5.突然の光明
僕はもう何時間も恐怖の支配下にあって、肩を震わせながら、揺れる呼吸に身を委ね続けていたような気もするけれど、実際にはそれほど長い出来事ではなかったのかもしれない。
鉄格子で閉ざされた採光用の窓ガラスに目線を振るが、今が昼なのか夜なのかわからぬ程度の光量しか差し込んでいなかった。
「あとはベッドの下とか、便器の中も探してみるか」
そう玄関のカギを捜索してみるが、やはりどこにも見当たらない。
もしかしたら一生出られないままかもしれない。そんな弱気が心中に去来する。
「くそ、もう嫌だ!」
自暴自棄になりながら階段を下りて、食堂に通じる木製の扉を開ける。
手には包丁を持っていたから、傍若無人な感じで、ドアを開け放った。
すると……
「えっ!?」
喜色と疑惑が入り混じった声が、口内から、漏れ出た。
「あり得るか。こんなことが……」
テーブルの上には、なぜか、"カギ"が置いてあったのだ。
もしかすると脱出用のカギかもしれない。
だが、なぜそんなことをする?
当たり前のように、僕はいぶかしんだ。
よそ者にこれ以上、家の中を物色されたくなかったから?
だったら玄関のドアを開けて、「さっさと出ていけ!」とでも叫びそうなものだが。
気が動転して襲いかかっただけ?
本当は温情措置を講じるつもりだった?
それとも……
僕は最悪な想像を打ち消して、そのカギを手に取る。
深呼吸して、自分に言い聞かせる。
とにかく、これで話は前進したんだ。
正誤はわからないけど、これでストーリーは変化するはず。
僕はお守りのように左手でカギを握りしめて、護身用の包丁を右手で強く握った。
遭うな、遭うな、遭うな、遭うな。
どっどっどっど。心臓が早鐘を打つ。
こんなところで老婆に遭遇したくない。
廊下、茶の間、廊下、玄関。
そう木製扉を慎重に開けていくが、老婆が徘徊している様子はない。
ドアノブの鍵穴に、先ほど手に入れたカギを差し込む。
緊張で手が震えて、穴に、うまく棒が入っていかない。
「ん? おかしいな」
何度もカギが弾かれるのを不審に思い、規格を確かめてみる。
それは、玄関のカギではなかった。
刹那、強烈な殺気に背後をとられた。
振り向かなくても、刺すような気配で伝わってくる。
この感じは、あの老婆だ。
僕はカギを落としてしまったが、なんとか勇気を奮い立たせて、やつに包丁を向けた。
恐怖で、足が内またになる。
化け物は、鉄パイプを、手にしていた。
悪夢の再来だ。