インターミッション - 災龍との対話
災厄の龍の籠もる「龍の巣」へと辿り着いた輿水健太郎探検隊、
「動物会話」のリマンシールで聴いた、彼(彼女?)の身の上話をここに記す。
(※記述者 トランキーロ・バッファローワン)
☆
災厄の龍(※人側の呼称。本人は守護龍・カジャグーグーと名乗る)、
実際に会ってみたら、相当に臆病な性格らしい。
臆病であるが故に、パニックに陥りやすい。自然界ではよくあることだ。
自分は、人間とも仲良くしたい。
でも近寄ろうとすると、彼らは逆に怖がって襲ってくる。
「仕方ないね……こんな図体が目の前に現れたら、誰だって」
体長五十メートルの龍でしょ? そりゃ自衛の本能が目覚めるよ。
「にんげんだもの」
殺されるくらいなら相手を殺す、がサバンナの掟。
というか、あらゆる生物に通用する生への執着だもの。
死の危険が迫れば迫るほど、そうなる。
異世界だろうが現世だろうが何ら変わりない。
大人しく捕食者へ我が身を差し出す生物など存在しないのだ。
捨身飼虎など薩垂王子クラスの聖人しか果たせぬ離れ業だ。
死が迫れば窮鼠とて猫を噛む。
そんな人間の防衛本能が、彼(彼女?)を【災害の龍】に仕立て上げた。
いつの時代も、戦争は相互不理解から産まれる。
なので彼(彼女?)は考えるのをやめた。
森深き山中でひっそり暮らす。
竜族は平和を愛する一族なのだ。
それなのに、人間は――忘れた頃にやってきて、一方的に巣を荒らす。
止めて欲しいのに。
私から酷いことなどしたくはないのに。
黙ってても攻撃される。身包み剥ぐまで許さない! の勢いで。
いつの時代も、人の欲は際限がない。浅ましいほどに強欲が彼女を狙う。
なので仕方なく、人間の「巣」を襲いに行って「いい加減にしろ!」とお灸を据える。
(龍の感覚では)ちょっぴりだけ「巣」を黒焦げにして去る。
すると、人間は懲りたのか、しばらく襲ってこなくなる。
「な、難儀な……」
そんな不毛なことを繰り返してきたのか……
この龍は、守護龍だったはずの彼(彼女)は何百年も。
欲に目が眩んだ人間たちのせいで。
「守護龍カジャグーグー――僕はあなたに安全な塒を与えたい」
「…………」
「そのために――僕と契約して頂けませんか?」
甲(僕)は乙(守護龍)に安全な塒を提供することを約束する。
その代わりに乙(守護龍)は相応の労役をこなし、本契約の満了まで甲(僕)の指示に従うこととする。
その日、異世界史上初めて、人間と龍との間に『契約』が結ばれた。
それは異邦人、輿水健太郎が為した偉大な成果の一つである。
(※トランキーロ・バッファローワン、ここに記す)
☆ ☆
「これで叶うぞ! 『大賢者の解決案』を実行に移せる!」
自称大賢者サラーニー・キコンデネルのエルフ村救済案は、画期的なものだったが……
それを実現するためには、ちょっと有り得ないくらいの高いハードルが聳え立ってた。
だが!
そのハードルも龍の力を借りれば越えられる!
僕らは難題を越えていけるんだ!
☆
「黒辰山都の宅急便、魔城の宅急便、大空魔竜ガイキング…………」
「何を思案しとるがね、男爵殿?」
「いやぁ、これから前代未聞のロジスティクスを披露するんだし。名前を、ね……」
画期的なプロジェクトには格好いい名前を付けてあげたいじゃないの。
「魔城はちょっと……」
「魔竜はないでしょ、魔竜は……」
ところがキィロもグリューエン少尉も首を傾げてる……上司のセンスを疑ってる……
キコンデネルも苦笑いだ。
「じゃ……龍山社中は?」
結局、結社の名前は満場不一致、
『輿水健太郎探検隊 with 守護龍カジャグーグー(仮)』で、お話は進むことになる。




