7.最悪の符号
僕はキッチンの床下収納まで這って進んだ。
もうここくらいしか思いつかない。
そう半円状の取っ手を掴んで、上に引いた。
子どもの亡骸がそこには詰められていた。
しかも、一体ではない。
それは腐敗していて、なにやら黒い物体が蠢いていた。
僕はその臭いを顔面で受け止めて、顔を背けて、嘔吐した。
一瞬のできごとなのに、それは、脳に焼き付いて離れない。
え、なんだこれは。
そこである記事を思い出した。
【また、連続強盗殺人が発生!】
【無能な警察陣、未だ手がかりすらつかめず!?】
その記事の詳細は、確か……。
思い出そうとしても、頭の中にフィルターが掛かったみたいに、うまくその記憶が辿れない。
でも、もしも僕の推理が正しければ。
そしてその日付が合っていれば。
もしかしたらこれは、この現状は、わけもわからずに軟禁されたのではなく、正当なる僕への報いとして訪れた悲劇なのかもしれない。
とにかく全ての真相は、二階の書庫にある地方新聞が教えてくれるはずだ。
ずり、ずり、と身体を動かす。
食堂と階段とを隔てる木製扉まで匍匐していると、
「こうなったら決闘してやる!」
満身創痍の老婆が現れた。
刃物は肩に刺したままだった。
「早く言いやがれ!」
そうすごい剣幕で怒鳴り散らす。
「お前、オラの孫を、どこにやりやがった」
やっぱり、あの遺体は……。
最悪の符合が頭を過ぎる。
食堂のテーブルには椅子が四脚あった。
だから独り暮らしではないのだと思ってはいたが。
「知るかよ」
「お前みたいなやつは、悪魔だ!」
老婆の顔面は涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃになっていた。
あいつ、床下収納の中を見たのか。
僕はそう思案して、すぐに、床板を開けたままにしていたことを思い出した。
「俺は、なにも、知らねえ……」
まさか、そう胸が激しく痛む。
あいつらがやったのか?
殺しは、やらない約束だったのに?
僕は歯を食いしばって、階段へと通じる木製扉を開けた。
大きく息を吸い込んで、大きく足を動かす。
痛い、痛い、痛い、痛い。
だけど、あの老婆の心はもっと痛いはずだ。
くそ、もしかしたら僕は。
とんでもない犯罪に加担していたんじゃないだろうか。
二階に飛び込んでからは書庫へと急いだ。
すぐに籐椅子の地方新聞を広げる。
【また、連続強盗殺人が発生!】
【無能な警察陣、未だ手がかりすらつかめず!?】
そして、詳細な記事を流し読みする。
日付、住所。やっぱりここだ。
まさかあいつらが……。
否定したい、否定したい。
そんなバカなと一笑に付したい。
でも、これは。
最悪の符合が、見事に、一致してしまった。
「婆さん」
僕はそう駆けだそうとして、もうひとつの記憶に呼び戻された。
それは窃盗集団の仲間が、僕に言ったひとことだ。
「もう盗られたあとだった」
彼らはそうドライバー役の僕に言ったのだ。
その後、僕は軽自動車を走らせて、現場から逃走し路地の中へと消えたのだが。
もしも、犯人が別にいるとしたら。
ここで老婆に殺されるわけにはいかない。