第77話 パリの戦い 後編
黒島はもう一度、接近戦を仕掛けることした。
「こっちも外装ギリギリの所でバリアを展開しよう」
「難しいけど、分かった」
今度は、目に見える形のバリアの展開なしに突っ込む。
こちらがバリアを張れば、相手も倣ってバリアを展開することになるかも知れないからだ。それ以外に、ノーガード戦法というものもある。いわゆる考えなしの突撃のようなものだが、余計なエネルギーを使わずに済む。
そんな訳で、バリアを最小限展開して突っ込んだ。
蒼の旗艦もそれに応じるようで、目に見える形のバリアを展開してこない。
黒島は軌道を微調整しながら、蒼の旗艦に突っ込む。
下からアッパーカットを繰り出すように、突撃寸前に艦首を上に突き出す。
姿勢を持ち直した蒼の旗艦にとってみれば、この状況で艦底からこすり上げるように艦が突出してくるのは危機的状況だ。
そして衝突する、バリアは機能しているようで、衝突によって艦がへこむようなことはなかった。
しかし、これでもまだ足りない。
「艦首砲発射!」
黒島は艦首砲による攻撃を行った。
しかしそれは、まるでバリアに吸収されるように消えていった。
「な、なんだ今のは?」
「ビームが吸収された……?」
「あれは蒼の旗艦のみに装備されている特殊兵装、エネルギー吸収媒体展開装置です」
「エネルギー吸収?」
「ありとあらゆるものはエネルギーで構成されています。そのうちの数種を吸収し、機関に還元することで自身の機関出力を疑似的に上昇させているんです」
「そんな……。そんなことされちゃったら勝ち目ないじゃないですか!」
「それもそうなんですけど……」
「とにかく物理攻撃も!」
そういって、黒島はミサイルサイロを開き、ミサイルを至近距離で発射する。
しかし、これもぶつかったはいいものの、衝突によるダメージや、その後の爆発によるダメージも一切通っているようには見えない。
さらに、そのダメージは蒼の旗艦に吸収され、蒼の旗艦のエネルギーの一部になる。
「こうなったら一旦引くしかありませんよ、祐樹さん」
しかし、黒島は動かない。
「祐樹さん!」
その時、黒島はレイズの方を見る。
「レイズさん、機関の出力の上限はどこまでいけますか?」
「ま、まぁ現状なら出力200%はいけるかもしれませんけど」
「ならそれをすべて狙撃銃に集めてください」
「……まさかあのバリアを破壊するつもりですか!?」
「そのまさかですよ」
そういって蒼の旗艦から一度距離をとるため、後方に下がる。
「しかしいくらバリアが薄いからといって、エネルギー吸収装置に吸われたらそれだけ問題ですよ!」
「とにかく、エネルギー出力を上げてください!」
その考えに不服ながらも、レイズは機関の出力を上昇させる。
「二重銃身回転式狙撃銃起動!圧力上昇!」
「機関出力上昇、189%!なお上昇中!」
その行動を察したのか、蒼の旗艦はバリアの展開を最大にまで行う。
しかし、その行動は予測済みだ。トランスが補助になって、バリアの周波数を特定し、それをバリア発生装置を経由して狙撃銃に情報を送る。相変わらずメインコンピュータからはエラー構文を吐き続けているが。
そして、再び最初に相対したようになる。
「狙撃銃、発射!」
出力を上げた狙撃銃が、まっすぐ蒼の旗艦に向かって飛翔する。
それを蒼の旗艦は真正面から受け止めた。
しかし外側のバリアはまるでなかったかのように透過する。
そしてそのまま艦外装に展開しているバリアに衝突した。
だがそのバリアはエネルギー吸収媒体展開装置と直結しているため、狙撃銃のエネルギーを次々と吸収していく。
「エネルギー吸収できるというのに、無駄なことを……」
そんなことをいうジーナ。
しかしすぐに異変に気が付く。
「エネルギー吸収が追いついてない……!」
そう、エネルギー吸収より、エネルギー放出のほうが上回っているのだ。
次第にバリアにヒビが入っていくようだった。
「このままじゃ旗艦が暴走しちゃう……」
そういって、ジーナはバリアを展開する割合を大きくする。少しでもエネルギーを消費するためだ。
それでもなお、蒼の旗艦の機関に流入するエネルギーは増大する。
そしてオーバーフローしそうになった。
その瞬間、蒼の旗艦は光り輝く。
直後、大爆発を起こす。いや、それは熱エネルギーの放出というべきか。
圧倒的な熱波がパリの街を襲う。周辺の建物は焼け焦げ、火災もあちこちで発生している。
そんななか、蒼の旗艦は地面に衝突するのだった。
「勝ったか?」
「それを言うのは少し早いですね。私が確認してきます」
そういってレイズが紅の旗艦から蒼の旗艦に移動する。
そのままジーナの意識を探す。
すると、下のほうにジーナの意識体があった。
レイズはジーナの体に触れる。
その瞬間、謎の記憶がフラッシュバックしてくる。
白衣を来た男が赤髪の男に話をしている。赤髪の男は話を聞き流しているようだ。そして白衣の男はある巨大なガラス管に手をかける。その中には何かがいた。その何かが何だったのかは分からないが、何か安心するようなものだったのには間違いない。
その瞬間、意識が戻ってくる。
それと同時にジーナの意識も戻った。
「ジーナ……!」
「……私は」
「ジーナ。今どういう状況か分かる?」
「私、あなたと決闘して、それで負けて……」
「そう。そこまで思い出せるならいいわ。艦の状態は?」
「損傷はあるけど、航行に支障なし」
「そう、あとでトランスさんに修理してもらわないと……。その前に、ジーナ。あなた、私たちの所に入るつもりはある?」
「あなたたちの所って、レッド・フリート?」
「そう。どう?」
「……そうね。入ってもいいわ」
「ありがと、ジーナ」
「礼には及ばないわ。私も知りたいことがあるから」
そういって蒼の旗艦は再び浮上した。
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