡単な方法はあるがな」
「なんか不穏そうなので聞くのやめておきます……」
「そうか?いつでも教えてやるぞ」
そういってトランスは不敵に笑う。
こうして、黒島たちにタイムリミットが設定されたのであった。
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