第六章 大反撃! 大賢者のプランB - 5
毎度毎度、素晴らしい解決策(※ただし、前提条件が鬼畜)という策を提示してくる大賢者キコンデネル。
今度の「クーデタープランB」には、『エルエルフのリマンシール』なる超激レアシールが必要とのこと……
中古ジャンクショップの常連であるキィロが、朝から晩までディグリまくりで探しても、全然みつかならない……
どうするどうなる、クーデター計画!?
今回もまた、計画は頓挫してしまうのか?
そして朝が来た。
今日を逃せば、俺たちに明日はない。
明日には凄絶な斬首祭りが開催されてしまう。
『大賢者のプランB』、決行するならば、二十四時間以内に決断を下さねばならない。
やるか――――やらないか。
「とはいえ……」
計画の最後のピースである【エルエルフのリマンシール】、未だキィロから入手の報はない。
最も重要な一欠片が欠けている。
このままゴーサインを出しても失敗は確定的だ。
計画を強行したところで、オークションのエルフは「偽物だ!」と即座に見破られ、賢王には再び安全圏へ逃げ込まれる。
哀れ、クーデター計画は頓挫の憂き目に。アンセーの大獄も予定通りに執行され――
聖ミラビリスの歴史に血の惨劇を刻むこととなる。
「くそっ!」
このまま指を咥えて見ていることしかできないのか!? 僕らは!
他の準備は整っている!
細工は流々、仕上げを御覧じろ! と誇れるくらい「プランB」のお膳立ては済んだのに!
――あとひとつ!
肝心の要素だけが足りない!
「見切り発車なんか、させられるかよ……」
失敗が確定的なプロジェクトにゴーサインを出すなど、そんな無責任なことが出来るものか!
僕は上司だぞ?
部下の犬死など見過ごせるものか!
見込みがないプロジェクトは、僕が止めなくちゃいけない。
誰かが「それでもやる!」と抗ったとしても、僕が宥めないといけない。
それが上司の責任だもの。
(頼むぞ、キィロ……君の吉報だけが頼りだ……)
「今日は具合が悪い」と、魔法ビジョンで登城中止を王城の執事へ伝えた。
そして娼館『石神井』のVIPルームに籠もり、キコンデネル&少尉と共に吉報を持つ。
十時、
十一時、
正午、
濃いめのルームサービスも、味がしない。
機械的にスプーンを口に運びながら、ピリピリ待機する僕ら。
一時、
二時、
少尉は居ても立っても居られず部屋中を歩き回り、掃除と料理と剣の素振りを交互にやり始め、
キコンデネルは唐突に、ビヤ樽サイズの壺で賢者の秘薬を作り始める。
僕は延々とソリティアを繰り返す。
三者三様、気ばかりが焦って、もはや何をしていいのか!
そして三時、
四時、
(――――もう限界だ!)
ジャンクショップの店舗群が閉まるまで、あと一時間。もはや新規の入荷も見込めまい。
前近代は、日没と共に街が終業を迎えるのだ。
告げねばならない。タイムアップを。
プランBの【死刑宣告】を僕が部下へ伝えねば。
それが、上司の務めだ。
言いたくなくても僕が言わなきゃ。
今まで懸命に用意した準備が全て水の泡になるんだ。
その無念さを慮りつつ、だがハッキリ伝えなくてはいけない。
「少尉、キコンデネル…………残念だけど、この計画は…………」
「「いやだ!」」
即答された。
上司のメンツ、丸潰れである。
「ここで諦めないで、陛下!」
「キィロは、必ずヤる女じゃ! 必ず! キィロならば成し遂げるぞな!」
「だけど……」
もう時間切れだ。
「これ以上、計画を進めても……成功の見込みは……」
「陛下!」「男爵殿!」
「は、はいぃぃ!」
「ここで諦めたらキコンデネルのお爺ちゃんを助けられないのよ!」
「うっ!」
それを言われると立つ瀬がない。
だけど、この状況でゴーサインを出したら自殺行為に等しい。成功確率は限りなくゼロに近い。
いいのか?
確実に失敗すると分かってて、それでもやるのか?
「「やる!!!!」」
の気合で満ちていた。少尉とキコンデネルは。
ああ、確かに、確かに君たちは僕の部下だ。
【デスマーチにハマるに決まってる】プロジェクトでも、一旦取り掛かったら最後、進め一億火の玉だ、二十四時間働けますかの精神で突っ走る社畜体質。
それでこそジャパニーズビジネスマンの真骨頂じゃないか!
グリューエン少尉、キコンデネル……
見事に、二人は「僕の部下」らしく染まってた。
「…………分かったよ……」
部下が社畜の暗黒面に堕ちたのなら、それを看取るのも上司の務め。
駄目なら駄目で、僕が腹を切るしかない。
文字通りの『HARAKIRI』を賢王の御前で披露することになるが!(泣




