第132話 事実
誰しもが、言葉を発せないでいた。目の前の事実に打ちのめされていたからだ。
「これが、レイズの体ってことですか……」
やっとの思いで、黒島がテリーに聞く。
「半分正解といったところだな」
意味深にテリーが言う。
「レイズとこの体……アリア・ジョーシンの関係は、レイズの生い立ちについて話さなければならない」
そういってテリーはマリア・ジョーシンの入っているガラス管に触れる。
「さっき、俺はレイズの依り代としてこの体があると言ったな」
「えぇ、確かにそう言ってましたね」
「この体は先に言った通り、俺の母親だ」
「でも私はそんなの知らないです。仮にあなたの母親だとして、その記憶はどこにあるというんです?」
「レイズは少し勘違いしているようだな」
そういってテリーはレイズの前に向かう。
「お前の記憶はいつからある?」
「それは、ミラリス星系襲撃前です……」
「大体数万年前のことだな。俺の意識もそのあたりで封印されている」
「それじゃあ、私の記憶ってなんなんですか?何がどうなっているか分からないです!」
「それでは結論から言おうか」
そういってテリーはレイズの肩を掴む。
「お前は、フリット・ジョーシンを止めるために作られた、人工知能生命体なんだよ」
その発言に、レイズは大層驚いていた。
「私が、人工知能生命体……?」
そしてそのまま、膝から崩れ落ちる。
その顔は信じられないというような顔であった。
ロビンとジーナも、同じように驚いたような顔をしている。
「あのー、すいません」
そこに、黒島が口をはさむ。
「人工知能生命体ってなんですか?」
黒島と後藤はまったく話の道筋が見えてこない状態に陥っていた。
「そうだな。そこの二人には説明しておかないとな」
そういって、テリーが黒島たちの前に立つ。
「人工知能生命体というのは、生体を使って仮想の人物を作り上げる技術のことだ。必要なものは、人間の脳と仮想の体、そして人工知能だ」
「それがレイズとどう関係するの……?」
後藤が質問する。
しかし、その説明を聞いて黒島は気が付いてしまった。
「そうか……!人間の脳を仮想のコンピュータとして、そこにレイズ・ローフォンという人工的な人格を生成したんだ……!」
「そうだな。正解に最も近い回答だ」
そういってテリーはパラパラと拍手する。
それはすなわち。
「レイズさんの人格は作られた仮想の存在ってことじゃないですか……!」
「実際その通りだ。それ以外の何者でもない」
状況を飲み込んだ後藤はなんとも言えない顔をする。
それもそうだろう。今まで親しくしていた友人は、仮想の存在だったのだから。
「トランスさんは、このことを知っていたんですか……?」
レイズがトランスに聞く。
「……あぁ。計画の断片はテリーから聞いていた。特に反対もせずにいたがな」
さも当然のように言う。
「あの時は、テリーが中心となってフリットの方針に反対していた時期でもあった頃だからな。俺は不干渉を貫こうとしていたが、フリットの奴が艦艇総洗脳を敢行してきた。それで、レイズが接触するまで白の旗艦の従順な下僕状態になっていたのだ」
「俺も最初からそうなっていたってわけか」
「最初からレイズが裏切者であるという洗脳がされていたってことね」
「そういや、ロビンさんとジーナさんの誕生時期ってレイズさんの出てきた時期より後でしたっけ?」
「あぁそうだ」
ここで、ある疑問が生じる。
「あれ、そしたらなんでレイズさんは裏切者扱いにされていたんですか?」
「それは開発者である俺が問題だったからだ」
そうテリーが切り出す。
「名前で察していると思うが、フリット・ジョーシンと俺は親子だ」
「確かに、同じ苗字してますね」
「流浪の民が出来上がる前はいろいろあったが、生体艦長として紅の旗艦に乗り込んだ時、父親のフリットは俺にいろいろと都合の良いようにしてくれた。本来なら流浪の民は全て白の艦艇で構成されるはずだったが、俺の艦を攻撃特化型にしたおかげで、特色の異なる艦艇群を作るという概念が発生した。その時建造途中だった超大型旗艦も、今や黒の旗艦として活躍している」
そういってテリーはトランスの事を見る。
「しかしフリットのやり方に、俺は反対していた。他の生命体を自分の都合や興味本位で滅ぼすなんて間違っている。そこで俺は、艦艇総洗脳を免れるために自分の母親の体を使って、レイズ・ローフォンという人格を生みだした。俺は白の旗艦が撃破された時に目覚めるように設定をしてな」
「そんな過去が……」
黒島と後藤は壮絶とも言える過去に思いを馳せる。
一方、レイズは自身が作られた存在であることを次第に自覚していく。
「私は作られた存在……」
「そうだ。そして最後の仕事がある」
「仕事?もう白の旗艦は撃破されましたよ?」
「いいや、まだある。重要な役割がな」
「それって?」
「じきにわかる。今は帰還すべきだ」
そのようにテリーが促す。
黒島たちはおとなしく地球へと戻っていった。
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