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異次元無双の紅き艦  作者: 紫 和春


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第80話 新技術

 3月2日。

 春も近づいてこようとしている昨今。

 黒島たちは霞ヶ浦基地に足を運んでいた。


「今日は重大な研究成果があるって聞いてるんだけど、一体何かな?」

「白の艦艇に関する内容だったらうれしいんだがな」

「とにかくそれも行ってみないと分かりませんからね」


 そういって、霞ヶ浦基地に入る。

 入ってすぐのところに、案内役の少尉がいた。


「八十野少将より案内役を賜ってきました」

「よろしくお願いします」


 そういって基地の中を歩く。

 いつものように本部庁舎に入り、いつものように会議室に通される。

 そしてそこには、いつものように八十野少将がいた。


「どうも、お二人さん」

「こんにちわ」

「今日もよろしくお願いします」

「さて、全員そろったことだし、始めるとしますか」


 そういって、八十野少将は前に出る。


「えー。今回は今後の戦線において、重大な役割を担う可能性のある発表だ。発表者は東京にあるベンチャー企業のアスクルテックさんだ」


 そういっていかにもITベンチャー系の人が正面に出てくる。


「初めまして。アスクルテックの八木です。今回は知的生命体、流浪の民のとあるデータに関して開発を行いました。その成果発表を行いたいと思います」


 そういってスライドショーを見せる。


「今回、研究開発を行ったデータは、黒の旗艦であるトランス・ボーダーさんから供給された無個人データと呼ばれるものです。この無個人データは興味深いことに、人格がないのです。これは、必要な感情などが一切ないことになります。そこから無個人データというのは、人間の平均的な人格から形成されていることからあたかも人格がないように見えていると考えました。これは逆説的にいえば、平均的な人格のデータから特定の感情や操作を行うことが可能になると考えました」


 スライドショーには、何が書いてあるのか分からず、黒島と後藤はほぼポカンとした状態で聞く。

 一方でスマホの中にいるトランスは興味深そうに聞いていた。


「つまり、私たちはこの無個人データを使うことで、人格を操作できるようになると考えた次第です。そこで私たちはラットやチンパンジーを利用して、この無個人データを行動抑制につなげる研究を行いました。その結果です」


 そういってスライドショーは変化し、何かの映像を映し出す。

 そこにはラットがいて、頭には電極のようなものを装着している。

 そして、画面端に表示されている「OFF」が「ON」に変わった。

 その瞬間、今までせわしなく動いていたラットが急におとなしくなる。

 そして「ON」の表示から「OFF」に変わると、再びラットがせわしなく動き出す。


「このように、ラットを用いた実験では、その行動に制限をかけることに成功しました。続いてはチンパンジーを用いた実験です」


 そういって同じように頭に電極のような物を装着したチンパンジーがいた。

 チンパンジーは前に並べられた果物を手にとって食べている。

 また画面端に表示された「OFF」が「ON」に切り替わった。

 すると今まで一心不乱に食べていた果物にまるで興味をなくしてしまうように見て取れた。

 また「ON」から「OFF」に表示が切り替わると、再び果物に手を伸ばして食べ始める。


「今回の行動制限は、食欲に関してでした。満腹中枢を刺激して満腹であると錯覚させたんです。これらの実験によって、無個人データを使うことでその行動を抑制することに成功しました。これを用いることができれば、無個人データから逆算して人の行動を抑制する、個人抑制用逆位相システムとして完成させることができます。まだヒトには試していませんが、いずれ来たる流浪の民との戦いにおいて、これを活用することができると考えます」


 そういって、プレゼンが終了する。

 そして八十野少将が再び前に出てくる。


「えー。今回のように、無個人データを流浪の民との戦いに用いることができる可能性があることが得られた。ここでトランスさんにお聞きしたい。実際にこのシステムは運用可能かどうか、判断を委ねたい」


 そこでトランスが出てくる。


「そうだな……。この逆位相システムというものは、まだ人に対して使用したことはないのだろう?」

「えぇ、倫理上の問題で」

「なら倫理が一部通用しない場所で確認作業を行うのはどうだろうか」

「と言いますと?」

「実際に白の艦艇との戦闘において、この技術を確立させるということだ」

「そんなことが可能なんですか?」

「今の所、制限などはあるか?」

「えぇ。直接電極を頭部に貼り付ける必要があるんです」

「なら問題はない。これまで白の艦艇の残骸を確認しているなら分かっていると思うのだが、流浪の民の艦には一隻につき一人の生きた人間がいる。それは全身に電極を張っているようなものだ」

「そうなんですか?」


 思わず黒島が驚いて聞いてしまう。


「もちろんだ。現在の俺の様子はこんな感じだ」


 そういって、黒島のスマホには蛍光色に彩られたガラス管に入った、人間の様子を見させられる。それはまるでSF映画に出てくる培養液のようなものだ。

 そしてそのガラス管の中には、スマホに映っているトランスと同じ人間が、まるで眠っているように培養液の中に浮かんでいた。


「流浪の民の艦はすべからくこうなっている。例外はない」


 それをアスクルテックの八木も興味深そうに見ている。


「それで、そのシステムとやらは遠隔で操作することは可能か?」

「えぇ。理論上は」

「なら問題はない。電波によって遠隔操作でどうにかなるだろう。その辺の調整は任せてくれ」

「ならお願いします」

「あぁ。その代わり、君たちはしっかりシステムを完成させてくれ」

「そのシステムなんですが、実は完成状態にありまして」

「そうなのか。なら話は早い。早速橙の艦艇に組み込むとしよう」


 そういって一行は滑走路へと向かう。

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