第51話 別の亜空間
亜空間に突入すると、そこは紅の旗艦がいる亜空間と似たような場所であった。
「こんな所にいるんですか?」
「レーダーを通常のものに切り替えてもらえれば分かります」
それを聞いた後藤はレーダーを亜空間のものから通常のものに切り替える。
すると、約1万km程度先の所に、何かがいる反応が現れた。
「大きいな、600mくらいか?」
「あれが翠の旗艦、ロビン・ウォットです」
「ロビン・ウォット……」
「全身が高性能の推進機に取り囲まれた、なんとも厄介な奴だ。味方であるうちはいいやつなんだがな」
そう、トランスが遠い目をして言う。
そんなことを言っている間に、翠の旗艦に動きが現れる。
ものすごい勢いで、こちらに向かってきているのだ。
「祐樹さん、回避!」
「ぬぉぉぉ!」
突然のことで、黒島はその場から離れるように横移動する。
すると、先ほどまでいた場所に翠の旗艦が突っ込んできており、そのまま通過した。
「あっぶな。あんな距離空いてたのに、すぐそこまで来てたじゃん」
思わず黒島は冷や汗をかく。
「しかし、チャンスでもありましたね。あそこまで接近していれば、遠隔接触でもして、メモリ内部に侵入できるかもしれなかったですけど」
「すでに実行済みだ」
「さすがトランスさん、仕事が速い!」
「だが、あまり離れすぎていると遠隔接触がうまく行かない。とにかく、今はロビンに近づくことを優先してくれ。接触はこっちから勝手にやる」
「分かりました。というわけで祐樹さん、あとはお願いします」
「了解」
黒島は一呼吸置いて、目標の翠の旗艦を見やる。
翠の旗艦は一定の距離を開けて、紅の旗艦の前をうろついていた。
黒島は最初から全速力で翠の旗艦を追いかけ始める。
翠の旗艦もそのことに気が付いたのか、全力で逃げた。
「待て!」
翠の旗艦を追いかけるため、さらに機関の出力をあげる黒島。しかし直後に機関の出力限界が来てしまい、速度は頭打ちになってしまう。
「レイズさん!機関出力の解放を!」
「仕方ないですねぇ」
そういって、出力の上限を解放する。
速度がさらに上昇したことで、紅の旗艦は翠の旗艦に一歩近づく。
しかし、それでもなお、翠の旗艦の元には遠く及ばない。
「くそ、何かいい手段でもあれば……!」
「なら普通に攻撃しちゃってもいいのではないか?」
トランスが答える。
「そうか……。よし、主砲斉射!」
艦首砲からビームが飛び出していく。
この攻撃で、翠の旗艦は軌道変更を余儀なくされる。
黒島はその方向へ、最短距離で移動するように進路を変更する。
さらに黒島は、ミサイル攻撃も行う。これは翠の旗艦に命中させるのではなく、翠の旗艦の進路を妨害するように誘導させるのだ。
後藤にも手伝ってもらい、100発以上のミサイルを誘導する。
ミサイルの軌道に合わせて、翠の旗艦も軌道を変更する。
さらに翠の旗艦を追い抜いたミサイルはその先で自爆し、さらに翠の旗艦の進路を妨害する。
そのような行動を取ることで、ジワリジワリと紅の旗艦と翠の旗艦の距離を縮めていく。
そして、その距離を保つこと数分。
「メモリ内部に侵入した!」
トランスさんから待望の声が上がる。
「それで、この後はどうするんです?」
「私が直接翠の旗艦に出向いて交渉します。紅の旗艦は皆さんにお任せします」
「了解!」
「分かった!」
「任された」
そういうと、遠隔接続された通信を使って、レイズはロビンの元へ向かう。
翠の旗艦内部は真っ暗闇であり、視界はゼロだ。そんな中でも、レイズは迷うことなく進む。
進んだ先にあったのは、一筋の光だ。
そこに、ロビン・ウォットはいた。
古い言葉でいう、パリピのような恰好をした青年が、そこにいる。
「お、誰かと思えばレイズちゃんじゃーん。オッスオッス」
「相変わらずですね、ロビン」
「硬い、硬いよレイズちゃん。昔は一緒にヤンチャした仲じゃん」
「それはそれ、これはこれです」
「っそ。それで、今日は何の用事で?って言っても答えは一つしかないか」
「我々レッド・フリートの仲間になってください」
「そう簡単に言われても、素直に『はい』とは言えないよね?」
「それもそうですね」
「それにさぁ、上から言われちゃってるんだよ。『レイズは脅威そのものだ』って」
「それはどういう意味ですか?」
「そのまんま、正直50年前から言われてたよ」
「そんなこと、私には一切言われてない……」
「愚痴みたいなものだったしね。それに、レイズのこと、少し知ってるみたいだったし」
「私のこと?」
「正直俺もそのこと知らないんだけどさ。……レイズ、一体何を隠しているんだ?」
「私が隠してること……?」
その時、レイズに頭痛が走る。それはまるで、記憶の底を掘り起こされているような感覚であった。ついにレイズは倒れこむ。
その姿を見ていたロビンにも異変が走る。
「な、なんだ。なんだこの感覚は!」
ロビンは体に何か粘着質のような何かがくっついてるような感覚を覚える。
そしてその粘着質のような何かは、ロビンの四肢を昇り、頭へと向かっていった。
「くそっ!やめろぉ!」
そしてロビンは気絶し、レイズと同じように倒れこんだ。
そのころ、外では、翠の旗艦はその動作を停止させ、等速直線運動をしていた。
その横で、紅の旗艦は並走するようにつけている。
「トランスさん、これ大丈夫なんですかね?」
「多分大丈夫だ。よほどのヘマをしなければな」
翠の旗艦内部では、レイズが目を覚ます。
そこには、倒れこんだままのロビンの姿があった。
レイズはロビンのそばによって、状態を確認する。
どうやらメモリ上には問題はないようだ。
その時、ロビンは目を覚ます。
「……お、かわい子ちゃんに介抱されてら」
「殴りますよ」
「ジョーダン、ジョーダンだから!」
「それで、答えはどうなんですか?」
「答え?」
「レッド・フリートに加わるかどうかって話ですよ」
「……もちろん!一緒にやらせてもらうよ!」
「そうですか。でしたらさっさと艦を止めてくださいね」
「了ー解っ」
すると直後、艦がゆっくりと減速する。
紅の旗艦もそれに合わせて減速した。
そして完全に停止すると、レイズが紅の旗艦に戻ってくる。
「お待たせしました」
「お疲れ様です、レイズさん」
「お疲れ様」
「それで、成果はどうなんだ?」
「何とかなりました。二人に紹介します。翠の旗艦の生体艦長、ロビン・ウォットです」
「うぃーす!ロビン・ウォットでーす!」
その瞬間、紅の旗艦の空気が固まる。
「こんな人なんですか?」
「なんか面倒くさそう……」
「二人とも辛辣だな!それでもヨシ!」
「全く、初見殺しだな、ロビンよ」
「お、トランスのおっちゃんも久しぶりじゃん!」
「そのテンションの高さは全く変わっていないようだな、ロビン」
こうして、レッド・フリートには紅の旗艦、黒の旗艦、翠の旗艦が揃ったことになった。
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