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第十八話「JKたちからお説教」

 さて、俺にできることはなんだろうか。


(ちょっと小野寺たちを揺さぶって話を聞いてみるか)


 茅ヶ崎のためになにかしてあげたいという思いが先走っていた。


(二人の間で、なんかすれ違いがあるのかもしれないしな)


 こういうのは、両者から話を聞いたほうがいい。

 このお節介が原因で、俺がイジメの標的になる可能性もあるが……。


(どうせ一度終わった人生だ)


 そう思うと少し気持ちが楽になる気がした。俺はズルでこの場にいるんだから、保身を考えるべきではないのだ。


 小野寺たちは、今日も校舎裏にいるだろう。善は急げだ。早速、行動に移そう。


「……用事を思い出した」


 俺は作業の手を止めて、茅ヶ崎に向き直る。


「ちょっと席を外すぞ」

「べつに……もともと、あたしの仕事だし」


 そう言いながらも、茅ヶ崎はどこか不満げだ。


「早く戻ってきなさいよ」

「へいへい」


 一人でこの仕事量をこなすのは、骨だもんな。

 印刷室から出ると、そこには意外な人物の姿があった。


「あら八代くん。奇遇ね」


 御川は印刷室のドア横の壁に背中を預けていた。あきらかに偶然通りかかったという体勢じゃない。


「小野寺さんのところにいくの?」


 言い当てられ、俺はぎくりと体を硬直させる。


「……なんでわかるんだ?」

「あなたと茅ヶ崎さんの会話を聞いていたからよ」


 平然と言い放つ。


「いつから?」

「あなたが自分語りに酔っているところあたり」

「わりと、がっつり盗み聞きしてるな……」


 非難の視線を送るが、御川はどこ吹く風だ。


「委員会の仕事で印刷室に来たら、イジメがうんたらの話が勝手に聞こえてきたのよ。……いい? 私は『聞いた』んじゃなくて、嫌々『聞かされた』の。被害者なの。おわかり?」


 じゃあノックするなりすればよかったんじゃ……と思わなくはないが、それを言ってもおそらく三倍にして反撃が来るだけだろう。


「はぁ……まぁいいや。俺、急いでるから」


 軽く手を挙げ、御川の前を通り過ぎようとして、


「待ちなさい」


 喉にチョップが飛んできた。


「ぐへっ……ごほっ、な、なにすんだ!」

「八代くんって本当に頭が悪いわね。小野寺さんのところに行って、いったいどうするつもりなの? イジメをやめてくださいって頼むの?」

「そ、それとなく話を聞き出すだけだ。俺が茅ヶ崎の味方ってことは伏せて……」

「藪蛇になりかねないわよ。あなたのコミュニケーション能力では、とくに」


 ……ぐうの音も出ない。

 俺が標的になるだけならまだしも、茅ヶ崎への当たりが厳しくなる可能性だってあるのだ。


「で、でも、だったらどうすれば……」

「とにかく、まずは落ち着きなさい」


 宥められる。

 俺はたしかに、焦って視野が狭くなっているのかもしれない。


 しかし、御川はどうしてここまで俺の心理がわかるのだろう。小野寺のもとへ行こうとしていることだって、茅ヶ崎にはバレなかったのに……。

 それに、言葉は厳しいがこうして俺にアドバイスをくれるのも意外だ。御川なら、我関せずの姿勢を貫きそうなものなのに。


「どうかした八代? なんか騒がしいけど」


 印刷室のドアが開き、茅ヶ崎が顔を覗かせる。

 御川の姿を認めて、目を大きく見開いた。


「み、御川さん?」

「ちょうどいいわ」


 御川は、俺と茅ヶ崎を交互に見て、頷く。

 嫌な予感がして、額に汗がじわりと滲んだ。


「茅ヶ崎さんに、あなたが今しようとしていたことを説明してあげましょう」

「えっ、いやっ、それは」


 さすがに本人に知られるのは気まずい。

 それに、御川に諭され少し冷静になってみると、自分がやろうとしていたことが結構な暴挙であるように思えてきた。


「……八代? どういうこと?」

「悪いけれど、話は一通り聞かせてもらったわ」


 御川はちっとも悪びれていない表情を茅ヶ崎のほうに向けた。


「この男、小野寺さんのところへ直談判しに行く気だったのよ」

「はぁ……!?」


 鋭い視線が俺に突き刺さる。

 針の筵にいる気分だった。


「ち、違うんだ。直談判とかじゃなくて、ちょっと話をしようと思っただけで……」

「同じでしょ! ホントにそんなことするつもりだったの!?」


 怒りの形相で詰め寄られ、たじろぐ。


「ま、まぁ……義憤に駆られてっていうか、勢いで……普段ならこんなこと思いつかないんだけどなぁ……」


 しどろもどろになって言い訳する。

 茅ヶ崎と御川の視線が、さらに冷たいものになった気がした。


「…………すまん。考えなしだった」


 素直に謝ることにした。

 これは勝てない……。いくら二十七歳(おとな)でも……いや、二十七歳(おとな)だからこそ、JK二人にこんな目で見られるのはキツイものがある……。


「余計なことしないで」


 茅ヶ崎は腰に手をやって、大きなため息をついた。


「そんなことしたら、八代がまたイジメられちゃうかもしれないじゃん」


 この期に及んで、俺の心配だった。

 茅ヶ崎が怒るときは、きっといつも誰かのためなのだろう。


「私は八代くんがイジメられてもどうでもいいのだけど」


 ……コイツ(御川)とは大違いだ。


「じゃあなんで、チョップで俺を止めたりしたんだ? 痛かったんですけど?」

「チョップ、好きなのよ」


 理由になってない。


「それに、あなたの自己満足で苦しい思いをする茅ヶ崎さんが不憫だったんだもの」

「御川さん……」


 茅ヶ崎は、感謝の眼差しで御川を見る。

 不本意なことに、茅ヶ崎の中で御川の評価が上がってしまったようだ。


「茅ヶ崎さん。この男、よくわからないところで謎の行動力を発揮するから気をつけてね。行動力というか、キモさというか」

「おい」


 行動力とキモさじゃ、まったく意味が違うだろ。ていうか、少なくとも御川の前でそんなものを発揮した覚えはないぞ。


「わかる……コミュ力高いんだか低いんだか」

「低いのよ」


 断定される。

 その通りなんだけど、御川に言われたくはない。


「……御川さんって、意外に話しやすいんだね」


 茅ヶ崎が目を瞬かせて、ぽつりとこぼす。御川は居心地が悪そうに、ふいっと顔を背けた。


 俺をダシにして、女子二人の仲が少し深まったらしい。

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