第107話 束の間の休息
北京での戦闘直後の軍事参謀委員会。そこでは新たな脅威について話し合われていた。
「先の北京での戦闘。新たな脅威が現れたそうじゃないか」
「レッド・フリートの中では、仮称として砲撃型と命名したようだ」
「砲撃型……。その名の通り、白の艦艇を複数隻使用して砲撃に特化させた複合体というべきか」
「この攻撃力は脅威そのものだ」
「レッド・フリートの言い分では、現在持てる最高火力に匹敵するらしい」
「そんなものがこれからも登場するとなると、今後の戦況は厳しいものになるだろう」
「実際、この砲撃型の登場によって、これまで比較的軽微だった都市の攻撃がひどいものになっている」
「今回の北京は大変な被害を被った。まさに都市機能が停止するほどだ」
「現在、国連軍平和維持部隊が現地に派遣されて、状況の確認と復興の準備を進めている所だ」
「このことはレッド・フリートも想定外であったそうで、少しうろたえているようだ」
「おりしも、現在レッド・フリートは流浪の民の拠点を強襲する『伐採作戦』というものを実行中とのことだ」
「レッド・フリートには今後とも活躍していただきたい所だな」
「そのためには、伐採作戦の逐次遂行を願いたい」
「それをレッド・フリートに通知するのか?」
「もちろんだ。これは人類存亡の危機なのだからな」
「しかしレッド・フリートには高校生が乗っているという話じゃないか。心理的な負担にはならないかね?」
「高校生だけが乗っているわけではない。彼らには宇宙人がついている。それに、これまでの戦闘で感覚が若干麻痺しているところもあるだろう。問題はない」
「それでは、レッド・フリートの伐採作戦のさらなる進行を行うように提言する」
そうして黒島たちの元にメールが届く。
内容はレイズに翻訳してもらった。
「なんて内容でした?」
「まぁ簡単に言えば、もっと伐採作戦してくれって感じですね」
「そう簡単に言ってくれるなという感じだな」
トランスが言う。
「そうなんですか?」
「伐採作戦をするたびに、生成装置の調整に入る必要があるんだ。この整備を怠ると、最悪空間に穴が空く可能性がある。そうなったら大惨事だぞ?」
「それは……まずいですね」
「この整備には最低でも2日から3日はかかる。そして本格的な整備を半月に一回ほど行う必要がある。そうしないと、さっき言った大惨事になるからな」
「なんでそんな面倒なシステムしているんですか……?」
「そもそも生成装置自体が次元に干渉する装置だからだ。次元に干渉するということは、直接空間に影響を与えることになる。そのため、空間に影響を与えることが可能になるのだ。これが流浪の民の基本的な技術だ」
そういって解説する。
黒島は半分流して聞いていた。
難しい話は聞いたところで理解できないからだ。
「まぁとにかく、整備が必要なのは間違いないことだ」
そういってトランスは整備のために戻っていった。
「しかし伐採作戦の逐次発動って、こっちも時間がないって話なんですよねぇ」
「国連は祐樹さんが学生であることを忘れているようですね」
そんな話を黒島はレイズとする。
この日は日曜日であるため、自宅でのんびりしていたが、それでもやらないといけないことがある。
そう、勉強である。
何度も言うが、黒島は高校3年生である。すなわち、数か月後には受験が控えている。
そんな中で、黒島と後藤は受験と並行しながら、流浪の民と戦わないといけないのだ。
黒島はパソコンでネットニュースをBGMにしながら、受験勉強をしていた。
そんな中で、あるニュースが流れてきた。
『新たな宇宙艦艇が本日竣工しました。鞍馬型巡航戦艦とは別の艦型になる、大和型巡航戦艦です。大和を冠する艦艇は、第二次世界大戦末期に沈没した戦艦大和に続いて3代目となります。現在大和型巡航戦艦はネームシップである大和のみが竣工している状況です。残り建造予定である武蔵、紀伊、赤城は、現在レッド・フリートの一員である黒の旗艦によって、複製、建造されるとのことです。また大和型巡航戦艦は省人化を推進しており、これには、橙の艦艇で培われた技術が応用されるということです』
新しい艦型の竣工のニュースであった。
大和型巡航戦艦は前級の鞍馬型巡航戦艦を踏襲したものになっている。
六角柱を横にしたような艦影は似ているものの、その内部は大幅に異なるものだ。
まず機関の改修である。これまで搭載していた機関の完全上位互換を搭載している。
その影響によって、艦の速度や搭載できる主砲の数が大幅に異なっているのが特徴だ。
またこの艦にも当然のように、個人抑制用逆位相システムが搭載されており、その出力は既存艦艇や橙の艦艇を上回るほどである。
そして日本はそれを少人数で運用するために艦内の省人化を行っており、またそれをトランスの手によって量産するというのだ。
「トランスさんいろんな所に手を出してますねぇ」
黒島はそんなことを言う。
「生粋の技術屋なんでしょうね、きっと」
そんなことを話す二人であった。
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