第137話 決戦 その3
飛んでくるビーム砲撃を躱して進むのは、まるで降ってくる雨をよけながら歩いているような感覚であった。一歩間違えれば蒸発の危機という点を除いては。
「さっきから無茶苦茶な方向撃って、マジで危ねぇ!」
「垂直砲台エピタフシリーズ。50口径10m砲を垂直に立てた、まさに墓碑のような存在。これが総旗艦の球体表面にすべて配置されている。そこから放たれる砲撃は、紅の旗艦の中でも最も出力の高い二重銃身回転式狙撃銃とは比較にもならない程のものだ。だが、長距離になれば減衰して通常のバリアでも対処可能になる。それを防ぐために、主砲同士を連動させ、集中砲火を狙う。それが総旗艦の戦い方だ」
「それがどうしてこうなってるんですか!?」
「さぁな。まぁ親父のことだから、レッド・フリートに手を焼いている状況を良しとしないでヒステリーを起こしているのかもな」
「まるで子供みたい」
後藤の指摘に、テリーは少しうつむく。
「……確かに子供みたいな所はあるな。正直、あれが父親であるとは思いたくないが、それもまた事実だ」
「……そういう性格なのかもしれませんよ」
そこにレイズも加わってくる。
「昔から独りよがりで、自分の興味以外には目もくれない。自分のやっていることは崇高なことであり、絶対的な正しさの上に成り立っている。それだけど頭はいい。そういう人間だからこそ、変な思想を身に着けて振りかざしているんです」
「確かにそうかもな。それも一つの意見だ」
そういって、テリーは言葉に同意する。
「そういう意味でも、俺は親父と決着をつけねばならない」
「さっきからいい感じの雰囲気になってますけど、こっちは地獄ですからね!?」
必死に総旗艦の砲撃を躱している黒島。操縦のほとんどは黒島担当であるため、当の本人にとっては荷が重すぎる感じだろう。
「大丈夫だ。こちらは艦のすべてが見えている。もしもの時はアシストしてやるから問題はない」
「そういう問題じゃないでしょお!」
黒島は絶叫しながら紅の旗艦を操舵する。
後方では、今でも白の艦艇群と戦うレッド・フリートの姿があった。
「こいつはきついぜ!」
「だがデタラメに乱射してくれているおかげで、白の艦艇群も撃破されている」
「この距離なら、私のバリアで十分防げる」
各々が自分のやるべきことをやっているようだ。
黒島は仲間の無事を祈りつつ、とにかく前進する。
総旗艦まであと2万kmといった所で、白の艦艇群が襲ってくる。
「後藤!迎撃頼む!」
「分かった!」
そういってミサイルを発射する。
100を超えるミサイルは、高度なマニューバによって、次々と撃沈していく。
しかし、それ以上に撃沈しているのは、総旗艦によるフレンドリーファイアである。
問答無用を体現しているような総旗艦の攻撃は、敵味方構わず乱射を繰り返していた。
「あんなの危険すぎて近づけませんよ!」
「大丈夫だ。とにかく信じて進め」
「んなめちゃくちゃなぁ!」
そんなことを言いつつも、黒島はとにかく前へと進んでいく。
このあたりになって、テリーがあるものを操作する。
「そろそろ目的地だ」
「目的地ってなんですか!?」
「あの総旗艦を葬り去ることができる、唯一の突破方法だ」
「本当にそんなことができるんですか?」
「あぁ、可能だ」
そういってテリーは手元のコンソールを操作する。
なにやらプログラムのようなものを呼び出しては、それをどこかに送信しているようだ。
そのころ総旗艦の方では、混乱が生じていた。
「あれが動かない!こっちも、あっちも!どうなっているんだ!」
その瞬間、フリットに異変が生じる。
「あ、がっ。頭がっ……!息が苦しっ、い……!」
そのままフリットは意識を手放した。
一方外では、総旗艦の乱射が止まる。一緒に白の艦艇群の攻撃も止む。
「攻撃が止んだ……?」
「フリットの意識を一時的に切り離しただけだ。しばらくすれば、また起き上がるだろう」
「それじゃあ、どうするんです?」
「そこでレイズの出番だ」
そういってテリーはレイズを見る。
「私……ですか?」
「もとよりレイズはこの時のために製造された人工知能生命体だ」
そういうと、テリーはコンソールをいじる。
すると、レイズは体をビクンッとさせると、そのまま宙を舞うように静止する。
「レ、レイズさん!」
「大丈夫だ。今は意識を失ってもらっている。次目覚めたときは、本来の目的を完遂するべく、動くことだろう」
「……レイズって一体何者なの?」
後藤は途切れそうな声でテリーに聞く。
「せっかくだから教えよう。レイズは総旗艦を内部から破壊するために設計されたバグシステムだ」
「バグシステムって……」
「まぁ分かりやすく言えば、コンピュータウイルスって所だろうな」
「それで、レイズさんをどうするつもりなんですか?」
「さっきもいった通り、総旗艦に侵入させて内部から総旗艦を破壊する。ただ……」
「ただ?」
「かなり負荷のかかることだ。完遂する前に尽き果てる可能性も否定できない」
「そんな……。レイズは……戻ってくるんですよね?」
「数字で見る分には、戻ってこない確率が高い」
「それでも……侵入させるんですか?」
「それがレイズが生まれてきた理由だからだ」
「……分かりました」
そう黒島が言う。後藤は今にも泣き出しそうにしていた。
「では、このボタンを押してくれ」
黒島の前に、コンソールが表示される。
「これは?」
「レイズの覚醒と、総旗艦へ送信するためのボタンだ。建前は必要だろう」
そういって、黒島に押すように促す。
黒島は決心して、そのボタンを押した。
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