第32話 国連本部
それからまた数日が経過した。
その間は特に何かあるというわけでもなく、ただ単調に時間が過ぎていく。
その間にあったとすれば、先日のアイスランドでの戦闘に関するニュースくらいだろう。
そのニュースも、これまでの内容とは少し異なり、ニュースに占める割合は少なくなっているような印象を受ける。
それでも、一国の首都が壊滅的な被害を被った事実は大きな衝撃を与えていた。
そんな中、黒島は念のために、演説で発表する原稿の作成に勤しんでいた。
「……我々レッド・フリートは、人類150億人を救うべく、あの地球外知的生命体から謀反した紅の旗艦、レイズ・ローフォンを筆頭に、人類のために戦う所存です……と」
「祐樹さーん。そんなことしたって時間の無駄なだけですよー」
「いいじゃないですか。もしかしたら俺も演説するように言われるかもしれないじゃないですか」
「それは先日の打ち合わせの時にないって国連の人に断言されてたじゃないですか」
「うっ、そうですけど……」
「まぁしたいならすればいいんじゃないですか?無駄になるかもしれませんけど」
「言い方に含みがありますねぇ……」
そんなことを言い合っていた。
その間にも、時間は経過していく。
そしてついに目的の日付が来る。
すでにアメリカ国内のメディアには情報が流れているようで、国連本部周辺を報道ヘリなどが周回していた。
「というわけで、結構危険なので、上空から降りてくるような感じで登場しましょう」
「そこまで細かく指定します?」
「だってせっかくの晴れ舞台なんですよ!少しはカッコつけてもいいじゃないですか!」
レイズに逆ギレされてしまう。
仕方なく、黒島はそれに従うことにした。
日本時間11月3日22時51分。
黒島と後藤は必要な荷物を持って紅の旗艦のコックピットにワープする。
二人は国連本部という場において、最善の服装は何か考えた結果、制服を着用することにした。
「でも、制服って見た人が見れば分かるよね?」
「まぁでも他に服がないのも仕方ないよな」
こうして、最終的な荷物確認を行う。
「身なりよし、手荷物よし」
「チェックは問題ないようですね。それじゃ行きますか」
そういって、レイズは持ち場に着く。
黒島は紅の旗艦を動かし、まずは亜空間から脱出し、ニューヨーク上空へと移動させる。
「空間座標指定。空間転移回廊展開」
「周囲に艦影なし。オールグリーン」
「ワープ!」
紅の旗艦はワープによって、ニューヨーク上空約30kmのところへワープした。
ここから、国連本部へと降下する。
「よし、降下開始」
速度に注意しながら、紅の旗艦は国連本部を目指して降りていく。
数分かけて降りた先には、国連本部が見えてきた。
周辺には、報道ヘリが見え、今回の事の大きさを物語っていることだろう。
一方で、紅の旗艦に気が付いた報道ヘリは、素早くその場から離れていく。
紅の旗艦は、国連本部の直上に停止した。
「よし。それで、ここからどうするんでしたって?」
「国連本部の正面入り口に降りるって指示でしたね」
「時間も時間だし、降りますか」
そういって、レイズは二人を正面入り口に降ろす。
そこは、ちょうど正面玄関のような場所で、そこに関係者と思われるスーツ姿の人々がたくさんいた。
また、敷地の外には報道関係者と思われるカメラを持った一団が敷地内を撮影している。
「Hey」
黒島と後藤に声をかける男性。振り返ってみると、ガタイのいい男性がいた。
しかし話している言葉が英語なだけに、その内容は聞き取れない。
「英語なら翻訳しますよ」
そういってくれたのはレイズだった。
もとよりスマホには翻訳アプリがインストールされているのもあり、ありがたい存在だろう。
「君たちが例のレッド・フリートかい?」
「はい、そうです」
「証拠は?」
「これがレッド・フリートのアカウントです」
「ふむ。確かにそうだね。しかし突然目の前に現れるものだから驚いてしまったよ」
「それは申し訳ありません」
「まぁいいさ。それよりもこっちに来たまえ。特別な入国審査をしよう。国連本部出張所だ」
そういって案内されたのは、国連本部に入る手前に設置された小さなブースだった。
どうやらここでパスポートなどのセキュリティ検査をしているようだ。
そこで、パスポートを提示する。
「今回の訪問の目的は?」
「仕事……なのかな?」
「まぁ、聞いた話じゃ、少なくとも観光ではないな」
そんな感じで審査が行われていく。
「よし、問題はない。ようこそ国際連合へ」
「ありがとうございます」
そういって国連本部の中へと通される。
内部は威厳に満ちた空間をしていた。
中には、先ほどの男性ともう一人いるのが見える。
「どうだい、入国審査は?」
「初めてだったので、少し緊張しました」
「そうかい。それと紹介しておこう。こちら、日本の国連大使の羽黒だ」
「羽黒です。君が紅き艦の関係者だね」
「はい」
「名前は聞かないでおくよ。見た感じ高校生だしね」
そんなことを言っていると、遅れて後藤も中へと入ってきた。
「遅れちゃった」
「仕方ないよ。後藤も海外は初めてなんだし」
「そろったかい?それじゃあ行こうか」
そういって、男性は歩き出す。
黒島たちはそれの後を追いかけるのだった。
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