第67話 リザルト
戦闘が終了したあと、レイズは次のように語った。
「人工的に造り出した亜空間ってのいうは、ある形状では安定的になりやすいのですが、特にドーナツ型は不安定になりやすく、そのまま放置していると、自力で空間を引き裂いてしまう可能性が十分にあります。なので残念ではありますが、この亜空間は通常空間に戻す必要があります」
そういって、レイズはこの亜空間を通常空間に戻す作業を行う。
とはいっても、通常空間で亜空間を生成するのと同じような感じで亜空間を通常空間に戻していく。
そしてそれは、亜空間にあるものが通常空間に出現するのと同義であった。
「うわ、白の艦艇群の残骸がこんなに……」
「仕方ないことです。通常空間で生成された物質が消えることなんてありませんから」
そんな話をしていると、どこからともなく通信が聞こえてくる。
『こちら国連軍宇宙艦隊旗艦エンタープライズ。ただいま全周波数を使って朝鮮半島にいる全避難民に通信を行っている。現在、朝鮮半島は壊滅的な状況にある。国連軍が総力を上げて避難民を救助する。ついては最寄りの避難所、または公共施設に避難されたし。繰り返す……』
このような通信が英語と韓国語によって発信される。
この話を聞いて、黒島たちは思い出した。
「そういえば、ヨーシャーク級が朝鮮半島に落下したんでしたっけ……」
「えぇ。トムボール級爆弾も一緒になってね」
「韓国は大丈夫なの?」
「下を見れば分かりますよ」
そういって、レイズは朝鮮半島を見下ろすように促す。
実際見てみると、朝鮮半島の黄海側にクレーターのようなものが出来上がっている。
これではソウルはもとより、ピョンヤンも大きな被害を被っていることだろう。
「そんな……」
「事実上、我々の敗北です。残念なことに」
黒島はこの事実を重く受け止めていた。
それは、もっと早くこの状況に気が付いていれば、何百万人という被害者を生まなくて済んだかもしれないという自責の念に駆られていたからだ。
しかし、こうなってしまってはもう何もかも遅い。
このような惨劇を繰り返さないことが重要だと黒島は考える。
それからは、国連軍に朝鮮半島平和維持軍が結成され、朝鮮半島における被害者の捜索や難民の支援を行うこととなった。
この状況下では、韓国、北朝鮮両国の政府はまともな対応は取れることなく、また朝鮮半島における被害の実態を報じる報道局もない。唯一報じているとすれば、ほんの僅かに残った通信環境を使って、ツイッチューブに被害の様子を上げている写真や動画がアップされているくらいだろう。
この事件は、のちに「朝鮮半島爆撃事件」として名を残すことになる。その犠牲は韓国・北朝鮮の地図からの事実上の消滅であった。
それから一週間、各放送局は常に朝鮮半島の状況について放送していた。
現場では情報が交錯し、正しい情報が入ってこないこともあった。北朝鮮が中国国境に臨時政府を設置したという情報や、韓国国内では韓国軍が民間人の物資を略奪する事件が多発しているとか、そんな鬱になるようなニュースばかりである。
しかしそんな中でもいいニュースは入ってくる。
それは、黒島たちが戦い、そして残骸となった白の艦艇群から、使えるであろう技術が発掘されたというニュースだ。
その情報はトランスさんのもとにも届いていた。
「そういうわけで、人類側が白の艦艇群から流浪の民の技術の一部を解明した。それに合わせて、我々に対する理解度が深まったというわけだな」
「それ俺たちとなんの関係があるんです?」
「無人艦の建造で理解があった方がやりやすくで良いだろう。何も知らないよりはマシだ」
そんなことを話ながら、ある場所へと向かっていた。そこはJAXA筑波宇宙センターである。
なぜ、このような場所に来ているかというと、黒島たちが会話に出していた白の艦艇群の研究が行われていた所なのだ。最近は流浪の民、特に白の艦艇群の残骸が多く存在することもあり、その研究の一部がここで行われているのだ。
そしてこの日、流浪の民であるレイズやトランスを交え、その技術の確認を行うというものなのである。
はっきりしたことをいうと、今回の黒島と後藤はお荷物ということだ。
その事実を内心察しつつも、黒島たちは目的地へと向かう。
そこは50年以上も昔のロケットを展示している施設で、JAXAのこれまでの歩みなどを展示している。
そんな中でもひときわ目立つ建物である総合開発推進棟に、受付を済ませた黒島たちは入っていく。
入口を入ってすぐの所に、一人の男性がいた。
「ようこそJAXA筑波宇宙センターへ。私、天塚と言います」
「初めまして」
「厳密には初めましてではないんです。ほら、霞ヶ浦基地で説明を受けた時にいたんです」
「あぁ、そうだったんですか」
「ま、世間話はここまでにして、早速中に入りましょうか」
そういって、中を案内される。
その場所はいつものように会議室である。
「さて、ここからはトランスさんの出番ですかな」
「あぁ、そのようだ」
こうして、白の艦艇の技術による発表会が行われようとしていた。
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