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第四章 とある令嬢の禁書目録 - 3

グリューエン少尉の回想、その3。


ストーキング軍人だった彼女が、まだ淑女候補生としてお嬢様学園に通っていた頃の話。

親友、トゥルデルニークと離れ離れになってしまった彼女、

果たして、「事件」の後に、少尉が採った行動とは?

 後に【オーガルト茶会事件】と呼ばれた不良生徒の一斉捕縛は――全員の退学で処断された。

 即日、寮を退去させられた私たちは、別れを告げるいとますら与えられず、

 厳重な護衛付きで、故郷の実家へ送還された。


 それぞれのお茶会メンバーが、どうなったのか――私には知る由もない。


 それでもトゥルデルニークだけは……


 『レイヴファクトリー家御令嬢、婚約破棄!』

 式を翌月に控えた貴族の電撃的破談は、憶測が憶測を呼び、帝都の瓦版を賑わせた。


 結果――火遊びの代償は、後悔してもしきれないほど大きかった。



 ※ ※ ※



「え、えええええええ…………」

 その程度ことで、そんな目に遭っちゃうの?


「別にいいじゃんね? BL同人くらいさぁ……好きでしょ女の子って、みんな?」


「「「…………」」」

 え?

 何その珍獣でも視るような目は? キィロ? キコンデネル? グリューエン少尉?


「ケンタロウ様は……なんというか……とても……寛大な方です……」

 キィロは目を丸くして僕を評価する。自慢の尻尾を硬直させたままで。

「男色衆道の好色絵巻など、変態性欲として公言するのもはばられるのに、よくぞ、そこまで言えるものじゃ……とキィロは驚いちょるんじゃよ、男爵殿」


 さ、さいですか……

 そういう風俗社会なのね、この世界は。

 勉強になりますわ、賢者様。


「そんな物笑いの種を身内に抱えてしまったら、あることないこと噂されてしまうじゃろ?」

「…………」

「それでなくとも貴族のゴシップは庶民の娯楽なのじゃからな」


 僕自身、イエロージャーナリズムの被害者として、痛いほど気持ちが分かる。


斯様かような変態性欲趣味が露見した場合……貴族の娘ともなれば、親に軟禁されることも珍しゅうない。連日のように医師や僧侶、占い師の【治療】を施され……」

「…………」

「それでも改善が見られん場合は――座敷牢送りじゃ」


「え、ええええ…………」

 いくら何でもソレはない。やりすぎでしょ?

 そこまでやることないよね? 腐女子趣味くらいでさ……


 ……って思うのは、僕が現代人だからか。

 性嗜好に偏見が無さすぎる現代が異常なのだ、僕らの歴史を振り返ってみても。



「私は! トゥーレを助けたい! 彼女の奪われた人生を取り返してあげたい!」


 分かる。

 気持ちは分かるよグリューエン少尉。

 分かるけれど……も、


「――それが、龍退治と何の関係が?」


 話が繋がってない。論理が断絶してる。

 お嬢様学校を放逐された彼女が、何故軍人になって征竜将軍を目指すのか?


「男爵殿――――【 茶 会 】を主催できるのは上級佐官以上の者だけじゃ」

 だけどキコンデネルは全てを見透かすような口ぶりで、

「あぁ……そういうことですか?」

 賢いキィロも、すぐ察したようだ。


(異邦人)にはサッパリだけどね……)


「ケンタロウ様、【茶会】とは王立文化会館で執り行われる芸術サロンみたいなものです」

「ほう?」

「趣味人の貴族や軍幹部、高級官僚が、自分の趣味を披露する私的文化祭とでもいいますか……先日も芸術家提督と名高い上級大将が絵画展など開催されていました」

「それが一体?」

「基本的に天覧の会となるんですよ。【茶会】は」

「賢王陛下にお目見え頂ければ、その展示内容が『一流である』というお墨付きを得るんじゃ」

「おお……!」


 つまり!

 不当に弾圧される同類誌が、地下マーケットでしか開催されない即売会が、

 ――陽の目を見る!

 後ろ指さされることなく、表舞台で堂々と扱ってもらえる!


 王国の最高権威が芸術と保証すれば、座敷牢で囲われてしまっている貴族の子女も――

「晴れて解き放たれる!」

 大逆転だぞ! 一種の概念的レヴォリューションじゃないか!


「だが、問題は……少尉が茶会の主催権利を得る頃には、お婆ちゃんじゃ」

「上級佐官への出世過程をスキップするには、何らかの裏技でも使わないと……」


 それでなくとも賢王の治世下、不断の外交努力で平和が保たれている。

 裏を返せば【軍人が手柄を立てる機会を奪われている】ということでもある。

 乱世の訪れ無くして、軍人の大出世ジャンプアップは望めない。

 秀吉だってナポレオンだってくすぶったまま終わる。



「な、なるほど……そうだったのか……」

 だからこの子は、なりふり構わず将軍位を僕(※王様と勘違いして)へ要求してきたのか……

 (※第一章 参照)

 首尾よく就任したところで、運が悪ければ明日死んでしまうかもしれない職だと知りながら、

 窮地の親友を想って……征竜鎮撫将軍位を切望した、と。


「でも、ダメだった……ポラールシュテルン家秘伝のリマンシールも龍には通じなかった……」

 大粒の涙をポロポロこぼして、少尉は嘆く。

 己の非力が罪だとでも言わんばかりに、自らを責める。


 確かに無謀な企てだったのかもしれない。帝都を震え上がらせる災龍の討伐なんて。


 だけど……だけどさ!

 女の幸せを奪われた友を助けたい! って気持ちは本物じゃん!

 親友のためなら強引な直訴だって猪突猛進の竜退治だっていとわない――

 その心意気は見上げたもんだよ、グリューエン少尉!


「男爵、キィロ、賢者殿。こんなバカな私につきあってくれて! ……本当にありがとう!」

 もはや夢も希望も枯れ果てた……脱力の泣き顔で少尉は、


「夜が明けたなら、あたし……一人で龍へ挑みます」

 軍人として、指揮官としてケジメをつける意思を表明した。


 だけど――


「――バカヤロウ!」

「キャッ!」

 無意識に体が動いてた。

 自暴自棄の軍人さんをいさめるべく、僕は彼女の頬を打ってしまってた。


 突拍子もない僕の行動にキィロもキコンデネルも硬直しちゃってる。


「あっ……ごめん。でも言わせてくれ!」

 謝罪なら後で幾らでもする。

 だけど、彼女の間違った衝動は、殴ってでも止めないといけないと直感したのだ。


「この輿水健太郎探検隊は! ――デスマーチの愚連隊だぞ!」

 第十三征竜旅団が霧散霧消した今、実質このPTは僕の探検隊に等しい。

 僕が本件の開発責任者プロジェクトリーダーだ!


「実際には死なないからデスマーチだろうが! 死んだら、ただのデスだろ!」

 そうだ、我ら被雇用者「怪我と弁当、自分持ち」!

 死んでから労災が降りても何の意味もないんだ!

 死ぬとか言うな!

 死んだら、もう仕事も出来ないんだぞ?(※ワーカホリック特有の、かたよった思考)


「僕は絶対死なない! ――――お前ら(部下たち)も死なせない!」

 生きているだけで丸儲け(=月給が出る)だ! 社畜最大の利点を自ら放棄してどうする?


「それが社畜の心意気じゃーい!」

 友達思いの女の子をむざむざ無駄死させてたまるか!


「僕は、不死身の輿水だ!」

 災厄のドラゴン・ディアボリカがナンボのもんじゃい!

「「もんじょわー!!」」

 僕の勢いに釣られるように、キィロとキコンデネルも気勢を上げてた。



 王国主催の同類誌展示即売会を開ければ、権威(王室)のお墨付きが得られるんだな?

 ならば、やってやろうじゃないか!

 諦めなければプロジェクトは終わらない。僕が諦めなければ頓挫とんざしない!

(※経営者に夜逃げされなければ)

 往生際が悪いのがデスマーチの担いプレイヤーだぞ!


 ただ、囚われの美少女が二人に増えただけじゃないか!(※デスマ社員特有のザル計算)

 やってやるさ!

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