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1.ディアナがまた国王から呼び出され、なんだかブレナン先生が不穏な話

 高らかに絹の存在を告げたディアナのもとには、様々な人々がそれぞれの思惑のもとやってきた。

 商売の話はエドガー・キーツに任せていると追い払っているうちに、気づけば夜がきていた。


「なんだか、疲れちゃった」


 1日の応対を終え、ばたりとディアナはベッドに倒れ込む。


「全員が全員、欲望丸出しだものね……」


 ディアナに布団をかけながら、セリカがため息をつく。


「肉体を取り戻したセリカを、私専属の侍女兼家庭教師にできたのは成功だったよ」


「まあ……この世界、女の地位が低すぎるわよね。教会に入れないなんて」


「どうにかしたいよね、そういうところ」


「しかも私、まだ【皇太子レーン】のままなんだよ」


 セリカが浮かんでいた時と同じように、寝るまでおしゃべりを続ける。

 そんな毎日に、一通の招待状が届いた。


「またアルスからの招待状?」


 自分宛の手紙の整理中、難しい顔をしたディアナに、セリカがティーカップを差し出す。


「王城じゃなくて、離宮って書いてある」


 ディアナは手紙を置き、セリカがいれてくれたお茶を飲む。


「しかも今回は指導者抜きで、実際に絹を作っている女の子たちと来い、って」


「怪しいな」


 普段は口を挟まないディアナのボディーガード、レミーがひょっこり顔を出す。


「俺もついて行こう。ボディーガードは必要だ」


「ありがとう、レミー」


「当然のことだぜ」


「ディアナ様。アルス陛下のもとに行くのですか」


 ディアナの元家庭教師で、今はディアナの執事のような立場のブレナンもやってきた。


「うん」


「お気をつけて。私的なことでアルス陛下と近づくことは、正直に言って……やめていただきたいです」


「ブレナン先生、それ、どういうことだ?」


「そ、それは……」


 レミーが迫ると、ブレナンはさっと顔色を変えた。


「カンだが、もしかしてナオミ様関係のことか? ブレナン先生、ナオミ様のわがままとして俺を治療したじゃねえか」


「そ、それは……」


「ディアナたちを守るため、俺だからこそアルスの離宮に仕掛けられることがある、と言ったら? 繰り返したくないんだろう?」


「なぜ、それがわかるのですか! 何も知らない平民のくせに」


 ブレナンの顔色は、真っ青を通り越して紙のように白かった。


「ああ。俺は何も知らない。カマを掛けただけだ。ただ、あなたには何か、ナオミ様に借り……いや、負い目があるんじゃないのかと、さっきのやりとりで確信した」


「なぜですか」


「ブレナン先生、あなたにとってナオミ様と、彼女の子供たちは大切な存在だ」


「きさまに言われるまでもない!」


「だが、ナオミ様が危険かもしれない俺を手当てする、と言ったら従ったのに、レーンが俺と遊んでいたら引き離しにかかっただろう?」


「私の仕える主人がナオミ様だからです!」


「違うね。ディアナに仕えて分かったが、召使いは主人に助言をした上で、まずいと思ったら主人の決定を取り消させることもある。ブレナン先生は、森の中の屋敷でそういう立場だった。その気になれば、ナオミ様を突っぱねて俺を森に放り出すことくらい、できる」


 レミーは、どこまでも冷静だ。


「それはそうだ! だが、私は二度と……二度とナオミ様をナオミ様の不本意な目に合わせることだけは! できないのです!」


 ブレナンは絶叫し、糸が切れたように肩を落とした。


「なにがしたいのですか、レミー」


 しょげた様子のブレナンの肩を、レミーは軽く叩き、表情を緩める。


「男がそこまで必死になることだ。女子供に聞かせられねえこともあるだろうよ。場所を移そう」


「わかりました」


 レミーとブレナンは、二人して部屋を出ようとする。

 なにそれ。めちゃくちゃむかつく。

 ディアナはティーカップをソーサーに叩きつけた。

 甲高い磁器の悲鳴が部屋に響く。


「ちょっと! そんな言い方ないでしょ!」


「ディアナには嫌だろうな、たしかに」


「なにその余裕ぶった顔」


「ごめんって。でもな、男は格好つけないと生きていけないめんどくせえ生き物なんだ。俺、何度もなめられたとか、女に格好悪いところ見せただとか、くだらねえ理由で殺し合う馬鹿どもを見てる」


「ブレナン先生は、馬鹿じゃない」


「いーや、ナオミ様に一生懸命なところは、路地裏の馬鹿とも共通だ。だからな、ここは馬鹿と馬鹿同士の馬鹿な理屈で、勝負つけなきゃいけないの。だから、ディアナはいまはそっとしておいてくれ。ブレナン先生」


「何でしょうか」


「時期が来たら、きちんとディアナにこの話を説明しろ。俺より頭がいいブレナン先生だ。きっと、ブレナン先生が説明した方がいい。だから、俺はブレナン先生からなにを聞いても、ディアナには一言も伝えない。もし口を滑らせたら、ディアナの側仕えを外して、王城から一生出入り禁止でも構わない」


「……わかりました」


「ってわけだ。ディアナ、先生を信じろ」


 そう言って、レミーはドアを閉めた。


「男って勝手よね……」


 セリカはため息をつく。


「勝手なの、男だけなんだろうか……ママも結構、勝手なことしたし」


 ディアナはポニーテールを切り落とされた時のことを思い出す。

 あの時も、ブレナン先生は、かばってくれなかった。

 ママとブレナン先生の関係は、私が考えているより複雑らしい。


「ディアナ、こういう時は悪いことを全部男のせいにして愚痴るのが一番よ。やるせないことは、いったん自分から切り離して、吐き出し切ったあとに冷静になって、なにが悪かったのか、自分に出来たことはなかったか改めて考えるの」


「うん」


 セリカが追加してくれた紅茶にディアナが口をつけた時、「はあああああああああああああああああ!!!!!」という、レミーの怒声がドア越しに聞こえてきた。

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