第四章 デスマーチからはじまる龍退治狂想曲 - 3
いよいよ以って退路を断たれてしまった健太郎一行。
何が何でも竜退治に向かわされるという、地獄のようなミッションに、彼らは如何に立ち向かうのか?
そりゃ僕だって、出来れば龍を倒したい。
だけど、先立つものが何もないのです……
数週間後、
いよいよ旅立ちの時は訪れた。
例の「官製パレード」で宰相が約束してくれた通り、
僕らのために、王様から兵隊が貸し与えられることになった。
その名も『国王直属 第十三征竜旅団』。
特殊能力も、強大な魔術も、現代兵器も持たない僕には、その兵力が最後の望みだったのだが……
「こ、これが『国王直属』?」
胡散臭い人相の男1「拙者、来月まで一千万ほど返さないと、一家心中ですわ」
胡散臭い人相の男2「吾輩なんか三千万よ!」
胡散臭い人相の男3「私も運転資金がショートして首が回らないんですよ、ハッハッハ」
胡散臭い人相の男4「僕、FXで溶かした預金を取り戻さないと離婚されちゃうんですよ!」
な、なに借金自慢してんだ、こいつら?
パラメーターで表現するなら、[ 忠誠 10 政治 3 武力 33 知略 50(※ただし悪巧みに限る) ] みたいな奴らばかりです!
と思えば、ものすごいタトゥーの強面が!
「ちぃーと「組」から追われとってな……まぁ腕の方は任せとき!」
こっちはもう [ 忠誠 0 政治 5 武力 66 知略 10 ] ぐらいにしか見えないぞ!
確かに腕っぷしは強そうだけど、どう考えても土壇場で裏切りそうな人材よ!
全員が真新しい鎧兜を身に着けているものの……どう見ても人相と話題が軍人のソレじゃない!
てか、武具が新品同様ってことは、ちゃんとした訓練も受けてないんじゃないの?
「い、いかにも急場しのぎで掻き集めた人材、って感じですね……」
キィロも開いた口が塞がらない様子。
そりゃ誰だって不安になる、こんな奴らばかりじゃ!
数にして百名程度の遠征部隊、
【 災厄の龍を前にして、死をも厭わぬ勇兵揃い 】は高望みだとしても、それなりの兵隊を貸し与えてくれるのかと思ったら!
「出征祝賀パレード」の表と裏。
賢王&宰相の僕に対する期待値が透けて見える……
王や宰相、貴族たち、そして数千人の帝都民が見守る中、王立軍の儀仗兵が高らかに叫ぶ。
「グリューエン・フォン・ポラールシュテルン少尉、並びにアーシュラー爵!」
ばしゃーん! どしゃぁーん!
「両名の武運長久を願って!」
盛大な銅鑼の音と派手な空砲に見送られ、意気揚々、龍の巣を目指す第十三征竜旅団。
スターダストクルセイダースならぬドラゴンクルセイダーズ、帝都エスケンデレヤの正門から、堂々出立!
ところが……『旅団』の体を成していたのは、そこまでだった。
行軍すること半日、
最初の関所を抜けると……姿は一変!
王より支給された武具・防具一式は全て売却され、小汚い盗賊団にしか見えない隊列に!
山賊雇って悪事を企む悪徳貴族だよ、これじゃ!
「アーシュラー男爵殿」
「あ、はい」
「我々はここで」
関所まで先導してくれた近衛兵団も帝都へお帰りである。
いくら賢王フラムドパシオンの後援を得ているとは言っても、
わざわざ死にに行くような冒険に、虎の子の近衛兵団が貸し与えられるワケがない。
「どうか、ご武運を」
そう挨拶した近衛団長の目には、憐憫の色が浮かんでいた。
大言壮語の夢物語を餌に、政治利用される捨て駒――
彼の目には、僕が間抜けなピエロに見えているんだろうな……
ほぼゴロツキの旅団兵1「龍の鱗は高値で売れるんだろ? 一年は遊んで暮らせるか?」
ほぼゴロツキの旅団兵2「竜の逆鱗なら一生だぞ? 一生カネに困らない!」
ほぼゴロツキの旅団兵3「竜の爪も結構な値が付くらしいな! ウヒヒヒヒヒヒヒ!」
第十三征竜旅団の構成員に、本気で龍を倒せると考えている者は一人もいない。
いや、あれだけ出征を祝ってくれた帝都の臣民ですら、一パーセントもいないんじゃない?
僕が龍を討伐できると信じている人は。
あの路地裏のお婆ちゃんくらいかな?
だって、ギヨーム公ですら見送りの列でニコニコ笑顔だったじゃないか。
もしこの龍退治が成功したら、最も不利益を被るのは彼なのに。
莫大な私費を投じて『我こそ次期征竜鎮撫将軍!』とアピールしたパレードが無駄になるのに。
なのに妨害工作など一度も被ることもなく、僕らは拍手で送り出された。
万が一にも成功の見込みがない遠征と思われているんだ……
ギヨーム公に限らず、大半の帝都民には――『目立ちたがり屋の貴族が、無謀極まりない冒険に酔っている』と捉えられている。内心では。
後援者たる王の前では、公言が憚られるだけで。
馬鹿な貴族を肴にして、旨い酒が呑めればそれでいいんだ。
虚報まみれの瓦版片手にゲラゲラと笑いながら。
「まさに捨て駒か……」
「嘲笑いたい奴には嘲笑わせておけばええんじゃ」
キコンデネルは飄々と言ってのけた。
「男爵殿が【 龍を制す 】ことが出来れば、皆に大威張り出来るじゃろう?」
「まぁ、確かに……」
キコンデネルの策――『龍の力を借りて、ウェンツェルザイラー採石場から超巨大な石材をリープフラウミルヒ村まで輸送する』が叶えば、ラタトゥイーユさんの解放に繋がる。
火山噴火を被っても焼失しない頑丈な穀物庫、という強力なカードを取引材料に出来る。
規則一点張りの宰相だって、説得できるかもしれない。
懸案事項を一挙に解決できる可能性があるんだ、この遠征の結果次第では。
だけど!
肝心の戦力が!
王様から貸し与えられた兵隊が、こんな有様では……
こいつらは!
龍の巣に転がってる希少素材(レア物)を如何に拝借するか――それしか頭にない。
一攫千金で人生大逆転を狙う、ハイエナギャンブラーばかりだ。
僕らの世界なら、豪華客船で限定ジャンケンでも強いられるような人種ばかり。
お宝を確保できたら、即、逃亡されるに決まってる!
(こんな軍隊で龍退治?)
小規模な農民一揆ですら鎮圧できそうもないんですけど?
「大丈夫よアーシュラー爵」
僕と並んで馬に乗るグリューエン少尉、余裕綽々の笑みを浮かべ、
「この新型リマンシールなら、ね!」
マジシャンの手際で扇状に開いたリマンシールは、トランプ一式の枚数。
それも両手に。
「ま~だまだ、たんまりとあるからね~」
いったい何枚用意してきたんだ?
「だ、大丈夫なんですか? グリューエン少尉……?」
僕の馬を牽くキィロは顔面蒼白、
「キィロ? そんなに驚くことなの?」
「だってだってケンタロウ様! 最新式の魔術回路をプリントしたシールですよ? 生成に、どれだけの希少素材が必要か!」
少尉の「扇」を指すキィロの指はプルプルと震えてる。
リマンシールマニアのキィロからすると、今のグリューエン少尉は札束を見せびらかしているように見えるのか……「だうだ 明るくなつたらう」的なスーパー成金像に。
「まぁ、ポラールシュテルン家秘蔵の宝石を売っ払ったのは痛かったけど……少しばかり……」
その辺は若干、笑いが引きつる少尉。相当の出費だと窺い知れる。
「――――でもね! そんなことを言ってる場合じゃないのよ!」
「このグリューエン・フォン・ポラールシュテルン、一世一代の大勝負なの! 今がその時よ!」
馬上のグリューエン少尉、鐙から立ち上がって、力説だ!
「有り金、全ツッパで賭けるしかない戦いなのよ!」
くわっ!
「我が兵ども!」
|ポラールシュテルン旅団長閣下《グリューエン少尉》、「はじめての配下」へ檄を飛ばす。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」と見紛うほどの勢いで。
「この超最新式リマンシール【ポラールシュテルン・アンチ・ファイアー】を駆使すれば、災龍、恐るるに足らず!」
うぉー!
「このグリューエン・フォン・ポラールシュテルンが、ここに約束する! 災龍討伐に際し、拾得した竜の爪も鱗も逆鱗も、拾った者にくれてやる! 宝玉すら思いのままよ!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
旅団長直々のお墨付きに、だらけきっていた山賊集団も沸騰!
『戦利品獲り放題』の公認は、ゴロツキどもの士気を大いに駆り立てた。
「だから精々、働きなさい! この次期征龍鎮撫将軍のために!」




