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第五章 王様のベットは回転ベット - 2

エルフ村の耐火年貢倉庫のことやら、

龍の帝都入城やら、

相談すべきことはたくさんあったはずなのに……


気がついたら、「お前の番だぞ?」と影武者就任を迫られた健太郎。

影武者に成れば成ったで、次々と襲ってくるアサシン、

毒物ばかり差し入れてくる貴族ども……


もう大変!

王様大変!


果たして健太郎の行く末や、如何に?

「こんな状況じゃ、影武者が何人いても足りなくならないか?」

 朝から晩まで、気の休まる暇がない。()の命を狙う不届き者ばかりで。


「ケンタロウさまは、私がお守りします」

 王専属の従者として、文字通り四六時中、傍に侍ってくれるキィロ。ありがたい……

 これまでも、地下闘技場で竜に襲われたり、イゼルロンの谷で落下しかけたり、峠越えの天気急変で凍死しかけたり……彼女のお陰で命拾いしたことは何度も何度もあったけど、


「マジで、頼りにしているよキィロ」

 今回は過去の比じゃない。明らかに【狙われている】立場なのだ、僕は。

 キィロに護衛されていなければ、僕もトカマクやギネスの二の舞だったよ。早々に廃用スクラップドの憂き目に遭っていた。王(※本物)との雇用契約期間満了を待たずに。

 元の世界への帰還も叶わずに、デッドエンドだったろう。



 でも……

 キィロの密着警護は、彼女自身を縛る、という意味でもある。

 つまりそれは……

 不慮の死を遂げた【ことになっている】僕の事情を、少尉とキコンデネルへ伝えることも出来ないってことだ。

 他の人には頼めない機密事項なのに。影武者の情報なんて絶対に漏らしてはいけないトップシークレットだ。


(だけどこれじゃ、勝手にデスマーチから失踪した無責任上司じゃないか、僕は)

 社畜としての最低限の筋も通さぬ、人でなし野郎のバックレ方だ。

(二人には本当に申し訳ないよ……)


 それに守護龍カジャグーグーのことも気になるよ。

 今も廃れた山城に籠もってる(元)災厄の龍と、僕は約束したんだ。

 襲われる危険のないねぐらを提供してあげると。

 約束を破ったら、また彼(彼女?)は人間不信で帝都を焼くかもしれない。

 それじゃ災厄の龍に逆戻りだ。

 折角、二百年ぶりに人と和解できる機会を得られたというのに……


 ――どうにかしてあげたい!


 噴火で年貢が払えなくなったエルフ村の、ラタトゥイーユさんを身請けしてあげたい。

 座敷牢へ幽閉されたトゥルデルニーク嬢を助けてあげたい。

 守護龍カジャグーグーから「災龍」の汚名をすすいであげたい。


 なのに、今の僕は雁字搦がんじがらめだ!


 宮廷行事や御前会議、視察、陳情の謁見と分刻みのスケジュールでミッシリ。

 専制国家の王とはくも多忙なものなのか?

 権力が王へ集中しているが故に決裁事項も山ほど降り掛かってくる。

 こりゃ後醍醐天皇も親政を投げ出すわ!

 帝王親政ヤバい!

 いくら有能な為政者でも多忙で擦り切れてしまうよ!

(最悪の労働環境だ、これ!)

 ニッポンの現役社畜()をして、そう言わしめるのだから、相当だ!

 ブラックにも程がある!


 そしてその状況を更にヤバくしているのは、【僕には何の裁量権もない】という現実。

 影武者なんだから当然といえば当然だが……

 実際の政治は本物の賢王と宰相が採り仕切るため、完全に僕はお飾り。

 謁見の間で、長々とした報告と、阿諛追従あゆついしょうの美辞麗句を延々と聞かされ、

「大儀である」

 を返すだけの御役目。

 それだけで面会者は大満足で帰ってく。


「こんな状況があと数ヶ月も続くのかと思うと、頭がおかしくなりそうだ!」

「……代われるものならば代わってあげたいところですが……」

 ご愁傷様ですとかしこまるキィロ。

 これは王様と瓜二つの顔を持つ僕にしか出来ない影武者(役目)だからね……


 ――しかしながら。


 フラムドパシオン帝と見分けがつかないほど瓜二つなんだから、

(ちょっとくらい、いいよね?)

 こっそりリープフラウミルヒ村の年貢免除の書類にサインしようとしたら、


「ダメです♪」

 目敏めざとい宰相に発見され、ゴミ箱へポイ。


「公平な税制こそ、まつりごと要諦ようてい。基本中の基本です」

 どの国も財務を握る役職が最もケチ、と相場が決まってるが、それは異世界でも同じだった。



 そんな宰相(財務責任者)を覆せる人は、彼だけだ。

「やはり賢王陛下に頼むしか……」

 結局のところ最高決定権者(賢王)の御聖断を頂くしか現況を変える手段は存在しない、ってことだけど……


「なのに時間がない!」

 朝から晩までスケジュールみっちりで、休憩も自由時間もゼロ。王様は超多忙!

 これじゃニセ貴族時代より状況が悪化してる!


 まずって『会いに行ける王様システム』が猛烈に時間を食う。

 連日、捌ききれないほどの長蛇の列が王様()を待っている。

 そりゃ王様に直訴の機会を得られるんだ、我も彼もとワンチャンに賭ける輩が並ぶのは当然だ。

 開明的ではある。

 無茶苦茶、聞く耳を持った王様の制度ではある。

 だが!!!!

「我関せずで、影武者()へ丸投げとか!」

 無責任にも程がある! 賢王陛下!

「……いいご身分ですね……」

 まぁ王様だけどな! 専制国家で一番偉い身分だけど!


 しかし『王様が開明的である』とは、いいことばかりじゃない。

 急進的であるが故に軋轢あつれきも避けられないのが世の常。

 特に、領民を衆愚として生かさず殺さずの統治を進めてきた諸侯にとっては、開明策で無駄に知恵をつけた民が煙たくて仕方がない。

 「寝た子を起こすな」が領主らの本音――彼らにとって、賢王は迷惑千万の王だった。

 日常的に命を狙われる原因は、おそらくその辺りにも起因している。

 自分に不都合な統治実態を、前出の制度で王様にチクられるのも相当なストレスに違いない。



 一方で「開明施策」という飴を与えられた民衆も、不満を抱えていた。


「これは……」

「徴税に応じられなかった村のリストですね」

 報告として上がってきた書類には、差し出された人身御供の名が掲載されていた。

 A4サイズ程度の紙にビッシリ。

 火山噴火に遭ったリープフラウミルヒ村は勿論のこと、

「こっちは、この春、龍災で街を焼かれた区画です。これは台風で水害を被った地域……」

 自然災害などを考慮されることもなく、公平の美名の元で徴税は苛烈を極める。

「情け容赦なし、かよ……」

 そういう事情が書類から読み取れた。


 【リープフラウミルヒ村の悲劇】はの地に限ったことではない。

 王国全土に蔓延はびこっていたのだ!


 ――この聖ミラビリス王国は――

 表向き、賢王の開明施策で「進歩的な国」として周辺国から一目置かれるが、

 実態は……屋台骨がきしみ始めている。

 お飾りとはいえ、自分が【王】という立場に立つことで、身にみて状況が理解できた。

 『賢王が治める賢き国』はハリボテだ。

 舵に修正を与えないと、遅かれ早かれ行き詰まる――聖ミラビリス丸は座礁する。


 と『初心者王様』の僕でも理解できたのに――


「どうして王は見て見ぬフリなのか?」


 と王様(フラムドパシオン帝)へ問い質したくとも……考えてみたら、影武者就任以来、僕は一度も王(※本物)と会えていなかった。


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