第四章 デスマーチからはじまる龍退治狂想曲 - 4
超最新式リマンシール【ポラールシュテルン・アンチ・ファイアー】に絶対の自信を持つ、グリューエン少尉。
秘蔵の宝石を売却してまで、用意した百枚単位のリマンシール。
「これだけ用意すれば、龍のファイアブレスなど恐るるに足らず!」と豪語する。
はてさて、彼女の「秘密兵器」は、どれだけ龍を苦しめることが出来るのか?
目論見通りに龍退治は叶うのか?
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
「ああ、やっぱり……」
分かってましたよ、僕、体験者だし。
安全圏の高台から千里眼のリマンシールで戦況を眺める、僕とキィロとキコンデネル。
この距離から見ても、災厄の龍はデカかった。
さすが、帝都民を心胆寒からしめる暴威の龍!
(ああ異世界だ。これはどう考えても異世界だ)
地下闘技場で見たレッドス・ネーク・ドラゴン、あれはそこまで狂ったサイズじゃない。
象やキリンの大きさを思えば、平行世界ならば存在しててもおかしくないかな? とも思える。
生存環境さえ整っていれば。大型の爬虫類として。
だが【災龍】は桁が違う。
鉱山採掘の超大型重機が、意思を持って暴れているようなド迫力じゃないか!
あれは無理だよ、人が生身で太刀打ちできる範囲を超えている。完全に。
立体機動装置でも用いなければ、武器が急所に触れることも出来ない。
だが……
欲に目が眩んだ人間には、可能に見えるらしい。
(※自称)次期征龍鎮撫将軍、グリューエン・フォン・ポラールシュテルン率いる第十三征竜旅団、腕っぷし自慢の荒くれ者が二百名ほど、
グリューエン少尉ご自慢の新型耐熱リマンシールを貼って、果敢な一斉攻撃を試みる!
「ありゃあ欠陥品じゃき」
賢者様、一発で見抜いてました。ポラールシュテルン製 新型耐熱リマンシールの欠点を。
魔術シンジケートが伝来技術の粋を集めて造り上げた魔術回路は、レッドス・ネーク・ドラゴンの十倍もの火力をも凌げる優れモノ。
――ところが!
熱は防げても風圧は防げない、という致命的欠陥まで引き継いでいた。
「そもそもリマンシールとは、誰でも使えるという利点と引き換えに、単機能が原則じゃ」
よって炎熱と風圧、両方への同時対処は叶わない。
「「「「「ぎゃあああああああああああああ!!!!」」」」」
レッドス・ネークがUSB接続のミニ扇風機なら、災龍のブレスは業務用の大型サーキュレーター。
一吹きで十人以上の荒くれ者どもが、数百メートル先の原生林まで吹っ飛ばされる。
猛き者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。ナムナム。
「もう一つ。一枚貼るごとに、一度の効果。それも全てのリマンシールに共通する欠点じゃ」
何らかの遮蔽物に隠れて風圧をやりすごしたとしても、油断はできない。
魔術回路の効能が発揮されるのは一度きり。
間髪入れずに次のシールを用意できなければ、かなりの確率でヴァルハラへの片道切符となる。
勿論、予備のシールが尽きれば、そこで運の尽き。
こうして――
初日にして、ポラールシュテルン少尉麾下第十三征竜旅団は壊滅した。




