9.収束する事件(最終回)
僕が目を覚ますと、そこは狭い集合住宅の一部屋だった。
フローリングに身体を横たえて雑魚寝していたせいで、体中がこわばって、関節の節々が痛んだ。
壁際やロフトでは、窃盗仲間の昏睡状態が続いていた。
「待ってろよ。もう少しで老婆の怨念から救ってやるから」
そうコンビニで朝刊新聞を購入して、車番を偽造した軽自動車の中で見出しを開く。
僕は、絶句した。
【連続強盗殺人事件に終止符か!?】
【○○県警察が重要参考人の身柄を確保!!】
【天網恢恢疎にして漏らさず!!】
え、犯人が捕まった?
だったらなんで仲間たちの呪いがまだ解けないんだ。
その理由は詳細の記事を見てわかった。
…………身柄の確保に成功した。
しかし、送検までの手続きの間、留置所にて身柄を拘束していたところ、容疑者とみられる強盗集団は、"何らかの突発的な原因"によりその全員が意識不明の重体となっており、今もなお意識が戻っていないため、病院にてその回復を待っている。
これは、まさか……。
あの老婆の呪縛がこいつらにも襲いかかったのだろうか。
もしもそうだとしたら……。
なんだこの無差別感は。
なんだこの理不尽な呪縛は。
とにかく手当たり次第に見付けた人間を呪っているということなのか。
あの当日に、住居に忍び込んだ闖入者をすべて。
いや、正確には僕は忍び込んではいなかったのだが、それはともかくとしてだ。
僕はなんだかその被害者宅に行かなければならないような痛烈な義務感に襲われた。
現場に入ることは許されないだろうが、それでも近隣住民に老婆や子ども達の人となりを聞いて、弔ってあげることくらいはできるはずだ。それで老婆の怒りを静められるかどうかはわからないが、せめてもの供養をしてやりたいと思ったのだ。犯罪者の僕が言っても、偽善どころかただの悪党であることに変わりはないが、それでも最低限の、人としての道徳や倫理は守りたかった。
僕は新聞に記載された住所をグーグルマップに打ち込んで、当該の事件現場へと向かった。
犯人は現場に戻ると言うが、奇しくもそれをなぞる形になってしまったわけだ。
当該の事件現場に近付くと、マップはストリートビューに切り替わった。
しかしもう、周辺画像を見る必要はなくなっていた。
立ち入り禁止の黄色いビニールテープが、四周を囲むように伸びていたからだ。
その住居は二階建てではなく、一階建てのようだったが、それ以外は夢で見た景色と概ね等しかった。
そこでは制服警官が出入りしていた。
遺体や遺留品はすでになくなっているだろうが、鑑識課による作業でも残っているのだろうか。
今の時代の科捜研は髪の毛一本を落としただけでも、そこからDNAを照合し、犯人の特定に結び付けるというから恐れ入る。
僕の存在はまだバレていないだろうが、変にうろうろして職務質問をされても困るから、現場からは多少の距離をとった場所で聞き込みを開始することにした。
職業は地方の新聞記者を偽って、安物のスーツと革製の手帳を持参して聞いてみたのだが、老婆の人物像を知っていくにしたがって、僕は涙を流すことになっていた。被害者の遺骨が納められているはずの墓石の前では、いつの間にか長く長く合掌していたのである。
きっと天国では、あの老婆とその子どもたちが仲良くスナック菓子でも食べながら、楽しく過ごしていることだろう。どうやら彼女は、重度の認知症と被害妄想に悩まされていたようだが、僕は天国の方では幸せに暮らしてほしいと願いながら、未開封のポテトチップスの袋をお供えした。
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しかし、その数日後。
私の意識がこの世に戻ってくることは二度となかった。
まさしく、天網恢恢疎にして漏らさずという言葉の通りになった。
これで完結になります!!
最後までお付き合いくださり、
ありがとうございました!!m(_ _)m
今回のお話は、【短期集中連載】にしようと当初から決めていたので、変に引き伸ばしたりせずに区切りの良さそうなところでエンディングを迎えることにしました!
まだまだ至らない点はたくさんありますが、それにもかかわらず、最後まで読んでくださった読者の方々に多大なる感謝を申し上げます!
本当にありがとうございました!!m(_ _)m