第44話 入場
当日、12月8日。
黒島たちは制服に身を包んでいた。
目的の霞ヶ浦基地に向かうためだ。
「って、ほんとに制服でよかったんですか?」
黒島は部屋で制服を身に着ける。
「祐樹さんたちのドレスコードでいったら、持ってるのこれくらいしかないでしょう?」
「まぁそうですけど」
そういって、時間を確認する。今の時刻は、9時42分だ。
「とりあえず靴を持って……」
いったん紅の旗艦のコックピットにワープする。
そして、そこから目標地点に移動するのだ。
「よ、後藤」
「おはよう黒島君」
「準備はいいみたいだな」
「うん」
「それではいいですか?」
レイズは二人に確認する。もちろん、問題はない。
レイズは、そのまま二人をワープさせる。
気が付いたときには、霞ヶ浦基地正面口に立っていた。
「誰だ?」
黒島たちの様子に気が付いた門番が、こちらの様子をうかがっていた。
それを、正面口にいたとある男性が見て、こちらに寄ってくる。
「黒島君かね?」
「はい。そうですが……」
「私が山田だ。今日は付き添いとして参上した」
「はぁ、よろしくお願いします」
そのまま黒島たちは山田の案内の元、基地の中へと入っていく。
基地に入ってすぐの所で、ある人物が待っていた。
「山田さんと黒島さんでよろしいでしょうか」
「えぇ」
「私、広報の山本少尉です。本日は私がこの基地と司令官に案内します」
「よろしくお願いします」
「では行きましょうか」
そういって、黒島たちは山本の案内の元、基地を歩き回る。
「まず、霞ヶ浦基地は宇宙軍が管轄する基地となっています。北の方には、空軍と民間が共同で利用している百里基地があります。過去、この百里基地を空軍と宇宙軍で共同で活用しようという計画がされていたことがありましたが、既存の土地の狭さや、用地確保の困難さなどがあり、現在のように霞ヶ浦湖上に基地が建設されました。この建設には、過去羽田空港のD滑走路を施工した会社などが行って、東西に2km、南北に3km程度の広大な土地を確保することに成功します。そして、現在は司令塔や格納庫がズラリと並び、日本で3つしかない宇宙軍の基地として稼働しています」
「その宇宙軍とやらも、先までの総攻撃によってほとんどが壊滅状態ってわけか」
山本の説明の横で、山田がぼそりとつぶやく。
その言葉は山本に届いたかもしれないが、あえて無視して先を行く。
「現在、この霞ヶ浦基地に所属するのは巡航艦瑞鶴、巡航艦大淀、巡航駆逐艦綾波、巡航駆逐艦高波の4隻です」
「……あれ?自分の記憶が正しければ、ここにいる4隻って……」
「お察しの通り、日本国防宇宙軍の全戦力がここに集結していることになります」
「そんな……」
後藤は絶句するような表情を浮かべる。
「これも仕方のないことです。最盛期には20隻もいた艦艇が、いまや5分の1にまで減少してしまっているのですから」
そういうと、山本はある建物に入る。
「こちらへどうぞ」
そのまま会談を上がり、ある一室に招かれる。
「ここが司令官室になります。どうぞお入りください」
そういって、山本は扉を開ける。そこには、一人の男性が鎮座していた。
「よく来たね。君たちがレッド・フリート、だね?」
「はい。黒島と言います」
「後藤です」
「まぁ、硬くならずに、ここに座りなさい」
そういって司令官はソファを指さす。黒島たちは指示に従い、ソファに座った。
「さて、改めて自己紹介しよう。私は八十野翔だ。ここ霞ヶ浦基地の司令官をしている。階級は少将だが、まぁ君たちにはあんまり関係ないかな」
「司令官自ら直々に挨拶とは、これは珍しいものを見たな」
後ろに立つ山田がはっきりという。
八十野はその声に反応せず、黒島たちに語りかけるようにいう。
「それで、例の宇宙人というのは誰になるのかな?」
「私です」
黒島がスマホを取り出す。そこにはレイズが真剣な表情で立っていた。
「君がレイズ・ローフォン?」
「えぇ」
「そんなに緊張しなくてもいい。君たちとは話をしに来ただけだからな」
「それで、話というのは?」
「そうだな。そこの山田って人からレッド・フリートの所属や管轄を日本にするという話は聞いたと思う」
「はい」
「正式には、ここが君たちレッド・フリートの母港になるって話だ」
「これはなんとなくわかっていた話ではありますね。それで話はそれだけですか?」
レイズが早めに切り上げたそうにしている。
「いや、もしよかったら、基地上空に紅の旗艦……だっけか。それを呼び出してほしいのだ。この基地上空にね。そして、よかったら降りるところまでやってみないか?」
「それは不可能ですね」
「……どこまでが不可能なんだ?」
「艦を基地に降ろすところですよ。何しろ、紅の旗艦は単純に大きいですからね」
「その大きさというのは?」
「ざっと900mは超える程ですよ」
「900!?それは無理かもしれないな……」
「それに、紅の旗艦は地上に降り立つことを想定してません。そのため、着陸ギアのようなものも存在しないのです」
「そうだったのか。これは失礼なことを言ったな」
そういって八十野は素直に頭を下げた。
「それでも基地上空に現すことは可能か?」
「それならまぁ、可能ですけど、近隣住民がなんていうかわかりませんよ?」
「それでもかまわない」
「わかりました」
直後、スマホからレイズが消えたと思うと、外の様子が暗くなる。
窓の外を見てみると、そこには紅の旗艦が鎮座していた。
「こ、これが紅の旗艦……。なんと素晴らしい……」
そのまま数分間居続けたあと、ワープをして消えた。
すると、黒島のスマホにもレイズが戻ってくる。
「これでいいでしょうか?」
「あぁ、満足だ」
私的な理由で紅の旗艦を呼び出したのではないか、と黒島は訝しんだ。
本日も読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価ボタンを押していってください。また、ブックマークや感想も随時受け付けています。
次回もまた読んでいってください。




