8.悪夢からの目覚め!
いや、待てよ。
あの老婆は殺されたはずだろう。
じゃあ、ここは、まさか。
僕は、現世と黄泉の狭間にいるのだろうか。
通常なら、「リアルな夢を見ている」と考えるのが一般的だ。
こんな空想はあるわけがない。
荒唐無稽だ。
だけど、これも奇妙に符合しているのだ。
僕が所属していた窃盗集団のメンバーが。
毎晩ひとりずつ、意識不明になっているのだ。
そのメンバーは、僕で、最後のひとりだった。
これが老婆の怨念ならば、ここが現世と黄泉の境界線だとしても、なにが不思議であろうか。
そもそも睡眠を、ある一種の仮死状態だと仮定するならば、この理論もあながち間違っているとは思えない。
僕はなんだかこの家から脱出しなければ、本当に"死ぬ"もしくは"植物状態"になるような、そんな妄信的な概念に支配された。
これが夢だと気付いたのはいつからだろう。
もしもこれがただの夢ならばとっくに覚めてしかるべきだ。
覚めろ、覚めろ。悪夢よ、覚めろ!
僕は真実が知りたいんだ。
そう寝室に入って、掛け布団の中身をまさぐった。
理由はよくわからない。
ただ、"綿が抜き取られていた"なら、"別のものが詰められている"ような気がしたのだった。
その予感は的中した。
玄関口の物かは知らないが、とにかくカギがあったのだ。
僕はそれを握りしめて、階段をゆっくりと下りた。
食堂と階段を挟んだ木製扉を、音を立てないように開けて、中の様子を窺ってから、静かにドアを閉める。老婆の気配はない。今回の僕の作戦はこうだった。
【老婆の殺気を察知して、絶対に出くわさないようにする!】
よくよく思い返してみれば、これまでの遭遇は全て後手後手に回っていた。
やつが急にふらっと現れて、僕があわてて逃げるの繰り返しだったのだ。
それじゃあダメだ。先手を打たなきゃ。
今回の脱出劇は、やつを出し抜かなければならない。
よし、慎重に行こう。
そう心に決めたが、いや、待てよ。
と、僕はあることに思い至った。
僕がやつの殺気に気が付けるということは、やつも僕の気配を察知して動いているんじゃないだろうか。なぜか二階には上がってこれないみたいだけど、それならば大まかに辻褄は合ってしまう。もしも気配を読み取れないのならば、正面からばったり出くわす機会もあったはずだ。だが、今のところそうはなっていない。
あの老婆を探して回るのは不気味だが、行動パターンが読み取れれば、脱出には有利に働くはずだ。
これからはやつを探し、気付かれない程度の距離で背後を取り、やつが玄関から遠ざかったタイミングでカギを開けることに従事しよう。もうそろそろ失敗は許されない。
そうキッチンの扉を開けると、老婆が床下収納から遺体を引っ張り出しているところだった。出した遺体の顔面にフェイスタオルをかけている。僕はこっそり手を合わせてその作業を見守った。見ているだけでも十分に辛くなる。三人目の子どもの遺体を引っ張り出して、脱衣所へと消えていくのを見届けてから、僕はキッチンへと通じる木製扉を閉めて、廊下、茶の間、廊下を、できる限りの早足で駆け抜けた。
「待ってろよ、婆さん。あんたの無念は、僕が現世で晴らしてやるから」
僕がそう義憤に燃えていると、ガチャリと玄関のドアが開いた。
僕の身体は真っ白い光に包まれる。その背中を、強い殺気が突き刺した。
「待ちやがれ! お前なんかオラが殺してやる!」
そんな老婆の怒声がどんどん遠く聞こえる。
悪夢の夜明けは近い。
「安心しろよ。婆さん。現世に行ったら必ず成仏させてやるから」
そうして僕の意識は覚醒へと向かったのである。