第10話 悩み
学校に着いてからも、レイズからの要求は途絶える所を知らなかった。
休み時間が来るごとに、スマホのバイブレーションが鳴り、トイレの個室へと行かざるを得なくしていた。
「早く決断してくださいよー」
「分かってます、分かってますけど」
「何がそんなに嫌なんですか?あ、名誉ですか?確かに人の役に立ってはいますけど、誰にも感謝されないですからねぇ」
「そんなんじゃないですよ」
「じゃあなんだって言うんです?」
「それは……」
黒島はいまだ迷っていた。
それは先に言った通り、自分のやったことによって、世界がさらに混乱に陥る可能性を秘めているからだ。
しかし、迷っている間にも、刻一刻と時間は過ぎ去っていく。
このままでは、第5次攻撃が先に行われる可能性が無きにしも非ずだ。
それまでに、黒島は答えを出さなくてはいけない。
「どうしたらいいんだろうなぁ……」
今日の授業も終わり、学校から帰宅している黒島。
この間にも、胸ポケットに入れたスマホから、レイズからの質問が飛んでくるようにやってきていた。
「ですから、早く決断しないと、地球側にまともな戦力がなくなりますよ」
聞いてるんですか、という声も聞こえてくるが、黒島はまったく聞いていない。
自転車を押しながら歩いている黒島の後ろを、何かがやってくる。
「黒島君っ」
「うおぁっ!」
突然、後ろから後藤がやってきていた。
「どうしたの?なんだか心ここにあらずって感じだったけど」
「あ、あぁ、いや、考え事してただけだよ」
「黒島君が考え事なんて、なんだか珍しいね」
「そうかな……」
二人は、そのまま帰路に着く。
1年前は、帰る方向が一緒だったため、よくこうして一緒に帰っていた。
しかし、学年が上がったと同時に時間もバラバラになり、こうして帰ることは滅多なことになったのだ。
そんな感じで、帰宅しながら話している内に、黒島の中で何かが揺れ動く。
(後藤を守るべき存在になりたい)
そういった感情が芽生え始める。
その時だった。
胸ポケットに入れていたスマホからバイブレーションがなる。
黒島は慌ててスマホの画面を見る。
するとレイズが出てきて、黒島に大声で言った。
「黒の艦艇に白の艦艇が強襲中です!」
それは、黒の艦艇群が白の旗艦に敵認定されたことを意味する。
黒の艦艇の装備では、白の艦艇に立ち向かうことができないはずだ。
すぐさま紅の旗艦に向かわなければいけないだろう。
しかし。
「今の声、何?」
後藤もその声に反応していた。
「あ、いやぁ、これこういうアプリでね……」
黒島は苦しい言い訳をする。
しかし、言い訳をしている間にも、レイズは状況を報告していた。
「トランスさんが救援要請を出しています!このままでは黒の旗艦が落ちてしまいます!」
いろんな意味で、さらに状況が悪化した。
後藤は頭にクエスチョンマークがついているような顔をしているが、言い訳がいつまでも通用するわけではない。
先にしびれを切らしたのはレイズであった。
「えぇい、二人とも来ちゃえ!」
そういって、黒島と後藤の周辺を光が包み込む。
幸いだったのは、周囲に人がいなかったことだろう。
黒島が気が付くと、いつものコックピットのような場所であった。
唯一違う点と言えば、後藤が黒島の上に覆いかぶさるようにいることだろう。
「へ?黒島、君?」
「えー、えっと、これは……」
もはや言い訳不可能という状況であった。
黒島はお手上げ状態になる。
お互い、少しの間固まっていると、上から声が降ってくる。
「あの、いい雰囲気の所申し訳ないんですけど」
あきれたように、レイズが言う。
今の態勢を飲み込んだ後藤が、思わず仰け反る。
しかし現在無重力の状態であるため、後藤はそのままフワッと宙を舞ってしまう。
「あ、ちょっと、待って!」
そのままグルリと、黒島から見て、下から覗き込むような光景を見せてしまう。
思わず黒島は視線をそらした。
「ちょっと!黒島君!見てないよね!?」
「見てません!一切見てません!」
どうにかして態勢を落ち着かせたところで、黒島は説明をしようとする。
「黒島君……、これどうなってるの?」
「えーと、この状態になったのはわけがありましてね……」
「祐樹さん、説明している暇はないですよ」
説明させる余地もなく、レイズが黒島に発破をかける。
「とにかく今は急がないと、黒の艦艇が次々にやられてしまいますよ」
「分かってます、分かってますけど、現状を説明しないと……」
「あとでやってください!」
「あっはい……。そんなわけだから、後藤。ちゃんと説明はするから、今は静かに待っていてくれないか?」
「う、うん。分かった……」
後藤の了承を得た所で、黒島はバンドを頭に装着して艦を動かす。
しかしその反動か、イナーシャルキャンセラーが強く働いていないのか、後藤の体が持っていかれそうになる。
「レイズさん、後藤のための椅子ってないんですか?」
「あるにはありますよ」
そういうと、まるで椅子がそこで構築されたように出現する。
「後藤、悪いけど、そこに座っていて」
「う、うん」
そういって、後藤は椅子に座り、シートベルトをする。
黒島は後藤のために、周囲の状況を把握してもらうために、全周囲モニターの電源を
つける。
すると、後藤の方から疑問の声が上がっているが、黒島はそれをすべて無視した。
今は黒の艦艇群を助ける方が先決だ。
黒島は現場に急行した。
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