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第五章 王様のベットは回転ベット - 1

帝都守備の近衛・憲兵両軍と睨み合いになってしまった健太郎率いる第十三征竜師団(実質、輿水健太郎探検隊)、

どうにもならない八方塞がりの状況を打破するため、健太郎自身が賢王への直談判を試みたものの……


図らずも、話は大きくねじ曲がる。


龍の処遇とエルフ村の倉庫と囚われのラタトゥイーユさんの問題を話し合いに行ったのに、

結果として、

「王にさせられてしまった」


何を言っているか分からねぇだろうが、前話を読めば事情は分かるぜ!(cvジャン・ピエール・ポルナレフさん)

 王様の朝は早い。

 日の出と共に起床し、待ち構えた主治医の検診を受ける。

 毎日、念入りに体を診て貰えるのに、どうしてトカマクやギネスは急死の憂き目に遭うのだ?


 そんな疑問も、すぐに解消されることになる。



 ☆ ☆


 時は数時間、巻き戻る。


 草木も眠る丑三つ時――王の寝室にて。

 「(影武者)」として迎える最初の夜。


 金箔や黒漆が贅沢にあしらわれた格天井ごうてんじょうには、豪華絢爛な画が描かれ……

 あれは始祖王カルストンライト王の伝説だろうか?

 龍を退治する戦士の図柄だった。

 名馬に跨り、巨大な龍へ突貫する大将軍、そして彼に率いられた征竜旅団の精鋭たち。


(僕らも龍に挑んだんだよな……)


 あまりにも慌ただしい環境の変化で、既に僕らの龍退治も、遠い過去に思える。

 実際は一週間も経っていないのに。


 こんな雄大な絵画みたいに格好良くはなかったけど……

(グリューエン少尉……キコンデネル……)

 彼女たちに事情を伝える間もなく「(影武者)」に就任させられてしまった。

 共に龍退治へ赴いてくれた仲間たちには、せめて一言、感謝を述べてから(死んではいないが)死にたかった。


 なんと居心地の悪い夜だろう。

 これが現代なら、LINEやメールで即座に謝意を伝えられるのに……

 歯痒いし、申し訳ない……


 と、眠れない夜を過ごしていたら、

「…………ん?」

 天井の絵が動いた?

 将軍に従う兵士の一人が動いた? ……気がする……


 目を擦って二度見してみると……ん? さっきとポーズが違う?

(そんなことってある?)


 再び固く目を閉じて数秒、改めて該当箇所を凝視してみると……

 ポーズが違う……ような気がする……いや、単なる錯覚だろうか?


 もう一回、目を閉じて数秒……まぶたを開ければ、


「は????」

 気のせいじゃなかった!

 王の軍勢の一員として描かれてた兵士が、持ち場を離れてる!

 天井画から抜け出した【モブ兵士】は、

 まるで風呂場の天井から落ちる水滴のごとく――――急降下してきた!

 まさに、寝ている僕に向かって!


「お命頂戴!」


 手には短剣を構え――捨て身の急降下アサシンダイブ


(刺される!)

 たとえ急所を外したところで、猛烈な落下速度が僕を痛めつける!

 そこで動けなくなったところを奴はメッタ刺しだ!

 僕! 万事休す!


 バタン!


 ところが僕は瞬時に「安全地帯」へ!

 物理的「退避行動」で。


 王のベットは回転ベット。

 でも回転方向は水平とは異なり――頭頂から爪先に軸回転!

 背骨と平行に通った軸で一気に回転する!

 まるで忍者屋敷の隠し扉だ!

 そんな珍妙ベットは、もちろん曲者対策に決まってる。


 僕と背中合わせで、ベットの裏側に潜んでいたキィロが、強引にポジションチェンジ!

「成敗!」

 真上の敵へ、即座に迎撃体制!

「セヤッ!」

 長槍の先を天井へ向ける!


 となれば自由落下のスパイダーマンに逃げ場なし!

 自分の体重に落下速度を足した威力で、迎撃の槍に貫かれる!


「ぐはっ!」


 ☆ ☆ 


「ねぇ、キィロ……」

「はい?」

「もしかして、寝所の天井が高いのは――このため?」

 天井から攻撃されても、避ける時間的余裕を作るため?

「はい」

 即答だ……

 というか何故そんなことを知ってるのよ、キィロは?

 異世界ツアーコンダクターの基礎知識なの?


「ケンタロウ様、こちらへ」

 血で汚れた部屋は長居無用、とばかりにキィロは別の寝室へ僕を案内する。

 今まで寝ていた部屋と瓜二つの「王の寝室」へ。


「それでは、おやすみなさい」

 二度目のおやすみなさいを告げて、キィロは僕のベットの下へ潜り込んでいった。


 てか君は、いつ寝ているんだい?



 ☆ ☆



 起床後、健康診断が済めば、朝食の時間となるが……


 バタン!


 僕の目の前で毒見役が倒れていく。


 なのに誰も慌てふためく様子もなく。


「失礼致しました」

 粗相の皿を片付けるかの如く、虫の息の毒見役が退場させられていく。

 使用人たちは平然と、日常茶飯事の落ち着きで。


「………………………………………………」

 呆然と、それを見送るのは僕くらいなものだ……


「本日の食事はお口に合いませんか? ケンタロウ様?」

「この状況で食欲湧く人って、いるの?」


 ストレッチャーとサービスワゴンの見分けもつかないような部屋で。



 ☆ ☆



 食事が済むと、公務である。


 謁見の間に移動し、機嫌伺いの貴族から挨拶を受ける。


「我が所領の特産品にございます。陛下にご賞味頂ければ、それに勝る慶びはございません」

 と貴族が献上品を差し出してくるが、


「…………」

 近くで検分すれば一発だ。

 どうみてもスイセンとかトリカブトです、ありがとうございました。

 ニラでも、ニリンソウでも、モミジガサでも、コジャクでもない。

 似てても僕には分かる。

 リープフラウミルヒ村で仕込まれたからね……キィロとラタトゥイーユさんに、みっちりと。


 でもまさか、その知識が実際に役立つ日が来ようとは……


「我が所領特産の山菜をお持ちしました!」

 多いなキノコ! 毒々しい色の! いかにも食べたら内臓がイカれてしまいそうな柄の!


 貴族や重臣が持参してくる土産は「あわよくば、毒見の目を擦り抜けて王の口に入れ」とでも言わんばかりの毒物揃い!

 想像以上に宮廷内は敵だらけ、な状況が身に染みる。



 つまりは、こういうことだ。


 ――なぜギネスやトカマクは早々に退場させられたか?


 答え : とにかくカジュアルに命を狙われすぎなのだ。


挿絵(By みてみん)


王の寝室、参照画像。

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