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エピローグ クーデター始末記

 実際はアンセー大監獄(賢王の本拠)へ乗り込むまでもなく、王城謁見の間で決着は着いたけれどね……


「みんな本当に頑張ってくれたよ……」

 賢王と北面の騎士(ノルデンリッター)の大監獄不在を狙って、玉璽奪取に成功したキィロ、

 憲兵隊と近衛兵団を巻き込み、賢王親衛隊への対抗戦力をまとめてくれた少尉、

 なにより、そんな計画を立案してくれたキコンデネル、

 みんな見事に自分の仕事を果たしてくれた。

 満点だよ。

 お陰でクーデターは一滴の血も流れず、

 悪王の追放という一番穏便な結果で幕を下ろすことが出来た。

「本当にありがとう」

 いくら感謝してもしきれない。

 これでフラムドパシオン帝が歪めてた統治も元に戻るはず。

 まぁ、放漫政治の尻拭いをする人はメチャメチャ大変だとは思うけど……


「それはケンタロウ様の御役目じゃないんですか?」

「いや。まつりごとを治めるべきは、この世界(ミラビリス)の人よ。僕みたいな部外者じゃなくて」

 それが自治ってもんだ。

 その地で生まれ育ち、故郷に対する愛着と責任を自覚する人が執り行うべきだ。


「そのことじゃが、男爵殿?」

 キコンデネルが含む所ある表情で口を挟んできた。

新後宮ノイエボタニシャーガーヘン へ忍び込んだ時な……骨壷を見たじゃろ?」

「ああ、死んだ召喚者をとむらった納骨堂だね」

 使い捨てにされた影武者を火葬して、人知れず供養していた施設。

 それが何か?

「あんなものは、ワシらには思いもよらぬこと(・・・・・・・・)じゃ」

「えっ?」

「ケンタロウ様、この聖ミラビリスでは「死者を葬る」といえば土に埋めることです。火で焼くなどという風習は聞いたことありません」

「そうなの?」

 僕の問いにキィロも少尉もウンウンと頷いた。

「遺体を焼くってことは、来たるべき復活の器を焼くってことだから……相当に罰当たりよ」

「マトモな死に方をした人の処理じゃないですね、火葬なんて」

この国(ミラビリス)で遺体を焼かれる人は火事に遭った人くらいじゃよ。重罪人ですら丁重に土葬されるのが通例じゃな」

「そ、そうなのか……」

 そういう文化圏なんだな……

「てことは、つまりじゃ男爵殿」

「はぁ……」

「賢王は【火葬に対して忌避感のない文化圏で育った者】の可能性がある」

「まさか……」

「そうじゃ男爵殿、賢王フラムドパシオンも男爵殿同様、平行世界から招来された異世界人――かもしれないんじゃ」

「異世界人が王として、この世界(ミラビリス)を支配してた、ってことか……」


 確かに、この中世レベルの文明度なら、現代人の爆アドで権力の掌握も可能かもしれないが……まさかこんな大帝国の頂点まで出世できるのか……

 文明度の差って恐ろしい……


「しこうして男爵殿、王宮の政治とは前例の踏襲じゃろ?」

「あんなエルフきちがいにも務められていたんだから大丈夫よねぇ? 陛下ユアハイネス

「え、ええ~……」

 そんな期待の目を向けられても……

 僕は、王様なんて務めるつもりはないよ。僕は、元の世界へ還るんだ。

「まさか一人で退職なさるつもりじゃありませんよね? ケンタロウさま」

 部下をブラックな職場に残したまま、離職とか許されませんよ?

 キィロの笑顔が怖い。

「そもそも辞めるにしても、上司の許可がなければ退職など叶わぬわ」

「そんなことを言ってもだね、キコンデネル」

 僕の「上司」は、もう存在しない。

 時空の果ての、平行世界へ没シュートされてしまった。この僕が「追放」してしまったのだから。

「よく考えてみるのじゃ、男爵殿」

「へ?」


「もしフラムドパシオンが異世界から喚ばれた召喚者なら――喚んだ奴が居るはずじゃろ」


「あ、そうか?」

「その【最初の召喚者】を探さぬうちは、退職届など出せぬじゃろ?」

 なんだか、また大賢者の悪知恵の言い含められているような気がしないでもない……

 が、キコンデネルの言い分にも一理ある。


(この玉璽……)


 異世界召喚の魔術回路は唯一無二の国宝級リマンシールである。

 でも、【これを作った奴】、この超高等魔術回路を組み上げた者が、

(この世界の何処かに、いるはず!)

 その技術を抑えない限り、第二第三のフラムドパシオンが産まれる可能性はゼロじゃない。

 そしてその【歓迎されざる王】に再び支配権を奪われ――歪な政治が為されるかもしれない。

 それは不幸なことだ。

 本当に傍迷惑なことだ。この世界に住む者にとって。

 少尉にも、キコンデネルにも、キィロにも。


「残業――――しなくちゃいけない?」

「社畜ならアタリマエ。サービスサービス!」

 日本語の出来ない外タレかスポーツ選手に無理矢理言わせたみたいなイントネーションで、大賢者様が僕に迫る。

「せっかくクーデターを果たしたのに、いきなりトップが消えちゃ、即、内戦でしょ?」

 現実派の少尉が当然の理屈で僕を諭してくる。

「まだ、私はケンタロウ様をご案内しきれていませんから、ツアコンとして」

 アサシンとしては超一流でも、ツアコンとしては半人前の彼女、まだお得意様()を手放してくれそうもない。


 共に死地デスマーチを駆け抜けた部下たちに睨まれては、「定時退社」なんて不可能だ。

「むむむ……」

「男爵殿?」

陛下ユアハイネス?」

「ケンタロウ様?」

 『元の世界への帰還』というタイムカードを押すのは、しばらく先になりそうだ。


「よし! こうなったら、残業代をむしりに行こうか!」

「「「もんじょわ!」」」


 賃金(不払い)むしる相手は【上司】しか居ない。

 成り行きで王様に就いてしまった以上、僕の上司は【僕を喚び出した人を喚び出した人】と考えるのが筋ってもんだろう。


「じゃあ、もう少し、僕につきあって頂ける?」

「ええ、喜んで」

 キィロ(添乗員さん)は満面の笑みで、僕の願いを承諾してくれた。


以上で、『ケモミミ添乗員さんと行く異世界ワールドミステリーツアー』完結にございます。


ここまで付き合っていただけた方、本当にありがとうございました m(_ _)m

書いてる最中から「あそこはもう少しああした方が良かった、こうした方が良かった」の念が、かつてないほど積もりまくった作品でしたが、如何だったでしょうか?

多少は楽しんでいただけた部分も……あったかな……(自信なし


とりあえず健太郎の物語はここまで。

次は、別の誰かで、異世界を旅することにしましょうか。

(心残りをリベンジしたい! けれど、リメイクになるか完全新ネタになるかは、まだ不明)


それでは、しばしのお別れでございます。


あ、挿絵とか後で追加するかもしれないんで、Twitter(@Helvetica_Ikj)とかチェックしてて頂けると、更にありがたいです。

ではでは、またの機会に!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れ様でした。 [気になる点] 最後 もんじょわ じゃなかったんですね。
[良い点] 完結、おめでとうございます! ケンタロウ達の旅がまだまだ続きそうなワクワクする感じで終わり、こちらもワクワクしたまま読み終えることが出来ました 終わってしまうのは寂しいですが、どこかで…
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