4.見えない糸口
僕はまず食器棚へと向かった。
中は相変わらず、茶碗や丸皿が割れたり、コップのガラス片が散らばったりしていて、ひどい有り様だった。ためらいながらも手を突っ込んで、玄関のカギを探す。なにも、なかった。
長方形のテーブルや四脚の椅子の裏にまで目を配るが、そこにもない。
今度はキッチンへと繋がる木製扉を開けてみる。
僕はキッチンカウンターにあるまな板や包丁、たわしやスポンジ、食器用の洗剤、シンクと、なめるように見ていくが、どこにも玄関のカギは見当たらなかった。流し台の下にある収納棚を開けると、鍋やフライパンが、ごちゃあっと適当に押し込まれているだけだ。
「まじかよ……」
僕の心に焦りが生じた。
次に、真向いの冷蔵庫を覗いた。
牛乳や卵パック、肉などが詰め込まれた場所、野菜が入っている場所、製氷機、冷凍菓子が入っている場所と順番に物色していくものの、どこにも玄関のカギはない。
「いったいどこにあるんだよ」
そう床下収納の取っ手に指をかけようとした瞬間。
あの殺気が近付いてきた。
姿は見えない。音はしない。
それなのに、リアルな実体を伴って、化け物の接近を感じたのだ。
「まさか」
そう立ち上がると同時に、茶の間へと通じる木製扉が開き、般若の面をした老婆が出現した。
僕は、胃の辺りをぎゅっとつかまれたような衝撃に耐えながら、食堂へと足を向ける。
「お前なんか」
化け物は走って追いかけてくる。
「オラが殺してやる。覚悟せい!」
そう手には包丁を握っていた。
「ポテトチップス、ポテトチップス」
僕は老婆の手からスナック菓子がなくなっていることに少なからぬ落胆を覚えていた。
あれを持っているときは、気持ち悪いほど大人しかったのに。
なんで今は包丁なんだよ。
僕は階段へと通じるドアノブに手をかけようとしたが、無意識にそれは引っ張り戻された。
「ちっ」
老婆が舌打ちをする。
僕が腕を伸ばした位置には、包丁が突き刺さっていた。
あのままドアノブを回していたら。
そう考えると失神しそうで、目線を老婆に戻した。
「おい、婆さん!」
僕は包丁を引き抜いて、刃を、化け物に向ける。
「動くなよ」
そう言い残して、階段を駆け上がった。
経験上、あの老婆は二階までは追ってこないはずだ。
本当にもう、あいつは何者なんだ。
そう息も絶え絶えにドアにもたれかかる。