表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/97

第六章 大反撃! 大賢者のプランB - 1

「フッフッフ……大賢者の秘策にはプランBがあるんじゃぁー!」

「「「な! なんだってー!」」」


 敵を騙すには、まず味方から。

 いやいや、それはおかしい。

 ビジネスマンは情報共有が命! 報連相は社会人の嗜み!

 なのに、僕の部下は平然とそんなことを言い出す。

 ああ、悲しき異世界上司。


 で、結局キコンデネル、そのプランBとは何なのよ?


 大賢者のプランB、発動宣言から数日後…………

 日に日に迫る「サンジョー河原大処刑フェス」に、帝都中が浮足立つ最中……

 その空気を一気に覆す、凶暴な【前座】が空から舞い降りた!



「空を見ろ!」

「鳥だ!」

「飛行機だ!」

「いや、災厄の龍だ!」


 帝都から早馬で一時間の山城、そこを新たな根城にしていた災厄の龍(※本当は守護龍のカジャグーグー)さん、

 監視の兵を置き去りにして、ものの数分で帝都上空へと襲来した。


 本人(本龍)は「諍い事は大嫌い。人間と仲良くしたい」と語る平和主義者だが、

 そんな彼(彼女?)の心根を知る者は、この帝都に四人しかいない。

 僕とキィロと少尉とキコンデネル、無謀な災竜退治プロジェクトから生還した僕らだけが、彼(彼女?)の気持ちを理解する。


 残りの帝都民、数十万人は誰も知らない。



 そもそも、「アーシュラー男爵なる素性の怪しい下級貴族の竜退治」プロジェクトは、賢王フラムドパシオンの命によって有耶無耶にされちゃったからね。

 『アーシュラー、そんなのどうでもいいから【本業】を果たせ』という雇用主の命令で、僕は強引に影武者業務へと即日配置転換されてしまった。

 なので災厄の龍さんが、その汚名を晴らす機会も失われ……宙ぶらりんのまま放置プレイ。

 山城での待機が続いていた。



 つまり、帝都の市民にとっては、龍が来た! =龍災で焼かれる! という認識のままなのだ。


 当然、大混乱に陥る帝都・エスケンデレヤ。

 前回・前々回の襲来(前回=ウェンツェルザイラー採石場からエルフ村へ石材を輸送中、帝都上空を横切った時、前々回=「自分は災厄の龍ではありません」というチラシを空から撒いた時)は肩透かしに終わったが、

 ズガーン!

 今回の災厄の龍は再び春の襲来地へ降り立ち、完成間近の『ノイエボタニシャーガーヘン』を粉砕した!



「こんなことやってる場合じゃねぇ!」

 『アンセー獄長王(フラムドパシオン)』の意を汲み、苛烈な粛清ゲシュタポと化していた憲兵隊や近衛兵団も、【龍災】となれば話は別。


 先遣の騎馬隊同士が大通りで出合えば、

「我ら近衛は王城側を!」

「了解! では憲兵は町人街側を!」

 阿吽の呼吸で配置が決まる。上の指示など待たず、現場指揮官の判断で。


 もちろん相手は攻城兵器すら効かない巨大災龍、

 駆逐どころか、降りた龍を包囲する程度のことしか出来ないのだが……


 それでも、

「帝都エスケンデレヤのつわものは!」

「龍の盾!」

 己が命に代えても、果たすべき使命やくめがある。

 それが帝都守備隊一人一人に刻まれた本能であった。

 龍の襲来には全ての仕事をなげうってでも龍に立ち向かう。

 それが帝都守備兵の矜持きょうじである。憲兵であろうが近衛であろうが関係ない。

 常に【龍という災害】を肌身に感じて育つ、帝都民のDNAなのだ。



「災龍の様子はどうだ?」

「不気味なくらい静かです……」

 ドラゴンブレスの威力と射程を鑑み、遮蔽物の影から睨み合う兵隊と巨大龍。


「よし、龍の停滞を確認、と王城へ連絡」

「はっ」

 龍災は通常、龍が暴れる時期と、停滞する時期を繰り返す。

「災龍の野郎め、今回はヤケに大人しいじゃないか……」

 建物ひとつ壊しただけで停滞期に入った龍に、少々訝しげな兵も居たが、

「バカ、油断するな。気を抜いたら一発で昇天だ」

 大半は気を緩めることなく、巨大な【災厄】に身構えていた。


 ☆ ☆


 一方その頃、グリューエン少尉は王城で演舞を行っていた。

 演武ではない。演舞である。


 王国の公式行事では、将軍位の末席に列せられるものの、

 一兵の手駒もなく、幕僚も居らず、宮廷内に将軍の椅子すらも存在しない。

 彼女にあるのは肩書と――【生贄の使命】だけだ。

 それが征竜鎮撫将軍という存在である。


「人間二十年~、下天の内をくらぶれば~、夢幻の如くなり~」


 白装束のグリューエン・フォン・ポラールシュテルン少尉、

 エスケンデレヤ王城内の能舞台で舞い踊る。

 軍人とはいえ元々貴族のお嬢様、その演舞は歴代将軍中でも群を抜いて可憐であった。


 列席した軍、教会関係者、官僚らは【捧げもの】となる彼女の舞を厳粛に見届ける。

 もちろん征竜鎮撫将軍の命と引き換えに災龍が怒りを収める、そんな保証はどこにもない。帝都に留まるも出ていくも、龍の機嫌次第だ。


 龍は人智の及ばぬ【災害】に等しい存在だと、皆が知っている。

 だがそれでも、人は救いを求める。

 『ここまで我々も犠牲を払ったのだから、その見返りがあってもいい。あるべきなのだ』

 古今東西、生贄という行為に付与される願いは、そんなものだろう。

 人は因果律を信じたくてたまらない生き物なのだ。

 理由なき理不尽を許容できぬ。

 艱難辛苦には起こるべくして起こった「理由」があり、その原因を除けば事態は必ず好転する。

 対価を支払えばそれに見合った見返りを得られるはずだ。

 そう人は信じたいのだ。

 だからこそ生贄という【呪術】が連綿と息づいてきたのだ。



「王国の興廃、この一戦にあり!」

 おー! えいえいおー!

 僕の陣触れに応じ、軍人らが気勢を上げる!

 おー! えいえいおー!

 つれて列席者全員が拳を突き上げる中、白装束の少尉は戦馬にまたがり、

「第五十代征竜鎮撫将軍 グリューエン・フォン・ポラールシュテルン少尉、征竜鎮撫――――いざ参る!」

 ただ一騎の護衛すら伴わず、王城を出立した。



 兵たちが固唾を飲んで見守る中、巨大龍へ挑む少尉。手には馬上槍一本。

 あんな槍じゃ鱗の一枚すら剥ぎ取れないよ。

 これから立ち向かう龍に比べたら、あまりに脆弱――まさに象と蟻のごとし。

 皆が、馬ごと消し炭となる生贄(少尉)を覚悟した。


 ぶわり、ぶわり……


 迫り来る少尉の気配を察知した災厄の龍、

 降りかかる火の粉は払わねば、とばかりに腔内で溜めた火炎を吹きつける!


 ぎょわぁぁー!


 あ、死ぬ。

 これは死ぬ。

 業火で炭化した肉体は、人の面影すら残らぬ。

 そんな予感にさいなまれるほどの巨大な火炎弾ファイアブレスだった!

たぶん、そういうツッコミもくるんだろうな、と思って用意してたんですが、

すっかり忘れてました、すいません m(_ _)m


エスケンデレヤの人の「飛行機」というものに対する認識は、こんな感じです。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ