第六章 賢王を騙せ! 決戦のオークション - 1
『大賢者のクーデタープランB』、そのキモである、激レアリマンシールは未だ届かず!
このままじゃ、作戦にゴーは出せない……と、苦渋の決断を迫られる健太郎。
しかし、だがしかし、
僕の部下は染まってた。
立派な社畜戦士に育ってた。いつの間にか。
デスマーチなんて、なんのその!(※むしろ大好物です)
朱に交われば赤くなる。
これは僕の罪なんでしょうか? 神様?
僕は死後、社畜地獄に落とされるんでしょうか?
兎にも角にも、発動された「プランB」、
少尉と守護龍が帝都中の目を引きつける最中、健太郎たちが挑むミッションとは?
というワケで、現在に至る。
外では遠く、少尉と守護竜カジャグーグーの大怪獣ショーの気配が伝わってくる。
ドッシャァーン!
派手な受け身で瓦解するレンガの音が、数キロ先のここまで届く。
まぁ、当の守護竜・カジャグーグーにしてみれば、ゴロンと寝転んだだけだろうけど。
今のところ少尉もカジャグーグーも、『打ち合わせ通りのナイスファイト』を繰り広げてくれてるようだね。
派手な土煙や、流星の如き火炎……
古都の風情を残す裏町家屋の控えから、その気配を僕は眺めていた。
この雑然とした狭い部屋には、若く美しい女たちが鮨詰め状態。
帝都中が固唾を飲んで、災龍 vs 征竜鎮撫将軍の行方を覗っているのに、
この女たちは無関心。
皆、憂鬱な顔で「自分の出番」を待っていた。
これから訪れる【抗えぬ運命】に俯きながら。
仕方がない。
だって、売られていくんだもの。
ドナドナである。リアルにドナドナされるのだ、この子たちは。
自分には選択権も拒否権もないまま、ご主人に買われていく運命。
そんな控室で、脳天気な笑みを浮かべていられるはずがない。
で、僕も……売られる側だ。買う側ではなく。
グリューエン少尉の出征式を見送った僕は、用意していた馬で人知れず王城を離れ、
帝都中の衆目が少尉へと向けられる中、閑静な料亭が並ぶ裏路地を駆け抜け――
このオークションハウスへと辿り着いた。
エルフとして。
美貌のワケ有りエルフ女子として。
いや……自分で言うのも何だが、やっぱり嘘くさい。
具体的にどこがどうと言うでもなく……全体的に安っぽい。
僕の【変装】にキコンデネルも「コメントに困る」顔をしてた。
エルフと言われればエルフに見えなくもないが、どうにも紛い物くさい。
控えの女子たちが「他人を気にしている状況じゃない」という心境でなければ、「あの子、なんかおかしいよね?」と疑われても仕方ない、それくらいの変装クオリティなのだ。
巷で普通に売っているメタモルフォーゼの安物リマンシールでは、この程度が関の山なのだ!
(ダメだ! こんなの絶対にバレる!)
キコンデネルの裏工作で、僕は『オークションの目玉! 最高級エルフが急遽出品!』として旦那衆へ告知されたが……
(ランウェイを歩かされた瞬間にバレるわ!)
特に、あのエルフ狂いの王には!
自分の後宮で何十人もエルフを飼っているような好事家に、見分けられないハズがない!
あらゆる汚い手を使ってまで、王国中の美女エルフを囲っている趣味人だよ?
騙せるはずがない!
「次のロット、ナンバー四十から五十まで……出番だ」
首に紐を着けられた僕ら「商品」たち、観念して控室から舞台へ向かう。
どうせ売られるなら少しでもマシな主人に買われますように、と天に祈りながら。
(というか、来てるの?)
肝心要の賢王を釣れていなければ、この変装も水の泡だ。
冷静に考えて、もし僕が生命を狙われているとしたら、要塞堅固のアンセー監獄から外に出るなんて考えもしないけど。
それに今は「戦時体制」だ。災厄の龍が帝都を襲っている最中だよ?
こんな時に不要不急の外出するのは、よっぽどの命知らず(か、真正の変態)だけだ。
「うっ!」
(変態だーッ!!!!)
僕と同じ顔の貴人が居る。
一般席からは目隠しされてるが、最もステージが見やすい特等席に居る!
賢王フラムドパシオン、人買いに参上!
宰相を脇に侍らせて、今か今かとお目当ての嬢を待ち構えている!
(ギャー!!!!)
ヤバいヤバいヤバい!
あんな期待に満ち満ちた人を裏切ってしまったら!
キコンデネルの嘘惹句『最高級のエルフ女、緊急上場!』が誇大広告と分かったら……
どうなってしまうんだ、僕は????
激怒した賢王に無礼討ちされてしまうのでは?
オークションハウスのランウェイが僕の血で真っ赤に染まる????
だって今の賢王は【アンセーの粛清王】――人の命がゲームキャラ並みに軽い!
【殺されるかもしれない】というプレッシャーで膝が震える。
問答無用の大独裁者を前にして、死のリアリズムが一気に襲ってくる。
僕は、その死刑台へのランウェイへ、まもなく、自ら進み出て行かなくてはならないのだ!
『さ、次は本日の目玉! 滅多にない出物でございます!』
ぎゃぁぁー! 僕の番だ!
『とある匿名貴族様からの出品で……珍品中の珍品、うら若きエルフ女にございます!』
行け、舞台に出ろ、とオークションの世話役から背中を押される。
ああもう! 観念するしかないのか?
客席を覗くと、賢王がVIP席から身を乗り出さんばかりに舞台を凝視しているじゃないか!
アカン! 一発でバレるぞ!
薄暗いバックヤードならまだしも、眩いステージへ出てしまったら!
どうする?
どうしたらいい?
僕は一体、どうしたら?




