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第六章 フラムドパシオン帝 爆殺事件

いくら健太郎が頑張ってプレゼンしても、賢王は聞く耳を持ってくれない……その理由は、賢王自身のエゴイスティックな欲望だった!

そりゃ却下されるはずだよ、王様のワガママなんだから!


でも、このままじゃラタトゥイーユさんは絶対に解放されない。


一念発起した健太郎と仲間たちが採った行動とは……?

「賢王様――例の者(・・・)が参っておりますが……」

「苦しゅうない。通せ」


 エスケンデレヤ王城本丸天守閣。

 そこは聖域だった。

 原則として、影武者や貴族が立ち入れるのは、本丸御殿の謁見の間まで。

 それ以上の「奥」へは、【本物の】賢王フラムドパシオンと、王より随伴の許しをたまわった者しか踏み込めない。まさに禁断の領域である。


 そんな禁断区へ招かれた「彼女」は――フッサフサの耳と尻尾がトレードマークの亜人種。

 ツアコンダクターを装い、影武者の監視を任務としてきたアサシンだった。


 彼女の手には、錦の風呂敷で包まれた木箱が抱かれている。

 大きさは、そう……大玉のスイカかボーリング球が入るほどの。

 そして箱からは非常に鼻を突く臭い……キツい香木でも誤魔化せないほどのヘモグロビンの臭いが漂った。「斬りたてホヤホヤ」の活きの良さが、鼻で察せられる。

 そんな箱の内容は推して知るべし、である。


「陛下……監視対象【参】が、新後宮『ノイエボタニシャーガーヘン』へ忍び込もうと企んでおりましたゆえ、始末しました」

 とアサシンは「箱」を「雇い主(賢王)」へ差し出す。


「大儀である」

 ところが賢王フラムドパシオン、箱に興味を示すこともなく、その「結果」を了とした。


「下がるがよい」

 本来、大将自身が改めてこそ首実検セレモニーは成立するものだが……

「確かめずともよろしいですか?」

「断末魔に歪んだ【自分の首】など、見飽きたわ」


 そう…………賢王にとって影武者(異世界召喚者)は使い捨ての駒。

 ありふれた捨て駒に感傷など抱きようもないのだ。


「召喚者など、いくらでも代わりがいる」

 そううそぶきながら、賢王は玉璽ぎょくじを慈しむように撫で回す。

「なんなら一人、二人喚んでみせるか? 亜人種のアサシンよ?」

「…………」

「――玉璽召喚式、異世界人召喚!」

 キラン!

 王が手にした国璽こくじの底、魔術回路から空間に歪みが……!


「陛下――お戯れを」

 子供の目をした王を、宰相がたしなめる。


「分かっておる、宰相マキビよ。べばんだで、説明が面倒なのじゃ」

 王は玉璽ぎょくじを撫でながら嘆く。

「召喚者に毎度毎度同じ説明をせねばならん……どうにかならんか宰相マキビ? 朕はツアコンではないぞ?」

「賢王様自身が【そのお姿で】説明なさるからこそ、説得力が生まれますゆえ」

 確かに【自分と瓜二つの人相を持つ者】なら、突然の異世界召喚者に対しても、『貴様は平行世界から喚ばれた、もう一人の自分なのだ』という立場を納得させる最適解だ。


「それにしても面倒なことよ、召喚の度に同じ説明を繰り返すのは」

「平にご容赦を、陛下」

「なら、いっそのこと一度に百人、召喚できぬか?」

「それでは監視が行き届きませぬゆえ」

 駄々をこねる賢王に宰相は冷静に応える。


「ふぅむ……そち、そなた亜人種のアサシン――名を何と申す?」

「トランキーロ・バッファローワンと申します」

「このトランキーロに匹敵するほどの優秀なアサシンは、希か」

 不埒ふらちな召喚者を見事始末したアサシンを、改めて王は讃える。

「もったいなきお言葉」

「アサシン・バッファローワン、【次】も任すぞ。一両日中に【新しき朕】の召喚があろう」

「御意」



「では、これにて」

 直々に次期召喚者監視の任を請けたキィロ、【首実検の箱】を残し、退出する。

「では私も新たな召喚儀式の手配に取り掛かりますので」

 続いて宰相も、王の私室を後にした。



 一人、部屋に残った賢王は、

「箱は地下の【焼き場】にて処理させよ」

「御意」

 アサシン(キィロ)が持参した箱の中身を確かめることなく、小姓に処分を命じた。

 漂う血生臭さを早く追い出せ、とばかりに。


 ――しかし、


 ドサリ!


 木箱を抱えた小姓が……不意に倒れた!

 何の前触れもなく、二、三歩踏み出したところで突然!

「王を守護せよ!」

 衛兵たちは即座に身構える!

 昏倒の原因が小姓自身の病であれば、それはそれでよし。

 もしも主上おかみを狙う敵襲なれば、己が身をていしてで御護り奉る。

 各々が剣を構え、王を囲むように陣形を採るも……


 バタリ! ドサリ!

 小姓の後を追うように、次々に衛兵も倒れていく!

 瞬く間に五人六人と、兵士がすべもなく。


「やりおったな、アサシンめ……」

 そこでようやく昏倒者続出の原因が知れた――春霞のごとく、曇りゆく室内の景色で。

 毒だ。

 アサシンが持参した【裏切り者(ケンタロウ)の首級】はフェイク。

 箱の中身は獣の血と――致死量数十人分の毒素が詰まっていた。


「トロイの木馬とは小癪こしゃくな……」

 毒々しい紫の粒子漂う中、ただ一人だけ、平然とたたずむ男。


 王である。

 衛兵たちが泡を吹いて痙攣する中、賢王フラムドパシオンだけが無事だった。


「誰の差し金だ? ギヨーム公か?」

 不死身の賢王が、苦虫を噛み潰しながら「箱」を改めると……



 ズガガガーン!!!!


挿絵(By みてみん)



 その煙は――帝都エスケンデレヤの、あらゆる場所から望めたという。

 子供であっても老婆であっても、すぐに理解した。

 王の宮殿は襲われたのだ。これは王国を揺るがす大事件なのだ。

 たなびく白煙に狼狽える者、王朝の終焉を嘆き悲む者…………城下は嘆きに包まれた。



 ――ところが!


『偉大なる聖ミラビリス王国の臣民どもよ! 朕は、恙無つつがなし!』


 爆発から小一時間も経たぬうちに、

 エスケンデレヤ城下各所の魔法ビジョンに、王の姿が生中継された。


『賊の侵入を許し、あまつさえ破壊工作まで為さしめたこと、誠に遺憾であるが……れど朕は安泰である!』

『これもひとえに、聖ミラビリス女神の加護、守護龍カジャグーグーの恩寵おんちょうである!』

『帝都エスケンデレヤは女神と龍に護られし都! よこしまなる企み、決して叶わぬ!』

 王城のワンフロアが吹き飛ぶほどの爆発にも関わらず、玉体ぎょくたいには傷一つなく……

 毅然とした演説で臣民を鼓舞した。

 まさに「王」の威風堂々で。



「「「「王は健在なり! 王は健在なり!」」」」

「「「「ヴィヴ・ラ・エスケンデレヤ! ヴィヴ・ラ・ミラビリス!」」」」


 寸前まで「KONOYO NO OWARIだ!」と天を仰いでいた帝都民、

 一転、歓喜の渦が沸き起こる!


しこうして、賊の蛮行を許したまふ、これみな朕が不徳の致す処である!』

『拠ってここに、徳政を発布するものとする!』

 ウォォー!

『並びに、民を慰労するため、朕の名に於いて、くらべ馬大会も執り行う!』

 ウォォォォォー!


 泣いたカラスがもう笑った。

 賢王の爆殺に狼狽え、浮足立っていた臣民が嘘のように歓喜した。

 帝都民(この人たち)のパーリーピーポーっぷりは、娯楽に飢えているからだ。

 あらゆる娯楽が溢れまくっている現代(僕らの世界)とは対照的だ。


 だからこそ、為政者が民を懐柔しやすい。

 まさにパンとサーカスの世界。

 災い転じて福となす――王は『詫び石』の使いどころをわきまえている。

 一番嬉しいところで飴を大放出するから「ユーザー」の忠誠は高まるのだ。

 まさに「賢い王」の異名に相応しい。


 しかも『競べ馬の大会』とくれば、賭け事が付きものだ。

 抜け目ない宰相、胴元として公式な賭場を開くつもりのようだ。

 回収する気満々じゃないか、民からカネを。徳政令で浮いた金を。

 その競馬で回収された金はどうなるか?

 そんなの僕でも分かる。

 金貸し業者へ還流されて、徳政令の補填となるんだ。適度に中抜きを施されて。


 汚い!

 大人汚い!


 と糾弾する資格が僕に有るのか?


 この「偽善」演説をしている張本人(ぼく)が、この暗殺未遂事件の首謀者なんだよ?

 【賢王爆殺】を企画したプロジェクトリーダーは僕だ。

 いかに大賢者の案とはいえ、僕がゴーサインを出したのだ。

 僕が責任者なんだ。


 何食わぬ顔で影武者の仕事を全うしている僕が。

 それを思えば――恐ろしくねじれてる。

 笑えないシュールさだよ。全てを知ってる者からすれば。


 そんな罪悪感に苛まれながらも僕は、宰相の原稿を一字一句(たが)えることなく読み、魔法カメラに向かって王を演じ続けた。


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