第74話 布告
それから数日。
太平洋上空では、白の艦艇群やその他もろもろの片付けが行われていた。
もとより宇宙ゴミの問題があった地球軌道上では、物質浮遊技術が実用化されていた時からその構想は存在していた。
宇宙空間で自在に船を動かし、片っ端からゴミを回収できるような、夢の艦艇。
それが、物質浮遊技術を保有する各国政府の主導の元、民間で建造され、そしてこのように回収することが可能になっているのだ。
では、回収されたゴミはどうしているのか。
通常のゴミであれば、大気圏に突入させて処分するなり、地上で再利用するなり手段はある。しかし今回の相手は、地球の技術より進歩している地球外生命体の残骸である。当然、ゴミながら利用価値はある。
そのため、各国がこぞって残骸を回収しているのだ。それでも各国が十分に持ち帰っても、有り余る程に残骸は宇宙空間に浮いている。
そのため各国は協議を行い、可能な限り残骸を回収したあとは大気圏に突入させ、焼却処分することを決定した。
もちろん反対意見も少なからずあるものの、現状はこれが最善の策であることは言うまでもない。
そんなニュースを片手間で聞き流しながら、黒島はレイズの様子をうかがっていた。
先日蒼の艦艇が出現して以来、少し様子がおかしい。それを黒島は気にかけていたのだ。
「ん?なんですか、人の顔をじろじろ見て」
「あ、いや。なんか蒼の艦艇が現れてから、少しよそよそしくなったような気がして」
「そうですかね?私としてはいつも通りなんですが」
「なんか蒼の艦艇……、いや蒼の旗艦と何かあるんですか?」
「そんな、特段何かあるわけではないんですが……」
「じゃあ何か因縁みたいなものでも?」
「……聞かなかったことにしてください」
そういってレイズはスマホから消えた。
「何だったんだ?」
「黒島、あれじゃ女の子が泣くぞ?」
そういって出てきたのはロビンであった。ついでにトランスも出てくる。
「なんでそうなるんですか」
「女の子に対して無理に話するのはNGって聞かなかったか?」
「聞いたことないです」
「それじゃあモテないぞぉ?」
「ロビンさんに言われたくはないんですが」
「それでもレイズにとって言いにくいことは間違いない。それは分かるな?」
そうトランスに悟られる。
「じゃあ二人は何か知っているんですか?」
「まぁ、大した事ではないのだがな」
「そーそー。大した事じゃないさ」
「じゃあ何だっていうんですか」
「まぁ、大きな声では言えないのだがな……」
そういってトランスは顔を画面に近づけて小声でいう。
「レイズの奴、勝手に因縁をつけられてるんだ」
「は?因縁?」
「そ、紅の旗艦と蒼の旗艦、何かと対立させられるもんだから、相手に勝手に因縁つけられているわけ」
「それがなんでレイズさんにも影響あるんですか?」
「それはだな……」
「因縁つけられすぎて疲れてるんです」
そういってレイズが湧いて出てくる。
「うわっ!レイズさん、いたんですか!」
「スマホの裏側にいただけで、艦に戻ったわけではないですよ」
そういって、レイズはトランスとロビンをギロッと見る。
「とやかく人の秘密をいうもんじゃありません」
「それは詫びる。すまなかった」
「ごめんねレイズちゃん」
「はぁ。別にいいんですけど」
そういって、レイズはそっぽを向いてしまう。
そんなレイズのことを、男三人がなだめている時だった。
黒島がパソコンで流していたニュースが速報を報じ始める。
『緊急速報です、緊急速報です。たった今フランス、パリが謎の電磁膜によって周辺地域と隔離されました。繰り返します、たった今フランス、パリにて謎の電磁膜が展開され、周辺地域との行き来ができなくなってしまいました。現在のパリの状態がどのようになっているかは分かっていません。現在のパリの状況がどうなっているのかについては、現状何も分かっていません……』
そういって、ツイッチューブにアップされたパリや郊外の様子が映し出される。
「この電磁膜って……」
「我々流浪の民が使っているバリアそのものですね」
「こんな大規模にバリアを展開できる存在といったら……」
「数える程度しかいないよな?」
その直後、ニュース画面が砂嵐状態になり、謎の女性が映し出される。
『私は蒼の旗艦、ジーナ・シェリー。全世界に対して呼びかけている。紅の旗艦、レイズ・ローフォン。貴女に決闘を申し込む。場所は私が今いる場所。期限は今から24時間以内。以上』
そういって再び砂嵐状態になり、元の画面に戻る。
「決闘……。そうきましたか」
レイズは少し顔をしかめる。
「どうします?応じますか?」
黒島が聞いた。
「もちろんです。彼女とは一度こぶしを交えないといけないですからね」
そういって、レイズは不敵に笑う。
「レイズさんってこんなキャラでしたっけ……?」
「ジーナが絡むと、意外とこうなる」
「女の子同士の喧嘩は穏便じゃねぇぜ」
その後、黒島は後藤にも連絡し、レッド・フリートはパリに向かうことになった。
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