第33話 演説
案内されたのは、とある一室であった。
「呼ばれるまでは、ここで待機していてくれるかい?」
「分かりました」
そういって、男性と羽黒はどこかへ向かう。
「いよいよ演説かぁ。なんだか少し緊張してきたぞ」
「とは言っても、祐樹さんは演説はしないでしょうに」
「それでも各国の代表の前に立つだけでも、かなり緊張するでしょうよ」
「そしたら私演説も何もしないのに、一体どうなっちゃうの?」
「後藤はなぁ、まぁ仕方なしって所か」
「何それひっどーい」
そんなことを話していると、遠くの方から拍手が鳴り響く。
「お、なんだ?」
「どうやら今日の総会が始まったようですね。おそらくこの後に演説の出番が来るでしょう」
そう言っていると、先ほどの男性が部屋に入ってくる。
「二人とも、そろそろ出番だぞ。準備はOKかい?」
「はい、問題ありません」
「それじゃあ行こうか」
そういって男性に案内される。
少し言った場所にあるそこは、ニュースなどでよく見る国連総会議場らしい。
その舞台袖はホールのようになっており、入り口は分厚い扉で閉じられている。
「この先が国連総会議場だ。この先を抜けたら、まっすぐ演壇に向かうんだ。いいかい?」
「はい」
「緊張することはないさ。しゃべるのは君じゃないし、なりよりガールフレンドがいるからな」
「ぬ……、はい」
その時、中から議長のような人の声が上がる。
それを聞いた男性は扉を開けた。
「さぁ行ってらっしゃい。Good luck!」
その言葉をかけられ、黒島たちは国連総会議場へと足を踏み入れる。
そこには、席いっぱいに詰めかけた各国代表の姿があった。
そして割れんばかりの拍手で迎え入れられる。
黒島たちはその様子にびっくりしながらも、前方にある演壇へと向かう。そして、演壇に上がる。
どうしていいかわからず、スマホを覗いてみると、そこからレイズの姿がなくなっていた。
それと同時に、議場にいる各国代表がザワザワしだした。何か指を差しているようだ。
その方向を見てみると、なんとバックモニターにレイズの姿があるではないか。
議長が何か言っているようだったが、英語のため聞き取れない。おそらく静粛にするように言っているのだろう。
ひとしきり騒ぎ終えた各国代表を前に、レイズは日本語で話し始める。
「みなさん、ごきげんよう。私が世界各国を賑わせている謎の紅き艦、レイズ・ローフォンです」
まずは軽く自己紹介から入る。各国代表はその言葉を注意深く聞くために、ヘッドフォンに耳を傾けていた。
「私の正式名称は紅の旗艦、艦の名前は私の名前、レイズ・ローフォンです。つまり紅の旗艦は私そのものと言えます。これには理由があります。私の体は生体培養液に沈められ、意識だけが電脳世界を漂い、そして艦に宿っているのです。よって、紅の旗艦は私の手足のように動かすことが可能なのです」
黒島は驚愕した。そのような裏話があるなんて、一切聞いていないからだ。
それは各国代表も同じようで、またザワザワしだす。
しかし、レイズはそんなことお構いなしに話を続ける。
「こうして電脳世界を漂っていることで、このようにハッキングに似た行為を行うことも可能なのです。裏方の人、ごめんなさい」
そういって、レイズは頭を下げる。ここは日本人らしい行為だ。
「さて、私の話もある程度済んだことですので、ここからはどうして人類に対して友好的になったのかという話に移っていきたいと思います」
レイズは話を切り替える。
「話を単純化すれば、敵の敵は味方であるということです。現在、地球や人類を脅かしている知的生命体を、私たちは流浪の民と呼んでいます。流浪の民は最大の権限を持つ白の旗艦という艦を中心に、様々な役割を持った艦で構成されています。私もかつてその一つでした。しかし、白の旗艦は平行世界に存在する多種多様な知的生命体を、狂気というナイフで滅ぼしてきました。私はそれが許せなかったのです」
レイズの手がわずかに震えるのが見える。
「そこで私は、隷下に存在する2億4000万の艦艇とともに、流浪の民に対して反乱を起こす事にしました。しかし、これだけの数があっても、白の旗艦とその隷下にある艦艇を倒すには程遠いのです。そこで人類の皆さんにお願いです」
そういって、レイズは一呼吸置いた。
「どうか。どうか、私たちと手を取り合いませんか?困窮している仲間同士、何か策を講じればきっと白の旗艦に打ち勝てるはずです。そのための手段は用意できます。あとは、皆さんが決断をするだけです。私たちレッド・フリートは不可能を可能にすることができ、かつ人類が渇望する勝利を与えることができます。どうか、共に協力しあいましょう」
そういって、レイズの演説は終了した。
議場は静まり返っている。それもそうだ。あまりにも突拍子もないことを言い出すのだから。
しかしいつまでも静寂に包まれているわけにもいかない。
その時、誰かがぽつりとつぶやいた。だがそれは黒島のスマホの翻訳アプリが拾うには十分だった。
『信用に値しない』
そう、確実に言ったのだ。
本日も読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価ボタンを押していってください。また、ブックマークや感想も随時受け付けています。
次回もまた読んでいってください。




