第一章 週末なにしてますか? 忙しいですか? 案内してもらっていいですか? - 1
超絶インドア社畜マン・輿水健太郎、異世界を行く。
目標も定まったし、さて、お目当てのブツは発見できるかな?
「お疲れ様でした! 目的地に到着しました!」
赤い馬に揺られること、二時間ほど……
植生も疎らな森の、小高い丘の上にやってきた。
(なんだここ?)
元々は鬱蒼とした森に覆われてた丘陵を、適度に間引いて雰囲気を作った、みたいな……
浦安サンダーマウンテンっぽい人工的な荒れ地感が伝わってくる。
作りが稚拙な「自然派動物園」とでもいうか……
事情が読めない僕に、
「どっちがよろしいですか?」
まるで添乗員さん、機内食の「ビーフオアチキン」みたいなノリで尋ねてきた。
左手に弓と矢、右手に猛禽類を乗せて。
「は????」
「貴族様は弓が定番ですよね? それとも鷹がお好みですか?」
すまん、添乗員さん。何を言っているのか、よく分からない。
「あ……男爵様は転生者でしたね……すいません。じゃ、先にこっちですね」
『初心者にも狩れる! ゴブリンハンティング入門』
『君にも出来る! ゴブリン無双!』
『かんたん、あんぜん、ゴブリン狩り装備百選 最新版』
添乗員さんに手渡された……イラストで分かりやすく解説してある、ガイド本。
分かりやすいけど、超グロい。
【ここを叩くと楽に殺せる!】みたいな殺ゴブリン術が懇切丁寧に解説してある。
「……添乗員さん、ここってもしかして……」
「『ゴブリンしか出ない森』です」
そう来るか! それが一番人気なのか異世界アミューズメント!
「ご心配には及びませんよ? ほら、だって……」
添乗員さんが指した方向には……スモックの子供たち。
二、三十人の子供たちを保母さんが引率している。
いや、よく見ると、あの園児服、無駄に豪華な刺繍とか施してあるぞ……
金糸銀糸が贅沢にあしらわれた園児服とか初めて見たわ!
しかも一人一人異なる家紋が誇らしげに。
「貴族様の遠足には定番の施設ですし」
「……そうなの?」
「両親からプレゼントされるんです、自分の弓を。貴族の子弟の方は」
ピンクとか水色の「マイボウ」を構えた園児、キャッキャいいながら矢を放つ。
「ギャ!」
あ、当たった。
崖下の小鬼に見事ヒット!
「うまいうま~い!」
引率の先生も笑顔で拍手してる。
「なんというか……運動会の玉入れ感覚……」
レクリエーションとしてゴブリン撃ちを愉しんでる……
「ここは丘の頂上なので、反撃の恐れがない安心崖撃ちスポットなんです」
手慣れた調子で矢狭間を駆使してる園児……シュール……
そこへ、
「そぅれっ!」
屈強な筋肉の男が、何かの肉を崖下へバラ撒く。
撒き餌か? 撒き餌なのか? 幼稚園児のための?
その肉へ目掛け、ルートモブみたいな動きでゴブリンがワッサワサ寄ってきて、
「やをいかけぇ!」
保母さんが号令すると、パステルカラーの矢が雨霰。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる式に、ゴブリン、何匹か血を吹いて絶命する。
で「よくできましたー☆」的な。
確かに弱い。
現実として子供でも倒せる雑魚モブかもしれないが……
「これはちょっと……」
現代日本人の感覚として、生きている動物を狩ることを「ゲーム」と捉えるのは難しい。
幼少のみぎりから、マイライフルでヘラジカを狙う人種とは違う。
レジャー感覚では愉しめないよ……マタギの子孫とか、そういう文化圏でもないし。
「お気に召しませんでしたか?」
想定外なほどに退きまくってる僕を見かねて、添乗員さんがお伺いを立ててきたけど、
「いや、別に添乗員さんのせいじゃないから……」
日本人だって、害獣を殺して喰うのが当たり前の時代もあったとは思うけど……今は違う。
現代日本の優しい世界の感覚では、ちょっとこれはワイルドすぎる。
直接的な殺生はアミューズメントとは齟齬がある。
それだけの話ですよ?
「じゃ、じゃあ次! 次こそは大満足できるスポットですから! 鉄板です!」
添乗員さん……背中に隠したの、アンチョコのガイドブックですよね?
本の厚みが二倍になるほど付箋紙を貼り付けた。
彼女どうやら新米ガイドらしい。一夜漬けの跡を探偵は見逃さないよ?
でも、わざわざ指摘するのは無粋というもの。
優良顧客は見なかったことにするぜ。
「それなら案内頼むよ。添乗員さんに全てお任せで」
「もんじょわ!」