第71話 訓練
その後、国連総会や安保理からも声明が発表された。
それによると、特定の国家がレッド・フリートに対して非合理的な声明を発表しているとして、国連としては、管轄にある日本と共に協力体制を築いていきたいしている。
さらにこれに合わせて、静止衛星軌道上にいる流浪の民の艦、通称No.2を攻撃するための軍事行動、第7次攻撃の容認がなされた。もちろん、レッド・フリートもこの作戦に参加することが通達されている。これはひとえに、レッド・フリートの活動が世界中に知れ渡った要因の一つであると考えられるだろう。
それから約1ヶ月の時間が経過した。
この1ヶ月間、何かあったかと言えば、特にそういうことはなかった。
強いて言うならば、トランスが主導になって無人艦の完成に力を注いでいることだろう。
計画が立案してからほんの数週間もしない程度でゲームの基本的な仕様が決定され、そしてその通りに構築された。実に異例というべき状態ではあるが、これも人類のために戦っている裏方が本領発揮しているということだろう。
さらに、この無人艦の操縦を行うために、日本国内にいるすべての国民に対して、応募をかけた。条件はいくつかあるものの、それをクリアすれば、無人艦を実際に操縦して戦闘に加わることができるというものだ。
実際この広告を打ってから、しばらくは応募のメールが殺到したという。
そして同時接続に耐えられるように、サーバを黒の旗艦に設置したりと、しばらくは静かながら忙しい日々を送っていた。
そんな2月16日。
この日は、実際に建造された無人艦30隻を用いて、簡単な訓練を行うことにした。
選ばれた30人はそれぞれ1隻ずつ艦が与えられ、さらに無個人データの育成という目標も設定された。
もちろん、この無人艦はトランスによって監視されており、何か不穏な動きをした場合は警告、最悪の場合BANされることも視野に入れられる。
そんな中で行われる訓練は、数日後に迫った第7次攻撃の予行演習のようなものだ。
武装系統は完全に取り外しており、データ内部での攻撃判定を行うように仕様変更したものになる。
「諸君、聞こえているかね?」
宇宙空間に整列した黄色の外装をした無人艦に呼びかけるトランス。
実際には接続しているパソコンと通信しているため、ここでの挨拶はある意味儀式的なものになる。
「本日は集まってもらって礼をいう。今回は自分の艦である黒の旗艦に向かって攻撃を加えながら航行してもらいたい。反撃されて轟沈しないように注意せよ。武装の類いは外してあるものの、これは現実に起きているものに他ならない。そこはゆめゆめ忘れるな。今回の目標達成は今目の前にある黒の旗艦に近づくこと。それ以外なら直接接近しても攻撃しても良い。そしてこの行動はデータとして記録され、今後の戦闘用の単一データに活用される。賞金などは出ないが、まぁせいぜい頑張ってくれたまえ」
そういって、トランスは無人艦のロックを外す。
「それでは、これより訓練を始める。状況開始」
その瞬間、無人艦の機関に火が入り、一斉に前進を開始する。またこの様子は日本全国にいる無人艦操縦資格を持つすべてのユーザーが視聴できるようになっている。
30隻ともなると、それぞれ行動がバラバラになる。
最前列を突っ走って、いの一番に黒の旗艦に接近しようとするもの。まずは状況をうかがって群れをなして移動していくもの。スタート位置から動かずに攻撃を加えようとするもの。
様々な反応がある。そして、どれが正解で不正解というわけでもない。正直なところ、黒の旗艦に近づけたものの行動が正解なのだ。
そんな黒の旗艦は、今回の訓練のために、データ上であるものを再現していた。
それは紅の旗艦に装備されている主砲20門だ。それを黒の旗艦の周囲に等間隔で並べている。
いつの日か説明したように、黒の旗艦には自己防衛用の兵装しかなく、まともな攻撃兵装がない。そのため、このようにしてデータ上で再現しているのだ。
さて、現状は、先頭を行く集団と、それを追うようにして移動する集団。そして特に動きもせずに遠距離攻撃を仕掛けてくる集団と対応は様々だ。
その中でも、先頭を走る集団は攻撃を加えながらも、黒の旗艦から来る攻撃も躱していく。なかなか動きが上手い。
しかしそんな中でも、次第に撃沈していく艦も出てくる。
特に先頭集団に追いつけずに、一歩後ろを行く艦がそうだ。かなり密集した陣形を取っているため、上手く立ち回ることができずに、そのまま黒の旗艦の餌食になってしまうパターンが多いようだ。
しかし数が少なくなるにつれて、その動きも機敏になってくる。ちょうど慣れが発生してきた頃合いだろう。
黒の旗艦からの攻撃も難なく躱していく艦もあれば、攻撃が板についてきて的確に攻撃を与えてくる艦もある。
そして目標に設定してあったラインに到着すると、「ミッションクリア」の文字が浮かび上がる。
「おめでとう、目標達成だ。これで今回の訓練を終了する。状況終了。各自艦からのログアウトを忘れないように。もし忘れたらこちらから強制ログアウトさせる」
そんなことを言いつつも、今回得られたデータは貴重であると考えたトランスであった。
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