エピローグ クーデター始末記
……と、いうワケで。
『大賢者のプランB』ここに完遂です。
「肩の荷が下りたよ……」
取り敢えず、国政を掌握した僕は……
【粛清王】の不満分子狩りでガッタガタになった宮廷を、【賢王】時代の状態へ戻した。有能な官吏たちが実務を取り仕切れば、もうしばらく、この国も持ち堪えることができるだろう。
半ば言いがかりで捕縛された貴族たちも、密告社会のトバッチリを受けた庶民も、即刻釈放。それぞれ家族の元へ返された。
当然、キコンデネルのお祖父ちゃん――賢者協会関係者も無罪放免である。
そして、僕らのクーデターの、そもそものきっかけ――
年貢の代償として後宮で囲われてたエルフたちも、解き放たれた。
リストにはリープフラウミルヒ村のラタトゥイーユの名も有り、
僕もキィロも胸を撫で下ろした。
「落ち着いたらまた、ご案内します」
「そうだねキィロ」
またあの断崖通路を渡らねばならないのか? と思うと、ちょっと尻込みしそうになるが、
リシリー湖産のボンゴレビアンコは忘れられない。
是非また食べに行かないと。
「次は、あたしたちもご相伴に預からせて戴くわ」
「辺境のエルフ村にも賢者協会を再興せねばならんしな」
少尉もキコンデネルも行く気満々だ。
さて、
クーデターの最終局面、僕らは影武者(同じ顔)という立場を利用して、【今回の騒動には二人の王が居た】という筋書きで混乱を収束させたワケだけれども……
宮廷の幹部が見守る前で、魔法ビジョンで全国臣民に生中継されている中で。
表向きは、
・爆殺未遂事件に遭った賢王は、実は無事ではなかった。療養を余儀なくされ、しばらく政務を執ることは叶わなかった。
・その王の不在につけ込んで、宮廷は(同じ顔の)偽王に乗っ取られ、傍若無人の恐怖政治が横行してしまった。
ということになった。
高札と瓦版で、全国の臣民にも説明された。
嘘だけど。
――完全に僕らのデッチ上げだけど。
「じゃが、コレで辻褄は合うじゃろ?」
キコンデネルは、いつもの小憎らしい顔を浮かべながら嘯く。
「そりゃまぁ……」
誉れ高き「賢き王」が何故、突然、乱心したのか?
【悪魔に魅入られし偽王】が本物に成りすまし、国政を壟断していた、という筋書き自体は悪くないと思う。
しかしフラムドパシオン帝が無責任な王だとしても、あっちの方が正統な王だよ。僕よりも。
こんな汚名を着せるのは、マッチポンプにも程がある。
まさに「死人に口なし」じゃん。
死んではいないとは思うけど。どこか平行世界の彼方へ飛ばされただけで。
「でもね陛下……一つの嘘で何十人もの人の命が救われるのよ?」
グリューエン少尉は潔く嘘を肯定する。
「それは……」
暗殺への猜疑心から証拠もなく処刑される――王の一存で――申し開きの機会すら与えられず。
そんな、専制国家の最も惨い部分を止められたのは良かった。
そこは良かったけれど……
「間違ってません、ケンタロウさまは」
キィロは澄んだ瞳で微笑みかけてくれる。
「キィロ……」
「だってネルちゃんのお祖父さんを助けられたのは……ケンタロウさまのお陰です」
それは違うよ、キィロ。
今回の計画を考えてくれたのも、達成に至る仕事をこなしてくれたのも、みんなの成果だ。
――キコンデネル、グリューエン少尉、キィロ。
僕は、上司として皆の仕事を見守っただけで……




