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第五章 王は人の心が分からぬ - 2 (BLアウトブレイク・カンパニー)

蟻の這い出る隙もない、ギチギチスケジュールの王様ライフ、

そんな中で影武者・健太郎は一計を案じる。


それは、仲間の協力なしには叶えることが出来ない「お願い」だったのだが……


果たして「不義理をやらかしてしまった上司」に、かつての部下たちは靡いてくれるのか?

覚悟を決めて健太郎が向かった場所とは……


「この度は陛下の行幸をたまわり、このポラールシュテルン、栄華の極みにございます」


 選帝侯会議にて、晴れて第五十代征竜鎮撫将軍に推挙されたグリューエン・フォン・ポラールシュテルン少尉、

 早速、王立市民文化会館で「第一回同類誌即売会 ~BLのゆうべ~」を主催した。

 高級士官の『お茶会』は王の天覧が慣例なので、当然、(影武者)が赴く。


 会場は盛況、出展サークルはビッグサイト東館のワンホールくらいか?

 総サークル数、四桁は行くんじゃない?

 こんなにも大量の異世界腐女子が、今までアンダーグラウンドで活動していたのか……

 BL愛、恐るべし……

 ようやく日の目を見ることができた異世界腐女子(彼女たち)の笑顔、輝いてるよ!


 ま、中でも最高に輝いているのはこの子だけどな。

「で、ポラールシュテルン将軍、この『びーえる』とは何か?」

「ビューティフルラブの略称にございます、陛下」

 おうおうボーイズラブだろ、西高のリューエ先生よ!


 ――とは言わないでおく。なにせ少尉は王様()アーシュラー爵()だと、まだ気づいていないだろうから。

 仮面を取った僕の素顔、グリューエン少尉は見たことがなかったはずだ。


「陛下、こちらへ」

 少尉は、僕を出来るだけ『無難(※露出が少ない)』な方向へ僕を誘導しようとするが……

「む、あの人だかりは人気作の並びか?」

 案内も構わず勝手に歩き回る。


「あ! あ! 陛下そちらは! あ~れ~!」

 はっはっは僕は王様だ。

 僕の進路を遮るなど、小娘少尉ごときが不敬である!

 慌てふためく少尉を振り切って、男の裸が乱舞する淫靡ゾーンへ踏み込むぞ!

 な~にが「ビューティフルラブ」だよ? BLはボーイとボーイが組んず解れつだろうが!


 と、勝手気ままな王様ムーブで少尉を翻弄していると、

「……お」

 とあるサークルスペース前で……どこかで見覚えがある、小さな女の子が、

 色眼鏡とマスクで人相を隠した自称大賢者が、熱心に「同類誌」を読んでいた。


「面白い?」

 と彼女(自称大賢者)へ尋ねれば、

「過激、ちょー過激」

 と薄い本を手渡された。

「さすが西高のリューエ先生……同類フレンズも感涙の過激度じゃ」

 彼女の指摘通り、耽美な美青年たちがフルカラー表紙を跋扈ばっこしている。

「アッー! アッー! 陛下ッ! 陛下、おたわむれを! 陛下! 陛下ァッー!」

 青い顔で過激BL同類誌を遮ろうとするグリューエン少尉、

 面白いから、このまま観察してたいところだけど……王様のスケジュール的に、愚図愚図していられないのだ。


「少尉、僕だよ僕」

 彼女の耳元でコソッと囁きつつ、懐から骨仮面をチラリ。

 まだ僕が偽貴族だった頃、人相隠しのために着用していた面を。

「えっ? アーシュラー爵が陛下だったの!?」

「しっー! 声が大きい! 少尉!」



 ☆ ☆ 



 西高のリューエ先生のサークルスペース「CUT A FISH」前で、並んで見本誌を読むフリの、僕と少尉とキコンデネル。

 護衛の兵士には聴こえない程度の小声で、これまでの僕の顛末を説明した。


「黙っててゴメン」

 言えなかった言葉をようやく言えた。肩の荷が降りたよ。


「別に謝らなくていいわ……王の影武者なんて国防上の最高機密でしょ? そんなの迂闊に喋れないわよ……」

 さすが、腐っても軍関係者。グリューエン少尉は話が分かる。

「男爵殿はニセ貴族から王の影武者へ転身、そのせいで自由を失ったというワケじゃな?」

「そうなんだよ。今まで何の連絡も出来なくて申し訳な……」

「ワシは何も心配しとらんかったがの。『不死身の輿水』を名乗るならば、どこぞで生き延びていると思っとっ……」

「にょほほほほほほほ……」

 ――どしたの少尉?

 即売会で性癖大当たりの同類誌を発見した時みたいな笑い方して?


「いやぁ……あんたにも見せたかったわ、キコンデネル(この子)、あんたが死んだって聞かされた時、号泣よ号泣!」

「リューエ!」

 顔真っ赤にして怒るキコンデネル。図星だったの?


(でも意外だな……)

 キコンデネルは賢者らしいドライな性格かと思ったら……僕のために泣いてくれたのか?


グリューエン少尉(こいつ)だって泣いてたんじゃからな! メソメソメソメソ! もう同類誌描けない、即売会も止める、とか泣き言ばっかりじゃったからな!」

「う、うるさーい、ネルのくせに!」


 ま、少尉はそういう子だよ。己の感情に正直で裏表がない。

 そんな真っ直ぐなとこが僕は気に入っている。


「ほんとゴメン。ずっと謝りたかったんだ……」

 二人からしてみれば、プロジェクトの途中でバックレた無責任上司だ、僕は。

 いくら責められても仕方ない、と覚悟してきたんだけど……


「いいんじゃ男爵殿」

「『結果良ければ全て良し』でしょ? 『シャチク』とかいう職業クラスには?」

 何のわだかまりもない笑顔を向けてくれる。

 少尉もキコンデネルも。


「ありがとう、ふたりとも」

 僅かでも、共に死地を潜り抜けた仲間――かけがえのない戦友のよしみ。

 そう僕を認めてくれる二人には、感謝してもしきれないよ。

 なんだか無性に泣けてくる。


「……陛下」

 BL漫画を読みながら泣きそうになってる僕に、護衛の兵士から怪訝そうな目を向けられたが、

「拙作を斯様かようにお褒め頂き、有難き幸せにございます、陛下!」

 ナイスフォロー、少尉。

 君には助けられてばかりだよ、ホントに。


(そうだ!)

 メソメソ泣いている場合じゃない。

 僕が同類誌即売会(ここ)へ来た目的を果たさねば。


「少尉、キコンデネル……実は二人に頼みたいことがあるんだ」

「……頼み事?」

如何いかなる?」

「それは……」


 一筋縄では行かないことだ。

 込み入った事情を抱えた案件だ。

 もしかしたら、危ない橋を渡ることになるかもしれないよ?


 少尉とキコンデネルに対して、僕は眼差しで伝えた。


「断ってくれてもいい」

 少尉は念願の征竜鎮撫将軍に就任したばかりで、キコンデネルは幼い。

 無理強いなんて出来るはずもない。


「もし、それでも僕を助けてくれるなら……」


 そんな、ためらいがちな言葉を遮り、

「なぁ~に、他人行儀なこと言ってんのよ?」

「お伺いなど要らん、ワシと男爵殿の仲じゃろ?」

「あの無謀な龍退治に比べたら、大概のことは些事さじよ、些事さじ

「少尉……キコンデネル……」


「私たちに何をさせたいの?」

「何をすればええんじゃが?」

 何の迷いもなく要請を請けてくれる少尉とキコンデネル――


「将軍! BLとは斯くも泣けてくるものか?」

 と大袈裟に叫んで、僕は涙を誤魔化した。

 パシャパシャ!

 シャッターチャンスとばかりに、魔術式カメラで感極まった王を撮る、瓦版の取材陣。

 これで腐女子趣味も市民権を得ることになるだろう。王のお墨付きを以って。


 でも、良かった。

 少尉とキコンデネルが仲間で本当に良かった。

 こんな仲間を得られただけでも僕は、異世界へ転生してきた甲斐がある。

 心から、そう思った。


注) エスケンデレヤ王城内では朝から晩まで密着警護してくれるキィロですが、

不特定多数の目がある公共の場では、近衛の正規兵による警護が優先され、

警護団の序列が最下位となるキィロは、めっちゃ片隅で見守っています。


キィロ、ツアコンなので。旅行代理店から派遣された。

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