第5話 問題発生
この日も学校が終わり、帰宅しようとしていた黒島。
しかし、スマホのバイブレーションに誘われるように、学校のトイレの個室に入っていった。
「今度はなんですか?」
黒島は怪しまれないように、声を最小限にとどめてレイズと会話する。
「実はあの後のことなんですが、少々問題が発生しまして……」
「問題?どういうものですか?」
「先ほどの白の艦艇からの攻撃、意外にもダメージが蓄積しているようでして、この後すぐ行われるような戦闘は問題ない感じなんですが、時間が経過すると、だんだんダメージが大きくなる予測が立っています」
「つまり、どういうことですか?」
「可及的速やかに修理をしないと、今後の戦闘に支障をきたす恐れがあるということです」
「それはマズいじゃないですか。それで、どうするんです?まさか地球の造船所を使うわけにはいかないでしょう?」
「いえ、一応考えはあります」
「どんな考えですか?」
「実は私自身である紅の旗艦と、流浪の民の総旗艦である白の旗艦以外に、他の旗艦というものが存在するんです」
「それで?」
「その中には、黒の旗艦という、後方支援を中心とする旗艦が存在していまして、その艦なら、旗艦級の艦も直せるはずです」
「でも敵の手の内にいるわけでしょう?どうするんですか?」
「とりあえず作戦は私が考えます。祐樹さんは私の作戦に乗っかってくれれば問題ありません」
「さいですか」
とにかく、トイレの個室に長居するのはよくない。
すぐにトイレから出た。
その時である。
「あれ、黒島君」
「ん、後藤か」
黒島に声をかけたのは、隣のクラスの女子の後藤梓である。
1年生の時に前後の席となって以来、黒島としては唯一学校で話す女子となった。
2年生となった現在は、お互い別のクラスになったものの、今でもよく話す仲である。
「後藤は今帰りか?」
「うん。黒島君は?」
「俺も今から帰るところだよ」
「そっか」
そんな感じで、しばらく話し込んでいると、黒島のポケットでバイブレーションがなる。
「あ、学校で携帯使ってる。いけないんだー?」
「いや、気のせいじゃないかな……?」
「ふふっ、私もたまに携帯使ってたりするからおあいこだね」
「あ、あぁ、そうだな」
「じゃ、私そろそろ帰るね。じゃあまた明日」
そういって、後藤はそのまま昇降口の方へと向かっていった。
黒島はそれを見送ると、自分も帰るべく、荷物を持って帰路に着いた。
その道中、なぜかレイズは若干拗ねているのを黒島は知る。
「何やってるんですか……?」
「いいもーん、そーやってイチャついてるところ見せつけるんだから」
「なんの話ですか……?」
その機嫌も、黒島の家に着く頃には治っていた。
そして夜、黒島の部屋で、レイズは高らかに宣言する。
「やはりこれしかありません!これなら問題ないでしょう!」
「あの作戦、思いついたんですか?」
「はい。いくつかパターンを変えてやってみたんですが、これしか方法がないと判断しました」
「それで、その方法とは?」
「ずばり、黒の旗艦に乗り込むしかありません!」
それを聞いた黒島は、思わずズッコケそうになった。
「それ本気で言ってます?」
「もちろん本気です」
「軍事には疎いんですけど、それでも敵艦に乗り込むというのは結構きついと思うんですけど」
「問題ありません。黒の旗艦は後方支援に徹するため、必要最低限の兵装しか持ち合わせていません。『攻撃が最大の防御』がモットーの私に言わせてみれば、赤子の手をひねるより簡単ですよ」
「それ信用できますかね……」
とにかく作戦は決まった。
あとは実行に移すのみである。
そのタイミングは、レイズの指示次第であった。
今は静かに過ごすのが先決だろう。
そういって、黒島は眠りについた。
その数時間後である。
「祐樹さん、祐樹さん、起きてください!」
スマホのアラーム機能と共に、レイズの声が響き渡る。
「なんですか、こんな時間に……」
「黒の旗艦が亜空間のある座標に接近してきました。今がチャンスです」
「今夜中の何時だと思っているんですか……」
「さぁ、行きましょう!」
そういって黒島は、有無を言わせずに紅の旗艦へと連れ込まれた。
「さて、通常空間の往来はいい感じにできていると思うんですけど、今度は亜空間を飛び出す特別な航法をやってもらいます」
「特別な航法?」
「はい、亜空間を利用して星間や次元を飛び越える4次元星間航法、その名もスタードライブ航法を行ってもらいます」
「簡単に言ってくれますねぇ」
「まぁ、言っても分からないと思いますけど、原理だけは説明させてもらいますね」
そういって、レイズはモニターを使用して、概要を説明する。
「スタードライブそのものは、地球で提唱されているアルクビエレ・ドライブと実質同じです。簡単に言ってしまえば、空間を切り取って、空間そのものを光速を超えるスピードで移動させてしまえばいいんですから。この空間の切り取りや、貼り付けを可能にしているのが、流浪の民の艦艇に標準装備されている無限機関になります。これは余剰次元に流れ込んでいるエネルギーを取り出すことで、事実上の無限機関としています」
グラフや図を使って説明されるものの、黒島にとっては理解しがたいものである。
「……つまり空間を自在にコントロールできる能力がスタードライブってわけですか?」
「超簡単に言ってしまえばそうなりますね」
「なるほど、それなら理解出来た」
「さぁ、早速行ってみましょう!」
黒島はあまりやる気が出なかったものの、ここまで来たからにはやるしかないと考える。
黒島はバンドを頭に取り付け、意識を集中させた。