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第四章 龍と選挙とチョコレート - 1

苦労の末、辿り着いた賢者の里――そこで授かった「知恵」。

事前に思ったのとは少し違ったけど、これで難攻不落の賢王も説得できるはず! と喜び勇んで帝都へ戻ってきたアーシュラー爵こと輿水健太郎一行。


果たして今度こそ、王の勅許おゆるしは貰えるのか?

囚われのエルフ、ラタトゥイーユさんを解放してあげられるのか?


事の次第や、如何に?


挿絵(By みてみん)

「却下☆」


 即答である。

 今回も、賢王プラムドパシオンは容赦ない。

 自信満々で臨んだプレゼンテーションも、一瞬でリジェクトである。


 謁見の間に「残念賞」の空気が流れる。

 あれだ、仮装大賞で合格ラインに届かなかった時の会場の溜め息。


「なんでですか!」

 某中日ドラゴンズの投手でなくとも、九回二失点の何がアカンのですか! と当たり散らしたくなるってもんですよ。こんな塩対応は!

 いくら王様とはいえ! いくらこっちが名ばかりの泡沫(名ばかり)貴族だとしても!


「税の不公平感を是正する、建設的な提案じゃないですか! この提案の何が気に入らな……」

 プレゼン用に準備した、頑丈倉庫の絵図面をバンバン叩いて不満をあらわにしても、


対火山弾用頑丈倉庫それ、まず誰が作るんですか?」

「――うっ!」

 賢そうに見えて本当に賢い宰相が真正面から切り込んできた! ――言葉の刃で!


「ウェンツェルザイラー石の耐火性が、災害にも十分に耐え得るものだとして……リープフラウミルヒ村の年貢を収蔵する倉庫は誰が施工なさるのですか?」

「作る以上は掛かるよね?」

 王様、OKサインでコストを強調する。つまりはゼニです。


「ぐぐぐ……」

 そうなのだ。

 この問題は分かっていたことだ。

 既に、サラーニーの酒場で着ぶくれ少女とディスカッションした時から分かってた。

 着ぶくれ少女=キコンデネルに指摘され、僕らも把握していた問題点だ。


 ウェンツェルザイラー採石場とリープフラウミルヒ村は、この帝都エスケンデレヤを挟んで反対の位置にあり、往来には十三箇所もの関所を経ねばならず――

 当然、その通行税は莫大なものになってしまう。

 相当量の石材を運ぶんだから、人足代だって馬鹿にならないよ。

 それら諸々、蔵の建設に掛かる費用負担は、泡沫貴族個人では賄い切れない。誰が考えても。


 あわよくば王様=王国財政の負担で作ってもらえないかな?

 ……とかいう甘い考えも、ものの見事にハネられてしまった。


 世の中、そんなに甘くない。

 異世界だって甘くない。


 「これ必要経費で落とせます?」的なお伺いは、まずハネられると思った方がいい。

 経理部にかかれば、使途の怪しげな経費は悪である。

 そんなものを提出しようものなら、地獄の門番並みの鉄壁ガードで不許可印が返される。

 そういう人種なのだ、経理担当とは。

 この聖ミラビリス王国に於いては宰相が、財布の紐をキツく握り締めている。

 『あれば便利なことは分かってるけど、(財政的に)なくても困らないもの』は、悪なのだ、財政担当者(経理)にとっては。



(しかし! ――――こんなこともあろうかと!)


「もう一つ……大変重要な提案がございます、賢王陛下!」


 予め、僕は腹案をしたためていたんですよ! フフフ……そう何度も言い負かされっぱなしじゃいられませんからね。【僕】と【僕】の対決なら本来は五分のはず!


「許す爵。申してみよ」


 王の寛大に恭しく礼で応え――深々と深呼吸。

 余裕綽々(しゃくしゃく)の王と宰相へ、とっておきの隠し玉を放った!


「この際です――王国から関所を撤廃しませんか?」


 絶句。


 賢王フラムドパシオンも、宰相も、王の傍に侍る小姓たちも、世話役の宮廷女子、右筆ゆうひつの書生やら近衛の衛兵まで、謁見の間に列する全員が息を呑む。


 どうだ!

 参ったか、僕の腹案に!

 全員が「そんなこと考えもしなかった」と目を丸くしているじゃないか!

 ガハハ勝ったな!

 ディスカッションやプレゼンテーションでは、【ペースを握る】ことは重要な戦術。

 たとえそれがハッタリでも、意外性の一撃が場の流れを奪うんだ!

 社畜にだって必殺技の一つや二つはある!


「ここで少々、僕の世界の話を披露させて頂くこと、お許し願いたい」

 不気味なほど静まり返った謁見の間で、僕は主導権を握った。


「その昔、僕の世界には織田信長なる君主がおりまして……」

 もはや気分は新型iPhoneを発表する壇上のスティーヴ・ジョブズ。

「当時、千々に乱れた諸国では、諸勢力が好き勝手に関所を作って税を徴収しておったのです」

 一挙手一投足に注目を浴びる中、当社比十倍くらいのイケメン笑顔でスピーチする。

「そんな中、信長は自らの支配地から関所を撤廃し、人の交流や流通を促進させた。そのお蔭で彼の国は他国の追随を許さぬ経済大国として発展し、その富をベースにした強兵策で戦国乱世の統一を成し遂げたんですよ!」

 気持ちwiiiiiii!

 心の中でテキサスロングホーンを叫ぶ。

「関所の撤廃こそ英名な君主が為すべき施策なのです!」


 どうよ?

 こんどこそ論破でしょ!

 いかに賢きフラムドパシオンでも、天下の織田信長には反論できまい!


「…………アーシュラー爵よ?」

「なんですか陛下? なんでもお尋ね下さい! 楽市楽座でも兵農分離でも!」

 信長の野望・全国版から革新、創造、大志まで遊び尽くしたこの輿水健太郎、信長の政策なら何でも熟知してますから!


「そのノブナガなる王……部下に殺されてはいまいか?」

「は!?!?」

 なななな何で知ってるの? どうして異世界人が本能寺の変を????


「ご存知なんですか陛下!?!? 織田信長を!」

 第六天魔王の名は異世界までとどろき渡るほどメジャーなの?


「やはりか」

「やはり?」

「いくら強き王とて、結局は人よ。兵を預けた部下が叛意を抱けば、容易に討ち取られよう」

 賢王! 僕の話の断片的情報から、そこまで推察してまったというのか?

「関所がない、とは常にその危険性をはらむ」

 あ、侮りがたし賢王フラムドパシオン……やはりこの王様、ただものじゃない!


「アーシュラー爵よ」

 腹案(秘密兵器)を砕かれ、茫然自失ぼうぜんじしつの僕に王は告ぐ。


「王とは秩序の要石よ――この世界には」

「…………」

「もし王が不意に倒されたならば、内乱は必至」


 前近代では――

 成熟した民主主義社会ならば流す必要がない血が、大量に流れる。権力交代期には。

 それは僕らの歴史でも繰り返されてきた、ありきたりの王朝交代だ。


「そのノブナガとやらも、謀反の後、家臣同士が血で血を洗う抗争を始めたじゃろ?」

「お、仰る通りで……」


「そういうものなのです爵。王が治める世界は、王が盤石で在ってこそ平和が保たれる」

 王に侍る美形の宰相も、穏やかに僕を否定する。

「爵の仰られる経済振興ももっとも。国が富めば皆が喜ぶ」

「…………」

「しかし、王の安泰は全臣民に累が及ぶ安全保障事項なのです」

 優しく諭してくれる宰相に、僕は反論も出来なかった。


 王なき世界(内乱状態)の世情不安で、最も被害を受けやすいのは庶民(弱い人々)だもの。

 招かざるべき事態だ、誰が考えても!



「だからこその影武者おまえたちでもあるのだ――――なぁ爵よ?」

連休なので更新してみました☆


続きは何とか……出来るだけ早く……

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