第55話 答弁
最初に委員長が宣言する。
「これから質疑に入ります。まずは遠坂俊介君お願いします」
「はい」
そういって、一人の議員が前に出る。
「民主自由党の遠坂俊介です。まずは率直にお聞きします。レッド・フリートとはどんな組織であるか、その活動内容をお聞きしたい」
これに黒島が出るか、悩んだ。
しかし、それより先にレイズが挙手し、質問に答えるようだ。
「レイズ・ローフォン君」
レイズの後ろに待機していた人がモニターを移動し、回答者の演台の前に持っていく。
「質問に答えます。我々レッド・フリートは私の艦である紅の旗艦を中心に、他の旗艦を擁した艦隊で構成されています。活動内容としては、国連軍宇宙艦隊や日本国防軍と共に、敵である知的生命体、通称流浪の民と戦っています」
ここまでは定石通りの質疑だろう。
「続いての質問です。現在、レッド・フリートはその敵たる流浪の民から離反した者たちで構成される、いわば反逆軍のようなものだと認識しています。それはつまり、知的生命体の中から生まれたわけでありまして、これすなわち新たな人類の脅威となるのか、お聞きしたいと思います」
これにも再びレイズが答える。
「つまり、我々レッド・フリートが人類を裏切る可能性があるかどうか、お聞きしているかと解釈しましたのでそのようにお答えします。まず結論から言って、その可能性はないに等しいと言えます。それは、あくまでレッド・フリートの主権はそこにおります黒島が握っています。何か行動を起こす場合、彼を通じて意思表示を行っているため、人類に牙をむくことはないと考えます」
ここで遠坂議員の質問は終了する。
「次に渡辺徹君」
議員が入れ替わり、別の人が質問に入る。
「えー、日本民主党の渡辺徹です。レッド・フリートは、世界各国の軍事力を合わせても有り余る程の軍事力を保有していると思われます。そのような中で、レッドフリートの活動というのは、我が国のみならず、世界各国の安全保障に寄与するほどの重要なものであると我々は認識しています。その辺はどのようにお考えでしょうか」
これには黒島が出る。
「もちろん、重要なものであると考えています。今後も日本政府および関係省庁、そして国際社会と協調していく所存です」
緊張はしていたが、悪くない回答であると黒島は思った。
「続いての質問です。これまでレッド・フリートの皆さんは人類を守るためという大義名分のもと、実に様々な戦闘をしてきたと思います。ですが、そのたびに戦闘が行われた地域では相応の被害を被っているわけですね。実際、個人の延長戦にあると言わざるを得ないレッド・フリートが、この被災地に対してどのような補填なり賠償なりを施すつもりでしょうか?」
これにはレイズが答える。
「それに関してですが、非常に残念ではありますが、我々にはどうしようもないことです。攻撃を受けた国自身が損害を補填するしかありません。我々はあくまで善意に基づいて行動を起こしているに過ぎないからです」
議員が続けて質問する。
「それはすなわち、被災国を見捨てるという形ですか?」
これも続けてレイズが返す。
「見捨てるというわけではありません。我々には攻撃する手段はあっても、人命を救助するための方法がないだけです。そもそも私のいた流浪の民の艦艇には人命救助という概念は存在してませんでしたからね」
「では今後も人命救助などの行為や、損害の補填をすることはないと?」
「する必要性が出てきた場合には行います。その際の手段などはこちらで用意する可能性はあります」
この議員の場合、損害の補填をすることを示唆した証言を取れれば良かったようで、それ以上何も追及してこなかった。
「次に、長浜順子君」
また議員が入れ替わり、今度は女性の議員が出てくる。
「国民第一党の長浜順子です。質問なんですが、レッド・フリートの立場というのはどのようになっているかをお聞きします」
これにもレイズが出る。
「我々は日本国防軍および国連の隷下にあるという認識でいます。日本国や国連の指示があった場合には、その立場で動くことになるでしょう」
少しざわめきが起こる。
日本や国連の指示があれば、その通りに動くことを示唆したからだろうか。
それを確認するように、続けて質問がされる。
「それはすなわち、今後国連や日本政府の指示さえあれば、地球上のどこにでも行くということでしょうか?」
「その考えで間違っていません」
この後、議員はふと疑問に思ったことを質問する。
「先ほどからレイズ・ローフォンさんばかりが回答しているように思うのですが、それはどうしてなんでしょうか?」
それに、レイズが少しあきれたような顔をして答える。
「それは彼らが高校生だからです。このような政治の場には慣れてません。それに、レッド・フリートの主導は黒島が握っていると言いましたが、運営としては私が中心になって行っていることが多いです。そのこともあり、必然的に私が回答する場面が多いということです」
レイズは若干早口で答える。
その迫力に気圧されたのか、議員は身を引いた。
それからいくつもの議員に質問をされる。
そのほとんどをレイズが答え、時々黒島と後藤が答えるという感じである。
こうして、黒島と後藤にとって長い数時間が終わった。
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