第13話 第5次攻撃
夏も終わりに近づいてきている9月の下旬。
アメリカ合衆国のフロリダ州上空に9ヶ国35隻が集結していた。
目的はただ一つ。
ヨーロッパ上空の静止衛星軌道に存在する巨大な敵艦艇、通称No.6を破壊するためだ。
そのために、残存艦艇をすべて集結させている。
もし、この作戦に失敗した場合、人類側にはまともな戦力が存在しない。
そのため、この第5次攻撃で最後になる可能性があるのだ。
そんな中、日本から参加している巡航艦「瑞鶴」では、慌ただしくチェックが行われていた。
「各兵装、準備よし」
「各種アビオニクス正常に作動中」
「現在、インドの『ババンダー』が集合に遅れています。作戦開始時刻に変更はなし」
「間宮の補給は残り1時間を想定。補給完了次第現空域より離脱予定」
そんな中、艦橋では少しピリピリとした空気が流れていた。
「堂本大尉、本当にこの作戦、成功するんでしょうか?」
「橋本中尉、いろいろと考えるところはあるだろうが、今は作戦の遂行に全力を尽くす時だ。あまり余計なことは考えるなよ」
「しかし、過去4回の攻撃は失敗に終わっています。今回も成功するとは限らないですよ」
「言いたいことは分かる。しかしだな、みんなあえて口にしていないんだ。その理由が分かるか?」
「……失敗するかもしれないからですか?」
「それもある。しかし、第一に考えるのは、皆守るべきもののために戦うということだ。そのために、みんな黙って自分の仕事をしているんだ」
「まぁまぁ、難しい話はここまでにしておこうじゃないか」
「梅田艦長」
「確かに怖いことはある。私の同期も、第3次攻撃の際に攻撃されて死んだ。私も同じ運命にあると思うと、怖くてたまらない。しかし、それでも、人類150億人のために、手を尽くそうとは思っているよ」
「艦長……」
「まぁ、難しく考えないほうがいいってことだよ」
「はい」
こうして、作戦開始時刻となる。
早速国連軍艦隊は目的地であるヨーロッパ上空を目指す。
上空とはいっても、高度は100km以上ある。
そんな、超高高度を艦隊は突き進んでいく。
目的地まで、あと1000kmとなったところで、艦隊旗艦の米国艦エンタープライズから指示が入る。
『各艦、ミサイルの発射準備、誘導はレーザーを主とする』
ここに来て、遠距離からのミサイル攻撃を行うつもりのようだ。
早速準備に入る。
「ミサイル発射準備」
「宙間ミサイル発射準備」
「射出後はレーザーによる誘導とする。誘導レーザー照射準備」
「レーザー照射、よし」
「以降命令あるまで待て」
その後、エンタープライズから命令が下る。
『全艦、ミサイル発射』
「ミサイル、撃ち方始め」
「うちーかたーはじめ、テーッ!」
直後、艦隊すべてからミサイルが射出される。
その光景は壮観といっても差支えないだろう。
ミサイルの第1段ロケットの燃焼が終了し、第2段へと燃焼が移る。
さらに加速したロケットは、微小な偏差を行い、方向をNo.6へと向けた。
そして第2段も分離し、そのまま慣性でNo.6へと向かう。
そのまま小1時間程度見守るという、なんとももどかしい時間が過ぎる。
そしてミサイルがNo.6に到着しそうとしていた。
「弾着予定まで、あと1分……」
最終調整を行い、弾頭がまもなくNo.6に到着しそうになっていた。
その時である。
突如としてNo.6の活動が活性化した。
そしてものの数秒で、すべてのミサイルが撃ち落されたのだ。
「ミサイル、すべて撃墜……!」
「なんだと……!?」
各艦の観測員と艦長は驚きを隠せていない。
しかし、瑞鶴の梅田艦長は冷静であった。
「そんな気はしていたんだが、まさかここまであっさりやられるとはな」
「敵、反撃の様子を見せています!」
その報告通り、No.6は反撃に転じていた。
レーザー砲を国連軍艦隊に向け、今にも撃ち込みそうな様子である。
しかし、その観測を遮るものが現れた。
「な、なんだ?」
梅田艦長は驚いた様子でモニターを眺める。
そこにいたのは、葉巻型の潜水艦にも似ている艦影、真っ赤に染まった外装、そして何よりも、その突き出た特徴的な主砲のものであった。
それこそ、紅の旗艦そのものである。
そのコックピットには、レイズと黒島、そして後藤の姿があった。
「どうやら間に合いましたね」
「トランスさんの情報がなければ、危うく地球艦隊の損害が出るところでしたよ」
「それで、この後はどうするの?」
「こいつを使う」
そういって、黒島はあるものを指さす。
それこそ、二重銃身回転式狙撃銃である。
その照準は、レイズの担当だ。
「目標照準よし」
「撃て」
黒島の合図により、No.6に向けて、狙撃銃の砲撃がされる。
ほんの数秒程度で、No.6のもとに着弾し、そして巨大な穴を開けた。
その直後、No.6は巨大な爆炎をあげる。
「No.6の撃沈を確認。作戦は成功です」
「作戦という作戦ではなかったけどね」
「地球艦隊の前に出て、攻撃するだけって簡単なものだよね」
「それでも問題なかったからいいじゃない」
そんな会話をしているところで、国連軍艦隊から通信が入る。
『艦隊前方にいる国籍不明艦に告ぐ。こちら国連軍宇宙艦隊旗艦のエンタープライズだ。こちらの通信が聞こえているならば返事がほしい』
「だそうですけど、どうします?」
「でも人類と協力するって言っちゃいましたしねぇ」
「けど、中の人が高校生って知ったら大変なことになりますよ」
「確かに、それはいやだなぁ」
「じゃあ逃げますか」
黒島がそう提案する。
「それもそうですね。その方法が今一番いいかもしれません」
「じゃ、颯爽と逃げましょ」
そういって、黒島は艦を動かす。
そのまま国連軍艦隊から離れ、しばらく行った所でワープした。
その一連の流れを見ていた梅田艦長は、呆然としていた。
「艦長?艦長!」
「あ、あぁ、私は大丈夫だ」
「何だったんですかね、今の」
「さぁ?私にも分からない。ただ、悪い気はしないね」
そういって、国連軍艦隊は帰還するのであった。
本日も読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、下の評価ボタンを押していってください。また、感想も随時受け付けています。
次回もまた読んでいってください。




