第四章 龍と選挙とチョコレート - 3 帝都エスケンデレヤの秘密
謎の軍服少女との追っかけっこの末、健太郎は見てしまった、帝都エスケンデレヤの裏側を。
違法カジノや花街どころじゃない、【エスケンデレヤの秘密】
それは一体、なんなのか?
「なんなのコレ?」
まるでツングースカ級の隕石でも落ちてきたかのような、凄まじい被災ぶり。
繁栄を謳歌する帝都の都市城郭内で、ここだけが不自然に荒れ果てている。
「なに寝惚けたこと言ってるの? 龍災の痕でしょ?」
「【龍災】?」
「今年の春先、四年ぶりに襲来があったでしょ? 災龍の」
「……龍???? 四年ぶり?」
まさかこの軍服ストーカー少女、この廃墟は龍の仕業とでも言いたいの?
被災の規模から鑑みて、レッドス・ネークみたいなサイズでは起こり得ないよ。
まるで隕石のクレーターみたいな【着弾点】から推測するに、小型の龍とは比べ物にならないほどの巨大火球が撃ち込まれた痕でしょ? これ?
クレーターの角度から言って、火球は空からだ。羽根を持つ何かから「空爆」された穴だ。
あたかもゴジラ級の大型龍が人の領域へ踏み込んで、大暴れしていく――
そんな【災害】を被ったとでも言いたいのか? 軍服ちゃんは?
「じゃあ、アレは誰がやったって言うの?」
軍服ちゃん、廃墟となった街の「先」を指し示す。
帝都エスケンデレヤは外敵に備えて、高さ数十メートルもの壁で囲われた都市だ。
高い所から遠くを見渡せば、視線は城壁に突き当たる。
はず、なのに……
「外!」
ポッカリと空いた城壁の穴から、外が見える!
しかも、この距離でハッキリと確認できる穴ってことは……相当のデカさだ。
僕の背丈を優に越える大穴――しかも穴の縁は真っ黒に焼け焦げてる。
【高熱の何か】に穿たれた大穴……
レッドス・ネークの火球すら比べ物にならないほどの大きさの……
「あの高さの壁に水平射撃で大穴を……【誰】が空けられるの?」
「……そんな、まさか……」
これが…………これが、この世界の現実なのか?
☆ ☆
初めて見た【龍災】の現場――その圧倒的な迫力に、僕は足元も覚束なくなってしまい……
貧血患者と看護婦さんみたいな体勢でヨロヨロと現場を離れた。
うう……情けない……
「エスケンデレヤの民にとって、龍は【災害】なの。前触れもなく降りかかる【災厄】。数年から数十年に一度、不規則な間隔で帝都へ襲来し――無慈悲な破壊を遺して去っていく」
と、僕に肩を貸す軍服彼女が説明してくれた。
「龍の襲撃間隔、機嫌が収まるまでの日数、どの程度まで帝都を焼き尽くすか――それこそ、王立龍観測所も匙を投げるほど、予測不能。小悪党の捨て台詞程度で去っていく時もあれば、延々と街に居座り続け、帝都の何割かを灰燼に帰す大災害もあったと聞くわ」
現代なら地震や台風並みに、人為の及ばぬ「天変地異」なのか……
来ない時は全然来ないが――忘れた頃にやってくる。
まさに【災害】だ。
てことは――――この帝都エスケンデレヤが、そんな潜在的危険に晒された都だとしたら――
過敏なほど、王がセキュリティを気にかけている理由にも、合点がいく。
帝都は聖ミラビリス王国の中枢。
帝都が龍に襲われているタイミングで、もし他国から侵略を受けてしまったら……
関所という緊急弁がなければ……
この国自体が一気に瓦解しかねない。
☆ ☆
「あなた……やっぱり王様じゃないのね……」
今頃、気が付きましたか? 軍服少女さん?
「【龍災】のことも知らない帝都民なんて居るはずがないもの」
「ご納得頂けて幸いです」
「てことは何なの、あなたは? そのナリは貴族でしょ? どう見ても?」
「まぁ一応……」
休眠家名を借り受けただけのニセ貴族ですが。
「なのに【龍災】を知らないって……相当の田舎者? あるいは他国から招かれたVIP?」
「どちらかというと後……」
ドシャーン!
衝撃的な被災現場から繁華街へ戻ってきたところで……激しく鳴り響く銅鑼の音!
僕らの会話すら中断するほどの大音量で。
バチバチバチバチ!
と思えば、道端では爆竹が跳ねる!
そっちでもこっちでもバチバチ跳ねる!
「なんだなんだ?」
何が始まるんだ?
普段から騒がしい繁華街だけど、今日は何か特別な「セレモニー」の期待感が漂っている。
ちょうど祭りの日なのかな?
「来たぞぉー!」
ワッと歓声が上がる。
何事か? と人だかりの方を覗き込んでみれば……
「うおっっ!」
――――建物の影から【巨大な物体】が!
「龍!」




