第78話 被害報告
数分ののち、レイズはジーナを連れて紅の旗艦へと戻ってくる。
「私が蒼の旗艦の生体艦長、ジーナ・シェリー」
「あの堅物ジーナが、レッド・フリートに加入することになるなんてな」
「まったく、世の中何があるか分からんな」
そんなことはどうでもいいような顔をしたジーナが黒島と後藤の方を見る。
「この二人は?」
「祐樹さんと梓ちゃんは私たちレッド・フリートの人類代表よ。操縦と攻撃は主に祐樹さんが担当してて、梓ちゃんは補助に回ってもらってるわ」
そう紹介された二人に、ジーナは近寄っていく。特に黒島の方に向かって。
「な、なんですか?」
思わず黒島は体を後ろに下げる。
「あなた、祐樹って言ったわよね?」
「えぇ、まぁ。はい」
「私、あなたのことが好きみたい」
「……は!?」
突然の告白。それには一同大変驚いた。
「ななな、何を言ってるですか!」
「そそそ、そうですよ!」
当人が一番焦っているが、なぜか同調して後藤も焦っている。
「ちょ、ちょっと!祐樹さんは私のもの何ですからね!」
それに合わせてレイズも衝撃的なことを口にする。
それを横目で見ていたトランスとロビン。
「いやはや、面白くなってきたな」
「ヒュー!モッテモテ!」
「いや、トランスさんもロビンさんもそんなこと言ってないで助けてくださいよ!」
こんな押し問答が数分間続く。
お互い少し冷静になって、現状を見ることにした。
「パリを覆っていたバリアの展開解除は?」
「もうしてる」
「パリ市街の被害は?」
「相当だな。エッフェル塔の倒壊のほか、砲撃によって被害を被った家屋も多い」
「それに併せて被害者数もかなり上っているかもな」
「どうしましょう……。こんなに被害を出しちゃって……」
黒島は困ったようにレイズに聞く。
「そうですね……。こうなってしまった以上、やることは一つ」
そういって胸を張る。
「トンズラしましょう!」
黒島は思わずずっこけそうになった。
「何の責任も負わないつもりですか!せめて建物の損傷を直すとか……」
「私たちの艦にはそんなものは載っていません。ならばせいぜい救助の邪魔にならないように、トンズラするのが一番です」
「そんな……」
レイズの言葉に、後藤は言葉を失う。
しかし、その言い分も一理あることは黒島も承知だ。
「それに、国連総会で、レッド・フリートの行動原理について制定されたことがあるんです。『レッド・フリートの活動は、人類とレッド・フリートの構成員の善意に基づいて拘束されるものであり、それ以外に見返りを求めてはならない』としています。解釈としては、その文言通り、レッド・フリートの活動は、私たちが善意でやっているものであり、そこに戦闘で発生した傷害はレッド・フリートの責任ではないというものです」
レイズが淡々と説明する。
「つまり、この状況になっても、私たちは何もしなくていいということになります。そういう採択をされているのでね」
「それでも、人としてこの状況を見過ごせないよ!」
そう後藤は訴える。
しかし訴えはすぐに下げられることになる。
黒島が後藤の肩に手を置いたからだ。
「これ以上はやめよう。レイズさんがそういっているんだ……」
「でも……」
「ごめん、後藤。でもこれ以上は俺の中で整理がつかなくなる」
そういって後藤の肩から手をおろす。
後藤もそれ以上何も言わなくなった。
「……あとはこの国の力に任せるしかありません。帰りましょう」
そういって、黒島は紅の旗艦を移動させる。
紅の旗艦をもとの亜空間に戻し、家に帰った黒島。
真っ先にニュースを確認する。
『……こちらパリ郊外から速報でお伝えしています。ご覧のように、あたり一面火災の煙でいっぱいになっています。現地時間22日の10時前にエッフェル塔の直上に、青色の宇宙船のようなものが出現しました。直後、パリ全体を覆うように電磁膜のようなものが展開され、パリ中心部との往来が不可能になりました。その後は世界中の電波が乗っ取られ、レッド・フリートに対して、宣戦布告のようなものを出しました。その後、30分くらいしてからでしょうか。パリ郊外からレッド・フリートの紅の旗艦と思われる艦がやってきて、いとも簡単に電磁膜を通り抜けていきました。その後の様子は外から見る限りでしたがビーム攻撃によって街が副次的に破壊されていく様子が見て取れます。その後電磁膜が解除され、被害の詳細が分かるようになりました。上空からの映像です。パリの象徴的な建造物であるエッフェル塔が折れ曲がって倒壊しています。また市街地のほうでは、攻撃の跡でしょうか。大規模な火災がいくつも確認できます。またご覧いただけますように、シャン・ド・マルス公園には2隻の宇宙船の戦闘によって出たであろう部品がいくつも散らばっているのが確認できます。今回の戦闘で大勢の市民に被害が出ています。現在警察や消防が市民の救助活動にあたっていますが、今回の戦闘で相当数の被害が出たことは間違いないでしょう』
これを聞いた黒島はベッドに入り、そのままふて寝した。
本日も読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価ボタンを押していってください。また、ブックマークや感想も随時受け付けています。
次回もまた読んでいってください。




