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エピローグ クーデター始末記 - キコンデネルの場合 2

オークションハウスで大暴れしたあと、キコンデネルは何をしていたのか?


その続きです。

 大聖堂での面会の直後、

 善は急げとばかりに、キコンデネルは大司教たちを暗い坑へと導いた。

 そう、僕らが後宮へと忍び込む時に使った、あの地下道だ。

 帝都の下水ネットワークの末端から掘り進んだ潜入坑で、一行は城の地下へと潜入し……


 果たして、彼らは対面を果たした――【炉】と。


 王城の地下、元々、留置施設としてしつらえてあった区画に、炉が据えられていた。

 ちょうど寝転がった人間が収まるほどの炉が。

 社畜御用達のカプセルホテルを彷彿とさせる窯には――――灰と、炭と、骨が散乱していた。

 汚れ具合からして相当に使い込まれた施設だと分かる。

 使い込まれた……つまり何体も遺体が焼かれた窯ということだ。


「「「「…………」」」」

 絶句する司教たち。


 同じ部屋には大量の燃料が積まれ、不自然に破り捨てられた着衣が捨てられていた。

 まるで、動かない死体から無理矢理剥ぎ取ったような着衣が。

 着衣とは人間の証明だ。

 着衣をまとう獣は居ない。

 そして炉の傍らには二つのかごが。

 それぞれ、大量の金歯と指輪が仕分けられていた。

 明らかに【猟奇的な背徳行為】を想起させる光景だ。


 司教たちは確信した。

「なんと罰当たりな!」

 これは【人を焼くための炉】だ!

「復活の肉体を毀損きそんするなど――――神をも恐れぬ暴挙よ!」

 本来、聖ミラビリス教徒の国には存在してはいけない禁忌の施設を前にして、

「こんなものが……王城の地下に在る、だと????」

 司教たちは混乱の極みだ。

 こんなことが露見したなら、聖ミラビリス教会の存亡に関わる。

 最も根本的な教義ドグマに背く行いを、この国の最高権力者が行っていた!

 その事実を、彼ら(宗教幹部)は見逃せる立場にない。

「――神よ!」「なんとむごい試練を我々に与え給うか!」


 取り返しのつかない場所へ踏み込んでしまった! と狼狽えるばかりの司教たちへ、

「大司教様」

 沈着冷静にキコンデネルが切り出す。

「御存知の通り、賢者協会はフラムドパシオン帝に弾圧されました。【迷信の流布者】として」

「あ、ああ……」

「我々賢者は【知恵の女神】から言葉を預かり、それを民草に伝える――その行為を賢王は【迷信の流布】として糾弾した」

「…………」

「では果たして【ミラビリス神】が王から同じ難癖を受けた場合――抗弁しきれましょうや?」

「!!!!」


 キコンデネルは大司教へと突きつけたのだ。

 知恵の女神同様、聖教会の主神たるミラビリス大神もまた、証言台には立てないと。

 神を現世に降ろして、王の前で存在を証明する。

 そんなこと出来ようがないのだ!

 「証言台に立てない」とはつまり、迷信を否定できない、ということだ。

 そんな【霊的信仰機関に共通するジレンマ】をキコンデネルは大司教へと突きつけた。


「あ、ああああ……」

 口から泡を吹いて、膝から崩れ落ちる大司教。慌てて幹部が老人を抱き留める。

 いつ粛清王の気まぐれで「神を証言台へ喚べ」と言われかねない。

 その恐れが老人を卒倒させた。


「大司教様」

 いつかキコンデネルは僕に教えてくれた。

 獲物を追い詰めるだけじゃ、ネゴシエーターとしては二流だと。

 本物のネゴシエーターは、ちゃんと逃げ道を用意してあげるものだと。


「――我が王は『迷信を許す』と申しております」

 我が王。

 つまり僕のことだ。

 現在の王(=粛清王フラムドパシオン帝)は偽の王だから、本物の王(ぼく)のクーデターに加担しろ、という【脅し】である。


 悪魔だ。

 ミラビリス聖教会のトップを無理矢理仲間に抱き込んで、引き返せない橋を渡らせる。

 僕はキコンデネルが一番恐ろしい。



※補足


 キコンデネルが何故、【炉】のことを知っていたか、と言うとですね、

 賢王爆殺未遂事件の時、キィロから(偽の)健太郎の首を献上された賢王は、

「地下で処理せよ」と小姓に命じていますね。

 そこでピンときたんですね。



 あと、着衣をまとう獣は一杯いますねw

 現代ならば。


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