第五章 アーシュラー男爵、暁に死す! - 3
賢者の発案「龍を使って耐火石材をエルフの村まで運び、頑丈な倉庫を建てれば、年貢が消失の心配もなくなるよ」プランの完遂まであと一歩!
……のところで、帝都守備隊から「No!!!!」を突きつけられた健太郎一行。
憲兵&近衛の威力偵察軍に取り囲まれ、にっちもさっちもいかなくなってしまった。
「多少、不良貴族ポイントが募ったとしても、もはや王の慈悲に縋るしかない!」と、キィロと共に帝都へ向かった健太郎だったが……
翌日。
エスケンデレヤ王城――謁見の間にて。
「アーシュラー爵、貴様に死を賜る」
「は????」
いきなり死!?
突然の死!?
有無を言わせず断頭台送り????
数えるまでもなく不良貴族ポイント、オーバーフロウですか?
弁明の機会すら、与えてくれないんですか?
OH! 専制国家!
国王の気分一つでダウンさ!
「…………市場で騒ぎが有ったそうだな?」
閻魔大王の断罪から――やおら緊張を解いて、賢王フラムドパシオン、
「アーシュラー爵よ?」
一転、フランクな口調で尋ねてきた。
「あ、はい……」
「いくら貴族であっても、専売市場へ土足で踏み込んだら、返り討ちが関の山よ」
「すいません、知らなかったんです! 僕の落ち度とはいえ……」
死刑は勘弁して下さい死刑は!
「そこで死んだ! バロン・ユングフラウことアーシュラー爵、死亡!」
「は?」
賢王陛下、僕の目前で【アーシュラー】の家名入り貴族証書を破り捨てた。
「はい死んだ。アーシュラー爵、いま死んだ」
穏やかな笑みを浮かべつつ。
「瓦版業者にもリークしておきましたので、明日の一面は決まりでしょう」
王に侍る宰相も、
「『かの冒険王 バロン・ユングフラウ マーケットにて横死す!』」
と僕を「殺した」。
まばゆいほどの笑みを浮かべながら。
「『災厄の龍を手懐け、昆布でボロ儲けを企んだバロン・ユングフラウだったが……専売業者との抗争に巻き込まれ、不慮の死を遂げる』という筋書きじゃ」
桔梗屋と悪巧みする足利義満って、こんな感じだったのか?
と錯覚してしまうほど賢王様、テヘペロな顔で言ってのけた。
「つまり……それって……」
「貴様の異世界バカンスは終いよ、『輿水健太郎』」
ビリビリに裂いた貴族証書の代わりに、賢王が掲げたのは――【契約書】。
この世界へ召喚された時、王の前で僕がサインした「アレ」だった。
――影武者勤務と引き換えに元の世界へ還す――という賢王との約束が記された。
呆けた僕へ宰相、手ずから王冠を載せた。
本物そっくりのレプリカだが――ズッシリした金属感が、重責を象徴するかのような。
「今宵からは、この王城にお住まい下さい、健太郎殿」
つまりは、そういうことだ。
王城・西の丸に住んでいたアーシュラー爵は御役御免、
賢王との「契約」を果たす時が来た、ということだ。
『稼ぎの少ないノンコア業務は撤収し、お得意様相手の本業へ戻れ』――そういう業務命令だ。
社畜的に表現するならば。
――社畜なら上司の命令は絶対。
口答えなどせずに、粛々と従うのが社畜の在るべき姿だ。
でも!
「――計算が合いません! 賢王よ!」
僕が召喚されてから、エルフ村でのんびりとくつろいだり、高原の賢者館を訪れたり、
それなりの異世界ライフを過ごしたけど…………まだ季節は変わらぬまま。
つまり三ヶ月も経っていない。
それなら――まだトカマク(※影武者一号)の受け持ち期間中じゃない?
僕ら召喚者は三人で一年分の任期を分け合う。
拠って、一人あたりの任期は、季節を確実に一つ、跨る。
もしトカマクに何か遭ったとしても、次の順番はギネス(※影武者二号)でしょ?
どうして僕(※影武者三号)にお鉢が回ってくるのよ?
おかしくない?
「ギネスは死んだ」
「え????」
今なんと仰ったか、王よ?
「これに」
神妙な顔の小姓たちが、位牌、遺骨、遺影の三点セットを掲げた。ギネスが召喚された時に着ていた戦闘機乗りのフライトジャケットまで持ち出して。
王は「既にギネスは灰になった」という現実を示す。
嘘だろ?
死んだのか?
ホンの数週間前まで、花街で浮名を流していた元軍人が……
日頃の訓練で鍛え上げた屈強な肉体の持ち主が、誰よりも死にそうにない【僕】が、
(死んだ???? マジで????)
「拠ってアーシュラー爵こと輿水健太郎――貴様が次の王と成れ」
こうして僕は最初の契約通り、ミラビリス王国の「偽王」に就任させられてしまった。




