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38.ミルキーがハーヴィーの正体に気づく話

 それは、みんながうすうす気づいていたことで。

 そして、あまりにむごくて、直視しようとしていなかったことだった。

 誰も、ミルキーに答えられなかった。


「ごめんね、やっぱり、あたしなんかが話すべきじゃなかった」


「ミルキーは、悪くない」


 ディアナがしぼりだす。


「じゃあなんで……誰も答えてくれないの」


 ミルキーの声は震えていた。


「ミルキー、いつ、気がついたの」


「前に言ってたじゃないか。ニール。あたしに、目元が似た妹がいるかって。皇太子様だって、あたしに妹がいるかどうか尋ねていて、もしかしたら、生きてるんじゃないかって、思ったの。あの子だけは」


「……ごめんなさい、最初から、聞くべきじゃなかった。家族のことなんて、根掘り葉掘りたずねるのは失礼だった」


「皇太子様……あたしを雇ってくれただけじゃなく、離れ離れになったあたしの家族のこと、知ることができて、あたしは感謝してます」


 涙が一滴、ぼたりとミルキーの足元に落ちる。


「あの時はひどい病気が流行ってて、身寄りのない女の子が生きていくには、体を売るしかなかった。男装するにしても、どこの工房も、弟子なんて取ってなかった。だから、あの子は、教会に逃げ込む以外できなかった―—って、なんで今まで気づかなかったんだろ」


 さめざめと泣くミルキーに「ごめんなさい、僕のせいです」と、ニールが頭を下げる。


「僕は、ハーヴィーにたくさん助けてもらったのに、結局、見つけるのが間に合わなかった。一番ハーヴィーがしんどい時に、そばにいてあげられなかったし、かばえなかった」


「そんなこと……うぐっ、な、い……」


「ミルキーさん?」


「それは違うと思うわよ、ニール」


 泣き崩れたミルキーの代わりに、セリカが口をはさむ。


「セリカさん?」


「あなた、ハーヴィーのお産に立ち会ったじゃない。あなたがハーヴィーを見つけたから、子供の命は助かったのよ」


「あの子に、子供が」


 ミルキーが、顔を上げていた。


「そうよ。女の子。オーランド様の養子として、健やかに育てられているわよね、ニール?」


「はい!」


「……子供の名前は?」


「ラーズグリーズ。名付け親はアフェクの領主の奥様、ブリュンヒルドさんよ」


「変な名前だね……それに、望んで産んだ子供じゃあない」


「……ごめんなさい」


 ニールが沈痛な表情でいう。


「でもね」


 真っ赤になった目のまま、ミルキーの表情が緩む。


「高貴な人の元で子供が育てられてるなら、あの子もきっと、天国で喜んでるよ……女の喜びは、結婚して子供を産んで、元気に育てることだって、あたしたちは父親から教えられてきたから」


 ミルキーは涙をぬぐう。


「色々あったり、皇太子様と一緒に過ごしたりして、幸せはそれだけじゃないとは気づけたよ。でも、教えられた幸せをどんな形であっても、あの子は叶えられたみたいだから、あたしは嬉しい」


 そこまで行って、ミルキーの顔色が青くなった。「あたし……さっき失礼なことしたんじゃあ」とつぶやいて、ミルキーは勢いよく頭を下げる。


「オーランド様にもニール君にも感謝してるよ。きついことを言って、ごめんね」


「ミルキーさんは悪くないです。頭を上げてください」


 ニールが絞り出す。

 オーランドも、沈痛な表情でうなずいている。


「でも、高貴な人に失礼なことをしちゃったのはまちがいないから……」


「ならば謝罪として、ハーヴィーの、本当の名前を教えてもらえないか? ミルキー……さん」


 黙ったままだったオーランドが、ぼそりという。


「リリーだよ」


「……ありがとう」


 オーランドの感謝に、ミルキーは泣き笑いの顔を見せた。

 それからの話し合いで、教会を教会が行っている児童虐待の証拠で脅すことが決まった。

 最初は教会との直接の話し合いで、それでだめだったら虐待の事実を公にする、という作戦だ。

 これしか方法がないのはわかっていたけれど、ディアナは何だかもやもやした。

 貴族の間は、暗殺がただ単なる相手に対抗する手段になるくらい、殺伐としている。

 だけど、もしかしたら教会に言うことを聞かせるために、子供たちがひどい目に遭っていることを世の中に言いふらすのは、なんだか違う気がした。

 そうセリカにこぼすと「悪事ははっきりわかる場所にあぶりだすべきなの! なかったことにするのは、逆にかわいそうよ!」と熱弁された。

 でも、今の世の中だと。

 ディアナは思う。

 私は最初、ハーヴィー……リリーが、神父を恋愛関係に誘ったと思ってしまった。

 ひどい目に遭っている子供たちがいるときいて、普通の人たちは、神父だけが一方的に悪くて、子供たちは何も悪くないと思えるのだろうか?

 むしろ、教会を脅すことは、今ひどい目に遭っている子供たちに、これからは社会から冷たい目を向けられるという、別種のつらさを与えてしまうだけなんじゃないのかな。

 そんなことを言い出せないうちに、二回目の話し合いが始まった。

 今回、オーランドは王城にきている。

 オーランドとの話し合いが始まろうとしたその時、ブレナンがディアナに来客がいる、と伝えに来た。


「オーランドがここにいると聞いて参った」


「あ……はい、どちら様で……」


 ディアナが来客を迎えに行くと、銀色のよろいかぶとに身を包んだ騎士が立っていた。

 普通、かぶとを脱ぐでしょ、とディアナは思ったが、もしかしたらならず者から助けてくれた騎士の一人で、顔にけがしてるのかもしれない。オーランドさんに用事があるみたいだし。


「アフェク教育騎士団団長、サイファ-だ」

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