第三章 賢者の孫
いったい、酒場の子は何だったのか?
まるで人体消失マジックみたいに、消えてしまった女の子……
彼女の正体とは?
翌日。
『賢き者の期限日』
どんな難題でも、引き伸ばしには限度がある。
必ず四日目には答を顧客に伝えなければならない。それが賢者業界の慣習らしい。
「よくおいでなすった、アーシュラー爵」
その日、再び賢者の館を訪ねた僕とキィロだったが……正直あまり期待していなかった。
僕らが欲しかった答えは、昨晩、見知らぬ着ぶくれ少女にヒントを授けてもらった。
老賢者が如何なる解決策を披露しようと、僕は彼女の案を採用すると心に決めていた。
だったのだが――――
賢者の答は意外なものだった。
「智慧の女神様の御神託は下された――――但し、儂ではなく、この孫娘へ」
「「えっ????」」
僕とキィロは目を疑った。
だってその子は……老賢者が「孫」と紹介した若い賢者は――昨晩の酒場の子だったからだ!
軽くペンギン体型にも見えた着ぶくれスタイルとは違い、
厳かなローブの彼女は、スラリとした細身の子だった。
「智慧の女神の御神託、それは帝都エスケンデレヤの女神神殿にて詳らかとなるであろう」
サラーニーの老賢者は僕らにそう告げた。
つまり、孫娘を帝都へと連れて行けと? 僕らがエスコートして?
☆ ☆
「達者でな……」
僕らが村を立つ朝、孫を見送る老賢者は、彼女の手を離そうとしなかった。
悲嘆と喜ばしさが綯い交ぜとなったような複雑な表情を浮かべながら……
遠い都会の大学へ孫を送り出す親か、
あるいは輿入れを見送る家族か、
巣立ちへの未練と祝福が交差する、独特の、別れの空気が流れる中、
僕とキィロと賢者の孫は、ヤケに毛深い象二頭に載ってサラーニー村を出立した。
☆ ☆
やがて、僕と着込みすぎ少女がタンデムで乗った壱号と、
キィロが乗る弐号が本格的な峠道へ差し掛かる頃、
「君……賢者の孫だったのか」
僕の背中にしがみつく彼女へ、さりげな~く訊いてみる。
「【かつて】賢者だったお祖父ちゃんの孫、じゃよ」
「えっ?」
「サラーニの賢者館は店じまいじゃ……永久にな……」
寂しげに彼女は呟いた。
もうサラーニーの村は見えないところまで来てしまったけれど……
「言ったじゃろ? 賢者は斜陽産業じゃ。今頃は東屋から看板を降ろしとる頃よ」
まるで彼女は見えているかのように、寂しげな爺の姿を語る。
「爺は、自分の最後の仕事として、孫娘を貴族の私設占い師にでもさせようとしたんじゃろ」
そのために細々と閑古鳥の賢者館を続けてきた、ってのか?
世間から「時代遅れ」と馬鹿にされながらも……ただ孫娘の行く末だけを案じて。
それが「最後の賢者」の幕引きか……
「なぁに、湿っぽくならんでもええんじゃ!」
それでも彼女は畏まるどころか、
「いい機会じゃ! ワシが帝都で一旗揚げちゃるわ! 困り果てた貴族の悩み事を見事解決して、再び賢者が脚光を浴びるのじゃ! 帝都の子供のなりたい職業ナンバーワンに返り咲きじゃ!」
などと、威勢のいい言葉で自分を鼓舞するけど……
「ヌシは大船に乗ったつもりでワシに任せんしゃーい!」
――背に染みてくる涙の粒を僕は忘れない。
「ところで……君の名は?」
見たところまだ中学生か小学生高学年くらいじゃないか?
賢者の孫らしく並外れた知性は感じるけれど……
そんな年齢じゃ、どんな事情であれ家族と離れるのはツラいに決まってる。
だからせめて、今回の件が解決するまで僕が彼女の家族になろう。
そう決めた。
「名前か……」
「僕の名は輿水健太郎――ワケあって王国貴族!」
「私はトランキーロ・バッファローワン――キィロとお呼び下さいね、賢者様」
「わしゃサラーニ村のキコンデネル。聖ミラビリスの賢者業界を再興する、大賢者の卵ぜよ!」
と、いうワケで、第三章おしまいです♪
賢者の孫から授かった妙案で、果たして健太郎とキィロは王様を説得できるのか?
できれば、早めにリリースできれば……




