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10.教会が絹に対して大混乱になってることを知る話

 ディアナが兄の存在を知らない、と貴族に言うと、貴族はさっと表情を変えた。


「なるほど……複雑なようですな」


「ああ。これ以上のことは、私は知らない」


「失礼いたしました」


「何か知っているのか?」


「ナオミ様が何もおっしゃらなかったということは、おそらく皇太子殿下のお耳に入れるには不適切なことなのでしょう」


 だってそうよ。ママは(ディアナ)に何も教えてくれなかったもの!

 ディアナはそう叫びたかったが、ぐっとこらえる。世界を変えるには、人の上に立つには、上の者としての階級や形式は、活用すべきもの。

 まだ、レーンの仮面を脱ぎ捨てるわけにはいかないんだ!


「そうか」


「全て、過去の話です。それより未来の話をしましょう。教会が、皇太子さまの絹について頭を抱えているそうですよ」


「だろうな。その話、詳しく」


 今度こそ情報を得ようと、ディアナは身を乗り出す。


「国王アルス陛下は、絹の存在を公式にお認めになりましたよね」


「ああ。あるのだから当たり前だろう? それに王族は、天使の子孫なのだから」


 それっぽいことをディアナは言う。


「教会としては頭が痛い問題で、教会だけのものだったはずの絹が、単なる神のものになり、しかも女が作れる。されど国王が認めてしまった以上は悪魔の魔法ということもできない。上層部では、毎日会議が続いているようです」


「うわさになっているのか?」


「ええ。ミサをやるのが新米神父になり、不慣れなせいで、いろいろと不満がたまっているそうです。信心深い人ほど」


「神の奇跡を素直に認めるなら、それで終わる話なのに」


 今のところは教会の心配はしなくてもいいのかな、とディアナは思う。少なくともアルスのように、無理やり教会から絹を奪われる、ということはなさそうだ。


「ええ。その通りです」


「教会が絹に対して何かしてくることは、会議が終わるまでない、と考えてもいいのかな」


「それはどうでしょうか?」


「え?」


「上が上のものとして、下にきちんと指示を出せない状況です。ですから、下のものがばらばらに過激かげきな手段に出てくることはありえるでしょう」


「それは―—」


 どんなことをしてくるの? とディアナは聞こうとした。


「女性が戻ってきた。難しい話はやめて、美しい方の笑顔を呼ぶような話にしましょう」


 向かい側の貴族が、お色直しが終わった女性が戻ってきたのを見て、毒にも薬にもならない話を始める。

 セリカをこの話に入れたら……喜びはしないけど、真剣に考えてくれるだろう。

 ディアナが微妙な気分から抜け出せないまま、パーティーは終わった。


「って話なのよねー!」


 翌日。ディアナはミルキー以下絹の娘四人衆と、セリカと集まってお茶会を開いた。


「ディナーパーティー、お疲れ様ですの」


「メリッサ、ありがとう」


 ディアナはハーブティーを受け取る。すっぱいロースヒップの味がただ、おいしい。


「でもまさか皇太子様にお兄様がいたなんて……しかもノーデン領主」


 サラの表情は複雑だ。


「ノーデン領主がどうしたの?」


「ノーデン領主が開発したいろいろな機械のせいで、私たち、身売りすることになったようなものですの。まったく、自分のもうけしか考えない冷血野郎ですわ!」


「なんだか、ごめん。話したことない兄さんだけど……」


「で、でも皇太子様には感謝していましてよ! お兄様がだれであれ、これは変わりませんわ!」


 黙ったサラに代わって、メリッサ。

 その会話を聞くセリカの表情は、みるみるうちにけわしくなっていった。


「セリカ?」


「え、あ、皇太子様、オーランド様のきょうだいなの? 全然そう見えない、って思ってただけよ」


 ぎこちない作り笑いを浮かべて、どうみてもセリカは本音を言っていない。「そんなことより教会対策よ! 教会対策! ディアナ、なにか知らない?」


「あー、なんだか、会議開きまくってるって。あと、下の人が過激な手段に出てくるかもって」


「自分たちしか絹を持ってなかったから、どうしていいのかわからないんだろうね」


と、ミルキー。


「でも……そういう時って……あぶない」


 ヒルダがつぶやく。


「あぶないって?」


「私の趣味、普通じゃないでしょ」


「うん。ヒルダはもうちょっと普通になって。えっちなことから離れて」


「えと、サラ、違う。普通の話……私の好きがみんなの好きと違うこと、わかってる」


「うんうん」


 ヒルダの趣味と教会に何の関係があるのだろう? ディアナにはまだわからない。


「でも、私の好きを知った人、だいたいとまどって、気が合う人より私にひどいことした。痛いこともするときって、まだ大丈夫でも痛い、って言っちゃうから……お互いに本当に無理な時の合言葉を決めておくけど、それもなしだし、相手も気持ち良くなさそうだった。私のこと、怖がってた……こういうことと、似た空気感じる」


「……ヒルダ。つまり、理解できないものは怖いから、ひどいことをする、って話で合ってる?」


 例えのせいで頭に入ってこなかったが、ディアナはやっとヒルダが何を言おうとしているのか理解した。


「うん」


「ありがとう。心配してくれてるんだね」


「……今は、戸惑ってるだけ、だと思う。教会」


「でも、これからはわからない?」


「うん。教会はお客様じゃない……あれ? でも神父みたいなお客様が来たことあるかも。服の手触りが、絹だった」


「えっ」


 お茶会は沈黙に包まれた。

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