第36話 学校にて
紅の旗艦を元の亜空間に戻して、黒島たちは無事に家に帰ることができた。
家に帰ったころには、すでに時刻は午前3時になろうとしていた。
日曜日ではあるものの、このまま徹夜するのも気が引ける。黒島は制服からパジャマに着替えると、そのままベッドへともぐりこんだ。
それから幾分か時間が過ぎて、11月5日の月曜日。寒さも本格的に襲ってくるようになった季節。
黒島はいつもの通りに、学校に向かっていた。そして校門が見えてきたとき、なにやら人が校門の前にたむろしているのを見つける。どうやら報道関係者のようだ。
そこには、学校の事務員のような人もいるのが見える。なにやら記者会見のような感じだ。
黒島は、遠くから校門前の様子を伺ってみる。
「そのような事実関係は今のところ確認できてません」
「そんなはずはないでしょう。現にそちらの高校の制服を来た男子生徒と女子生徒が国連総会に出席しているんですから」
「ですから、そのような事実は我々としても認識はしていません。仮にこれが本当だとしても、我々としては生徒を守るだけです」
「こちらには証拠があるんですよ!」
「それを脅しに使うようなら、我々としても法的措置を取らざるを得ませんよ」
そのような会話をしているのが耳に入る。
黒島は頭を抱えた。
「あちゃー。そうなったか……」
「どうかしたの?」
ちょうどそこに、タイミングよく後藤がやってくる。
「あぁ、後藤。おはよう」
「ん、おはよ。それでなにがどうなったの?」
「いや、あれを見てよ」
「なんか人がいっぱいいるね」
「あれ、国連総会での俺たちを見て、取材を敢行している報道陣らしい」
「え、ほんとに?」
「さっきも話を聞いてたから多分そうだと思う」
「私たちでしたってバレたらどうしよう……」
「そこなんだよね」
「その時は私がなんとかしますよ」
そういってきたのは、黒島のポケットに入れていたスマホからだった。もちろん相手はレイズである。
「対応するってどうするんですか?」
「具体的にはないですけど、臨機応変に対応しますよ」
「なんか曖昧だなぁ……」
「大丈夫ですよ、何とかなりますって」
不安になる黒島であった。
とりあえず、その日は普通に登校する。
すると、昼休みの時に放送が入った。
「えー、学長です。先日、国連総会で紅き艦に関するニュースを見た学生も多いと思います。私もニュースを見ていました。その際、本学の学生と思われる生徒が、制服で国連総会の場にいたという報道が一部でなされています。もし、この事実が本当であるならば、由々しき事態とも受け取れます。もし、これに関して何か知っている学生がいるならば、近くにいる教員に教えてください」
そういって、放送は終わる。
それを聞いていた黒島の友人が黒島に話す。
「そういや、俺もそのニュースを見ていたんだけどよ、なんだか黒島に似ていたような気がするんだよな」
「そ、そうか?」
まさか本人ですとは言えるまい。
「そんなわけないだろ。気のせいじゃないか?」
そのため、黒島は全力ですっとぼけることにした。
「そうか?それならいいんだけど」
そういって、話は終わった。
しかし、どこからぼろが出るか分からない。
今後の活動は慎重にならないといけないと黒島は思った。
その日の帰り、黒島と後藤は一緒に帰っていた。
「そういや、今日の昼の放送聞いた?」
「そりゃもちろん」
「あれ、私たちのこと言ってるよね?」
「おそらくな」
「どうしよう、今日先生に言おうか迷ったんだけど」
「言ったところでどうなるかは分からないよ」
「うーん、どうなんだろ?」
そんなことを話していると、黒島のスマホのバイブレーションがなる。
相手はなんとなく分かっている。黒島はスマホを取り出した。
「なんですか、レイズさん」
「いやぁ、ちょっと二人に忠告をしようと」
「忠告?」
「後ろ、尾行されてますよ」
「尾行!?」
「あ、後ろは見ないで。相手に見られますよ」
「またですか?今度は誰です?」
「どうやら雑誌記者のようですねぇ。スクープをものにしたいんじゃないですか?」
「厄介なことになったな。とりあえず歩きながら考えるか」
そういって、二人は歩き出す。
「しかし、今回はどうするんです?前回は公安だったからいいものの、今回は面倒そうな雑誌記者ですよ?」
「そうですねぇ。ここは一つ彼に協力を要請しましょう」
「彼?」
そういって、ひょっこり出てきたのはトランスであった。
「久々に呼び出されたと思ったら、ストーカー被害の相談か」
「まま、そう言わずに」
「しかし、ストーカーなんて面倒なものに付きまとわれるのも悪いぞ」
「ストーカー被害に合っている全人類に謝ってください」
「冗談だ。とにかく、その記者を何とかすればいいんだろう?ならやることは一つだ」
「なんです?」
「やつらを黒の旗艦に招待する」
「正気ですか?」
「まぁ見てろ。とにかく、やつらの近くに行く必要がある」
「分かりました。とりあえずやってみます」
そういって、黒島と後藤は踵を返し、わざと記者のいる方向へ歩き出す。
記者たちは少し慌てて物陰に隠れた。
そのすぐ横を黒島たちが通る。
すると、記者たちの姿が消えた。
「ワープには成功したみたいだね」
「そうだな」
それから数分後、同じ場所に記者たちが現れる。
しかし、ワープ前と違って、記者たちはひどくおびえているようだった。
黒島のスマホに戻ってきたトランスに話を聞く。
「やつらの記憶にちょっと細工をしただけだ。恐怖という記憶を増大させてな」
すでにそこに記者はおらず、どこかへ去っていったようだった。
「少しやりすぎでは?」
「いや、違法なことをしている人間にとっては、これが最善の策だろう」
そういって、黒島たちは無事に帰路に着くのであった。
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